表の顔裏の顔
全員が、差し伸ばされた瑞羽の右腕に手を乗せた。
目の前が暗くなり、落下感に捕らわれる直前。
悠は垣間見た。
巨人の褐色の表皮が割れ、中から赤い溶岩の様に液状と化した血肉が噴出して吹き上がるのを。
広大に広がった荒野と、無残に引き裂かれた巨人の遺骸に別れを告げつつ、四人は強張った顔をして、虚無の空間を泳いだ。
…気が付くとカフェ“金枝篇”の店内だった。
「……。」
「……。」
…悠と洪健は二人並んで、帰り道を歩いている。
瑞羽は“金枝篇”に残った。
クイナと今後の“悪夢狩り”の方針を話し合うとの事だった。
「遺骸があんな風になったのは見たことがない。何か、私達に予想できない変化が起こっている可能性があるわ。」
彼女はそう語った。
「はっきりとした結論が出るまで、貴方達を連れて行く事は無理そうね。」
…住宅街の道を歩きながら二人は、神の“影”について語り合った。
洪健は言う。
「神の意識が流れ込んで来る感じなんだ。能力を使う時は。」
悠はしっかりと注意して、彼の語る話に耳を傾ける。
「…何十回か練習してみたけど、やっぱりたまに怖くなる。自分が塗り潰される感じ。このまま“神様”に心を乗っ取られるんじゃないかって。そう感じる。」
聞きながら悠は時折頷く。
内心、怖いなと思いつつも洪健が羨ましかった。
薬師丸クイナの“影”の圧倒的な火力。
蔵岡瑞羽の時空を超越する力。
それら“闘う力”が羨ましかった。
洪健と別れ、自宅のドアの前に立った時も、彼女の心の中は思案で一杯だった…
ドアを空け、玄関に入る。
「ただい…」
ダンッ!
鈍く鋭い音が聞こえた。
一瞬で固まる両足。
悠の首筋にヒヤッとした悪寒が走る。
彼女は立ち止まり、音の出どころを確認し
ダンッ!
…再び何かを破断する様な音が響く。
明らかに常軌を逸した音。
悠は恐る恐る一歩を踏み出す。
台所だ。
瞬時に悠の心臓が収縮して…
ダンッ!
内心に異常をきたした者が、全力を振り切って、硬い何かを叩きつける音。
悠は少しのためらいの後、意を決して台所を…
ダンッ!
覗き込むと悠自身の母親が、流しの前に立ち、真っ直ぐに背を伸ばして、包丁を握り締めた手を真上に掲げ…
ダンッ!
真っ直ぐに、何もないまな板の上へ振り下ろされる。
目の前でギロチン処刑が行われたかの様な衝撃。
悠はカラカラに乾燥しきった口で呟いた。
「母さ…」
彼女自身の母親が振り返る。
その顔を見て、
悠は絶叫した。




