第12話:それから……
あれから、俺は何度も勝に挑んだ。
進化のたびに、力を増すたびに、東の王――蟹江 勝へと戦いを挑みに行った。
だが、そのたびに――敗れた。
ある時は歩脚を吹き飛ばされ、またある時は装甲ごと叩き割られた。
それでも、挑むたびにあいつは決まってこう念話してきた。
「あっ、徹くん、大丈夫だった?」
……うるさい。黙ってろ。
長らく謎だった勝の攻撃も、十数度目の挑戦でようやく判明した。
あれは「シャコパンチ」――
あいつ、もはやヤドカリですらない。インチキだろ!
……とは思ったが、出してくるものは仕方ない。
対策を考えなければ、勝つことはできない。
さらにズルいのが、あの「光る殻」だ。
あれ、自前じゃない。拾い物らしい。
「ああこれね、頑丈でしょ?シャコパンチでも壊れないんだよ~、たまたま海で見つけたんだ~♪」
……ふざけやがって。
俺がどれだけ自分の甲殻を強化してきたと思ってるんだ。
そんなふうに、戦いを繰り返すこと、気づけば――500年。
年月の感覚なんてとうに失っていたが、勝が「500周年!」などとふざけた祝い方をしてきたせいで覚えてしまった。
だが今の俺は、500年前とは比べものにならない。
装甲も、ハサミも、速度も、電撃出力も――
全てが勝に肉薄していた。
……だが、それでも。
あいつの本気のシャコパンチは、いまだ一度も真正面から受けたことがない。
本能が告げている――あれをくらったら終わりだ。
今の俺でも、耐えられない。
相打ちに持ち込むことはできるかもしれない。だが、意味がない。
それでは、ただの意地のぶつけ合いだ。
それに――500年も戦ってきたせいか、あいつと争うことに、俺はもう飽きていた。
毒気が抜けた。
「勝ったところで、ひとりきりの“カニ転生者”になるだけか……」
そう考えたとき、答えはひとつだった。
――そんなの、楽しくない。
だから俺は、西の「海鮮王」として君臨し、
勝は、東の「海鮮王」として――それぞれの海を治めることになった。
それからの日々、俺は以前ほど威圧的に振る舞うことをやめた。
もちろん、王としての誇りと威厳は保ったが、力で黙らせるようなことはしなくなった。
そのせいか、ズワイガニやタカアシガニ、さらには深海の仲間たちからも慕われるようになった。
そんなある日、勝から提案が来た。
「ねえ、東西対抗で“カニ・ヤドカリ運動会”やらない?」
はじめは冗談かと思ったが、案外悪くない。
直接の戦いは避けたいが――軍勢同士で競わせるなら話は別だ。
「いいだろう。俺のカニ軍団で、お前のヤドカリ軍団を圧倒してやる!」
競技内容は多彩だった。
「カニ障害物競走」「泥団子生産バトル」「借り貝競争」「深海綱引き」……
ヤドカリ有利な競技が混じっていたのは癪だったが、
西にもヤドカリはいるので、仕方なく了承した。
運動会は大盛況だった。勝負は白熱し、一進一退。
俺と勝は並んで観戦しながら――
「ふん、やはり純粋な蟹のパワーこそ至高。ヤドカリなど、所詮寄生の身よ」
「何を言ってるのかね徹くん。繊細さと連携力こそヤドカリの真骨頂だよ♪」
などと、くだらないやり取りを繰り返していた。
俺は、かつて“絶対的な王”を目指していた。
だが今、それは叶わなかった。
だが――悪くない。
もう一人の“海の王”と出会い、語らい、戦い、時に笑い合うようになった。
それが、俺のカニ生を豊かにしてくれたのだ。
これが俺の「最強の証」ではなく、「最良の選択」だったのかもしれない。
そう思いながら、今日も海のどこかで、俺はこのカニ生を――楽しんでいる。
浜辺のスローライフに続きます!
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