悪夢への近道
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薬師丸クイナはその華美なメイド服に、多種多様な武器をしまい込んで忍ばせた。
悠はソファーの上で縮こまりながらも、その剣呑な光景を凝視している。
「蔵岡さん。経路を頼める?」
クイナはそう瑞羽に問う。
「あの、これから行くんですか?“神話領域”に?」
怯えきった様に口を挟む悠に、クイナが苦笑しながら言う。
「ここまで来たからには、もうちょっと積極的だと嬉しぃねぇ。数少ない“精鋭”なんだし。」
「精鋭?」
キョトンとする悠に瑞羽は告げる。
「悠、私達の組織、“民会”はね、少数精鋭なの。ダエーヴァは無限に分裂、増殖を繰り返すのだけど、私達アフラは有限。同じ神を共有する影があるのを加味しても少ないわ。この拠点“カフェ金枝篇”だって、所属するのは私と薬師丸さんの二人だけ。」
そう言って立ち上がった瑞羽に洪健が言う。
「待って下さい。」
座ったままテーブルの上にコーヒーカップを置く。
「どうした、少年。怖気付いたか?」
「いや…」
洪健は無言で、カップの中身に目を落とす。
半分程残ったその黒い液面をじっと見つめる。
三人が見守る中、彼は集中力を集め続けた。
やがて、その深い色をした表面に変化が起こった。
水面に波紋が浮かび上がる様に細かなさざ波が生まれ、それを四人が見つめていると突然、黒い液面が鏡の様に、周りと逆向きの景色を映し始めた。
「!」
悠は周りの空気が重くなっていくのを感じた。
そして、ただでさえ薄暗い店内が更に暗く、夜の帷が降りた様に真っ暗闇に覆われて行くのを見て、驚嘆の声を上げた…
…どすん。
悠は尻もちをついた。
「いったぁぁぁ…」
周りを見回す。
これまで雑居ビルの一室の中にいたとは思えない光景が広がっていた。
「……!」
悠は目を見張る。
眼前に広がるのは血の様な色に染まった、広漠たる荒地。
上を見れば、深紅の輝きを放つ空に、今すぐにでも落ちて来そうなくらいに大きな満月が浮かんでいる。
遥か遠方を見渡せば地平線に、戯画的とも形容したくなる程巨大な山脈がそびえ立つのが見える。
…そう、悠は見てしまった。
その山々の向こう側。
真紅の空と大地の境目を縁取るその峰の間に。
グロテスクな程高くそびえる、その峰を少し越す大きさの、人型のシルエットを。
悠は自分の口の中が、一瞬で乾くのを感じた。
周りに他の三人が集まって来る。
クイナは言った。
「“蜃”だよ。悪夢王・窮奇の忠実なしもべ。初心者講習にはピッタリの“小者”ってわけ。」




