雪山で遊んでいただけなのに、雪崩になった
今日は、雪山が気持ちよさそうだった。
空は澄んでいて、風も冷たすぎない。
白い世界は静かで、音が吸い込まれる感じがする。
雪の匂いも、悪くない。
たまには、雪もいい。
そう思って、ドラゴンは山の斜面に立った。
――ざくっ。
雪を踏みしめる感触が、思った以上に楽しい。
「……お、ふわふわだな」
翼を少し広げ、体を軽く前に倒す。
そのまま、すーっと滑った。
斜面は緩やかで、雪も柔らかい。
転んでも、全然痛くない。
「……これ、楽しいな」
滑ったり、転がったり。
雪を集めて丸めて、積んでみたり。
少し歪んだけど、だいたい丸い。
「……雪だるま、ってこんな感じだったか?」
自分よりずっと小さいが、まあいいだろう。
満足して、また斜面を滑る。
そのまま、何も考えずに、ぼんやりしていた。
――――
次の瞬間。
ぱき、と。
足元で、小さな音がした。
「……?」
見下ろすと、雪の表面が、ゆっくりとずれている。
――ずる……ずる……
「あれ?」
次の瞬間。
――ごろごろごろ――
雪が、斜面を滑り始めた。
小さかった動きは、あっという間に広がり、
白い塊が連なって、下へ下へと流れていく。
「……おや?」
ドラゴンは特に慌てず、
その流れに合わせて、軽く身を任せた。
雪の上を滑る感覚は、さらに気持ちいい。
「おお……速いな」
――――
その頃。
麓の街と、山小屋。
「雪が……動いてるぞ!?」
「雪崩だ!!」
「こんな規模、聞いたことがない!」
警鐘が鳴り、人々が叫びながら走る。
「避難しろ!」
「子どもを先に!」
「山の上に、何かいるぞ!」
誰かが見たと言った。
「……白い、巨大な影が……」
――――
軍も出動した。
観測班、通信班、指揮所。
しかし、報告はすべて食い違っていた。
「雪崩の中心に巨大生物を確認」
「いや、影は雪煙だ」
「ドラゴンに見えた、という証言があります!」
混乱の中、雪崩は自然に勢いを失い、
街と山小屋に致命的な被害は出なかった。
――――
数日後。
司令部の会議室。
雪山、海域、村落――
これまでの資料が、机いっぱいに並べられていた。
「……結論を言え」
重い沈黙の中、分析官が口を開く。
「共通点は、現象発生時に
“白いドラゴンの目撃証言”があることです」
「だが、映像記録は?」
「ありません」
「物証は?」
「ありません」
別の者が続ける。
「恐怖状態下における、集団幻覚の可能性が高いかと」
しばし、沈黙。
やがて、誰かが疲れた声で言った。
「……理解できないものは、記録に残せん」
「現場の混乱が生んだ幻覚。
自然災害として処理しろ」
その決定に、誰も異を唱えなかった。
――――
一方、その頃。
山の斜面。
ドラゴンは、少し崩れた雪だるまを見下ろしていた。
「……まあ、いっか」
冷たい雪を手で触り、少し満足そうに息を吐く。
「ふぅ……雪遊び、楽しかったな」
翼を広げ、静かに空へ舞い上がる。
今日もまた、
ドラゴンにとっては――
本当に、いい一日だった。




