運命の三叉路
祝原悠は自宅二階の、自室のベッドの上で寝返りをうつ。
頭の中はあの、裏側の世界で見た巨大な“あれ”の事で一杯だった。
“悪夢王・窮奇”
瑞羽はそう説明していた。
8体いる強力なダエーヴァの中でも、取り分け強大な一個体である。
なので、慌てて神話領域から脱出したと。
…スタンド・ランプのクッキリとした明かりが、一家団らんの夕食の名残と、緊張して痺れた空気感とを切り離す。
普段は残業して夜遅く帰って来る悠の父が、今日に限って早めに帰宅して来た。
突然奇抜な格好で現れた自分の一人娘に、母親は何やら不安を感じたらしい。
夫の職場に電話を掛けた後直ちに、料理の支度を始めた。
献立は悠の好きなすき焼き。
久し振りに家族水入らずの団らんとなった。
「悩んでいる事があるなら何でも言ってね。」
母親はそう、悠に告げた。
「……。」
眠れない目を擦りながら悠は考える。
「ダエーヴァとの闘争は遊びじゃないし、最悪死ぬ事もあるわ。」
瑞羽が最初に悠に念押しして、言った言葉。
悶々とした感情を押し潰す様に、身も凍る恐怖が押し寄せる。
あれが“敵”なんだ。
悠は慄く。
闘おうと言うのか、自分は?
あんなモノとどう闘えと言うのか?
洪健は良い。
奇跡の様なチカラを、既に得ている。
では自分は?
何の力もない、ただの葦だ。
良く回る頭で、要らない感情を抱く、限りなく弱々しい、ただの雑草。
それに比べて、大宇宙の脅威は余りにも巨大かつ、広漠と人の命と魂を取り囲んでいる。
しかし、何も知らないままで…
おぞましい怪物に食われて死ぬのは嫌だった。
闘う方法が、知りたい。
知らなければならない。
進まなければならない。
そう感じた。
…諸々の思考が悠の若い心を巡り、抱えきれない程の思いが溢れて、掲げられた手のひらから零れ落ちて行った。
…翌日、正午を少し過ぎた辺り。
「ようこそ。私達の組織、“民会”へ!」
瑞羽は高らかにそう謳い上げた。
「……。」
悠と洪健は戸惑ってたじろぐ。
「薬師丸クイナ。ヨロシクね!」
フレンチ・メイド服に身を包んだ妙齢の女性が、微笑んでそう言った。




