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生きるか、死ぬか?

悠は壊れかけた表情で、瑞羽とクイナの顔を見上げた。

…無言で彼女らは打ちひしがれた、一人の小さな少女を見下ろしている。

クイナは横に立つ瑞羽を肘で小突き、言う。


「…ねぇ。そろそろ止血してあげなきゃ彼女、死ぬよ。」


…言われて瑞羽は床に視線を移す。

彼女の脳裏に焼き付けられた記憶が蘇る。

それは、短い人生の中でも、最悪の出来事が起こった日。

夕暮れの空が、深い茜色をしていた。

その紅蓮の輝きを思わせる深紅の色に、床は染まっていた。


「…………悠。」


聞こえないように、そっと添えて呟く。

床に座り込む少女、祝原悠は壊された自身の左手と、痛々しい傷が開く左腕に目を落とした。

そして、既に泣き叫ぶ気力も残されていないかの如くに、ひくついて震えた。


「一切、手を差し伸べては駄目。ここで生きる決意が出来なければ、意味がないわ…。中途半端に生かしても、より酷い目に遭った時、結局は立ち上がれなくなる。それならここで、自身の殻に籠って絶える方がまし。」


「そんな事はない!」


背後から声がして、二人は振り返った。

王洪健が三人を見据えて、部屋の入り口に立っていた。

彼は叫んだ。


「死なせてはならない。殺してもいけない。無くなって良い命など存在しない!目が見えなくても詩人になれる。足が萎えても職人になれる。心が壊れても、その人を惜しむ人がいる。死んでいい命など存在しない!」


彼は飛び出し、悠の近くにひざまずいた。


「…血を止めよう。大丈夫だ。全員助かる。お母様も戻って来るよ。」


「王君…?」


瑞羽は神妙な面持ちで洪健に声を掛けた。

彼は告げる。


「瑞羽さん。クイナさんから離れて下さい。」


言うが早いか、彼は彼女の傍らに立つクイナに対して右の手のひらを向けた。

目にも留まらぬ速さで、水が噴射された。


「!」


瑞羽の目の前で、クイナの身体が崩れた。

波に洗われ、崩壊する砂の城の様に、呆気なく。

そして女一人分の質料が、残滓も残さず消失した。

洪健は言う。


「さあ、皆で帰りましょう。明るい光のある“昼の世界”へ!」

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