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第11話:海の王

装甲鮫を倒した今、もはや俺に敵はなかった。


海の生物たちは、俺が近づくだけで怯え、震え、そして逃げ出す。




俺は確かに「海の覇者」となっていた。




――だが。




どうしても、あのアサヒガニの念話が頭から離れなかった。




「お前など、海の王の足元にも及ばぬ」




確かに、装甲鮫はこの海域の支配者だった。


だが、当時の俺が未熟だったとはいえ、“足元にも及ばぬ”とまで言うほどの相手だったか?




それに――アサヒガニもカニだ。


カニが“サメ”を「王」と呼ぶだろうか?……違う気がする。




ならば、真実を確かめよう。


俺は「海の王」の正体を探るため、長命そうなカニを探し、話を聞くことにした。




深海へ潜り、ズワイガニたちの群れが集う場所へとたどり着く。




「うわっ!化け蟹だ!」


「な、なんの用だ!?」


「お、おれたち食っても栄養なんかないぞ!」




俺は冷たく言い放った。




「安心しろ。雑魚を狩りに来たんじゃない。……“海の王”と呼ばれる存在を探している」




「え、王様?」


「昔はいたんだけどなあ……」




「なんだ、もう死んだのか?」




「いや、そうじゃないよ。東の海に行っちゃったんだ。あとカニじゃなくて……ヤドカリになっちゃったんだよね」




「ヤドカリ?そんなものを王と呼ぶのか?」




「僕らも詳しくは知らないけど、じいさんなら何か知ってると思う」




「なら、その“じいさん”を連れてこい。潰されたくなければな」




「……脅さなくても、すぐ呼んでくるってば」




しばらくして、落ち着いた気配をまとった大きなズワイガニがゆっくり現れた。




「また来たか……“王”に会いたがる者が」




「“また”だと?よくあることなのか?」




「よくあるわけじゃない。だが、お前のような異常進化を遂げた者が、東へ向かって……そして、戻ってこない。それだけじゃ」




「戻ってこないだと?」




「皆、確信していた。己こそが次代の王だと。……今のお前と、よく似ておる」




「俺が、そいつらと同じ結末を辿るとでも?」




「わからん。だが、あの“王”は千年ものあいだ、海に君臨している。どれほどの力を持っているのか、我らの想像の及ぶところではない」




「……ふん。ならその“王”とやらの死骸を、この目で拝ませてやろう」




そう言い残し、俺は東へと向かった。




東への旅路は、西の静寂とは違い、活気に満ちていた。


俺のオーラを察知し、臆することなく襲いかかってくる猛者たちもいた。




――だが、所詮は雑魚だ。




電撃で焼き切る者もいれば、ハサミで瞬時に断ち切る者もいた。


特に面白かったのは、巨大なカジキ。


鋭い吻で突撃してきたが、俺の金属装甲に弾かれ、しょんぼりと逃げ去っていった。




そんなこんなで東を進んでいたある時、――感じた。




圧倒的な、生体オーラ。




(……ハハハ、来たな。これが“海の王”か!)




俺はその気配のもとへ向かう。


そこには――巨大な、光り輝く殻を背負ったヤドカリがいた。




ヤドカリは何やら鉄板のようなものをハサミでこね、何かを作っていた。




(……なんだ?気配にも気づかず鉄をいじってるとは。無防備すぎる)


(これが、あの“海の王”?……笑わせる)




「――おい、そこのヤドカリ!」


「貴様に“海の王”は似合わん。その座から引きずり下ろしてやる!」




俺は強烈な念話で宣戦布告する。




ヤドカリはのんびりとこちらを向き、




「……お客さん?ずいぶん変わったカニだねぇ」




と、のほほんと答えた。




「――舐めるなよッ!」




俺は電気を帯びた巨大なハサミで、一直線に切りかかる。




ガシィッ!




――だが。




ハサミは簡単に受け止められた。


しかも、ヤドカリとは思えないほどの万力のような力で、びくともしない。




(……な、なんだ!?ハサミが全く動かない!?)




俺はもがくようにして電撃を流し込んだ。




バチバチバチッ!




その瞬間――ヤドカリのもう片方のハサミが音速のブレを見せた。




ズパァァーーン!!




俺の巨大なハサミが――消し飛んでいた。




(な、なにが起きた……!?この装甲が、一撃で!?)




痛みすら感じない。あまりの衝撃に、思考が止まりかけていたその時。




ヤドカリから念話が届いた。




「あっ、ごめんね?ちょっとピリッとしたから反射的に叩いちゃったけど……大丈夫だよね?カニだし、脱皮すれば治るよね?」




「それに、君……なんだか“同じ匂い”がするんだけど。名前とか、あったりする?」




(同じ……匂い?いや、まさか……)




「……俺は、蟹沢徹だ」




「おおっ!蟹沢くん!いや、徹くんか!俺は蟹江 勝かにえ・まさる!君と同じ“転生者”だよ!!」




(……は?転生者? 俺だけじゃ、なかったのか……)




「いや~、もう1000年以上この姿なんだけど、カニの転生者に会うのは初めてだよ!しかもちゃんとカニだし、うらやましいなあ!」




ヤドカリ――いや、蟹江 勝は、一人で楽しそうにはしゃいでいた。




「……1000年も、自己強化してきたのか」




思わず尋ねてしまう。




「え?いや、食べてただけ。普通に。まあ、1000年も食ってれば、そりゃ強くなるよね~」




「……そうか」




俺は、敗北を噛みしめながら言い放った。




「……今日のところは、及ばなかった。だが、いずれ貴様を“王座”から引きずり下ろしてやる。今、始末するなら――実力差がある“今”だ」




「え?やだなあ、そんなことしないってば。王になりたいなら、なればいいじゃん?俺、別に自分から名乗ってないし~」




どこまでも、呑気だった。




「その余裕――いつか、後悔させてやるぞ、“勝”!!」




悔しさを押し殺しながら捨て台詞を残し、俺は西の海へ戻っていった。




その背後から、勝の念話がふわりと追いかけてきた。




「また遊びにおいでよ~」




……聞こえないフリをして、俺は泳ぎ続けた。

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