第8話◆猛者との邂逅
◇
誘拐犯を狩った夜から、俺は夜の寝静まった頃合いを見計らい、定期的に屋敷を抜け出しては、盗賊やら襲ってくる魔物やらを狩っている。
何事においても、やはり実戦で磨くのが一番なのだ。
こと魔力での戦闘においては、百万回の素振りが、命懸けの戦いでの一閃に勝ることはない。経験こそが実力を生むと言えよう。
そうして戦闘を繰り返していると、ときには死線を掻い潜った、猛者と対峙することもある。
◇
「誰だ──────?」
バレたか。
「やあ、お兄さんたち。
少し遊ぼうよ────────」
物陰から姿を現した俺に、男達は即座に反応をする。
「ん? どうした坊や……?」
「待て、ただの子どもじゃないな…………」
リーダーと思われる男の一声で瞬時に臨戦体勢に入る。
「油断するな、全力で叩くぞ──────」
夜営をしていた誘拐犯と思しき三人の男は、流れるようにフォーメーションを組む。
その姿を見た俺は思わず笑みを溢す。
(今夜は当たりだな。
子どもの姿に惑わされない猛者か。
狩りがいがありそうだ──────)
一人の男が剣を抜いて飛び出してくる。
中央の男が詠唱を始めると、俺の身体が重くなるのを感じる。なるほど、フィールドにいる敵を対象にしたデバフの類だな。範囲も広いし、効果も充分。かなり腕の良い魔導士のようだ。
剣を避けようとするが、足元がべったりと地面に張り付く感覚がして、うまく躱せず、剣先が首元を掠めて血が滴る。
「かなり強力なデバフだな、狩りがいがある」
「ほざけっ────────!」
俺は体内から放出する魔力で、デバフを打ち消しながら紙一重で剣を躱す。
剣の男もかなりの手練れだ。デバフがかかった状態で、こちらが具現化した剣で応戦したとしても、逆に隙が生まれるだけであろう。
さて、どう打開したものか────。
「余裕があるな……
だがいつまでも躱せると思うなよ」
デバフをかけていた魔導士が異なる詠唱を始めると、剣を持った男の動きが格段に速くなる。
「今度はバフか──────」
デバフの効果を維持したまま、効果の違う補助魔法を複数発動するとは、あの魔導士、かなり器用だな。
「ふふふ、だがまだ避けられるぞ──────」
すると、ここまで戦局を見守るだけだった後衛の男────最初に指示を出していたリーダーらしき男が、俺の避ける先を読んで魔弾を放出する。
「お前の躱し方の癖は見切った────」
避ける先、避ける先、すべて先回りして魔弾で阻む。
(────躱し切れない!)
ザシュッ────────────
「獲った────────!」
斬られて地を転がる俺に、リーダーの男が容赦なく魔弾を連射する。
最後に魔導士がバフをかけて、リーダーが特大の魔弾を放つと、地面に大きな窪みができる。
……………………
「跡形もないな──────。
しかし、何なんだあの子どもは」
「切った手応えからして、魔獣の類が見た目を偽装しているのではなく、本物の子どもだった。だがあの身体能力────信じられん」
「魔導センスも子どものそれではない。
デバフを打ち消しながら戦っていたぞ。
だが所詮、俺たちの前では──────」
ゴッ──────────────
(黒い影────────?)
剣を持った男が吹き飛び、大木に叩きつけられる。
木が折れて倒れるより早く、俺はデバフをかけていた魔導士を弾き飛ばし、リーダーの男の鳩尾を蹴り上げる。
剣士のぶつかった大木が音を立てて倒れる。
「ゔっ…………信じられん。
フルコンボだったんだぞ………………」
リーダーは間一髪、魔力で腹部の防御をしたものの、腕での防御は間に合わなかったようで、苦しそうにその場に蹲る。
「もう一度見せろ────────」
「…………はぁ?」
「さっきのフルコンボとやら、見事だった。
今度は俺も剣を出して戦おう──────」
「舐めるなっ…………!」
リーダーの男は魔力で身体能力を強化して殴りかかってくる。だが、放出魔法を得意とする魔道士の、手負いの体術など取るに足らない。
「舐めてなどいない──────。
しかし、こんな破れかぶれよりも、さっきのやつの方が手応えがある」
ゴッ────────────
俺はリーダーの男の顎に掌打を入れると、男の目が揺れる。直立したままふらつく男の肩を軽く押すと、その場に倒れて気を失ってしまったようだ。
「他の二人も伸びていることだしな……
今のうちに誘拐された人でも助けておくか。
あとでもう一回戦ってくれるかな────」
俺は檻に手をかけた。
「ガヴルルルルルルルルルル────」
「おおっ!」
呪符をつかい封呪された双頭の魔獣がいる。
「しかもこいつ、かなり強いな。
奴らが捕らえたのか──────」
いや待て────────
ということは………………
ギンッ────────────
リーダーの男が這いながら放った魔弾が檻に当たる。
「顎を打ったのにまだ動けるのか、やはりというか見事なタフネスだ」
「やはり貴様は……そいつを取り返しにきた追手だったか。
やっとの思いで封印したそいつを再び野に放つと、また沢山の犠牲者が出る。
誰が相手だろうと、俺たちは絶対に退くわけにはいかない…………!」
………………
「あっ……」
(やっぱり、やっちまった──────
もしかすると、
いや恐らく、
こいつらは、誘拐犯じゃない…………
最初に檻の中まで探知するの忘れてた…………
どうしよ…………)
「そいつを解放するというなら、
俺を殺してからにしろ!!
殺せ!! さあ殺してみろっ!!!」
全身を震わせ、涙を流し、歯を食い縛る口元から血が滴るほどに鬼気迫る男────
これは、勘違いでしたごめんねてへぺろこつんとは言えない雰囲気だな。
とりあえず、どさくさに紛れてケルベロスの魔力を吸ってしまおう。同じ闇属性だから、できるはず。
ズズズ…………
(よし、いける。俺の魔力量も増えているぞ)
「キャンキャン」
魔力を吸われたケルベロスは、頭が一つになり、仔犬ほどに小さくなってしまった。
小さくなったケルベロスを放っていく訳にもいかず、俺は檻の隙間から手を入れて抱きかかえる。
「────くっくっく、こいつは預からせてもらう。だが覚えておけ、魔王の復活は近いぞ!」
とりあえず意味のわからないことを呟いてみたが、これではどちらが破れかぶれなのか分からない。
俺は魔力で身体を覆い、魔族っぽく模ってみる。試しに模った翼で飛び立ってみる。飛べた。
────飛べて良かった!
全てを有耶無耶にして空に逃げる俺に対し、もはや男達に為す術はなかった。
「くそおっ…………!」
リーダーの男は悔しそうに地を叩く。
◇
「いやあ、一か八かやってみるものだな。
まさか本当に飛べるとは……」
「魔王様、助けてくださり、ありがとうございます」
もはや仔犬となったケルベロスが可愛い声で語りかけてくる。
「いや、俺は──────」
「魔王様は魔力を自在に奪い、与えることができると聞いています」
「うむ……まあ、そういうことになるか。
魔王であるのは事実だしな──────。
しかしお前、無闇に人間を襲うのはいただけないぞ」
仔犬となったケルベロスは存外可愛らしく、抱きかかえる腕にもそのモフモフとした毛並みと暖かな体温が伝わってきて、ついつい叱る口調も甘くなる。
「私は物心ついた頃から、この森で暮らしています。最近、立て続けに人間に襲われました。
まだ双頭でしかない未熟者ですが、襲ってくる連中を返り討ちにするくらいはできました。
決して、悪戯に人間を殺めたことはありません」
「え、そうなんだ──────」
これは、この子も悪くなさそうだな。
文献にあるケルベロスは三つ首だものな。
双頭だったこいつは本当に仔犬のようなものなのか。
「よしわかった。
とりあえず、俺についてこい。
ただし、今俺は人間として生まれ、人間として生きている。お前はただの仔犬のふりはできるか?」
「ワンッ…………」
何も分かってなさそうな顔で、ケルベロスは愛らしい鳴き声を上げる。
「まったく問題なさそうだな……
闇魔法は隠しておけよ、人間世界ではご法度だからな。俺も隠して生きている。
いつか成長したら、俺の魔力を授けてやる。
晴れて独り立ちすると良い」
「ワンワンッ!」
おいおい、かわいいかよ──────。
◇
次の日の新聞で、ケルベロスを捕獲した歴戦の英雄パーティが、翼を持つ新手の魔物に襲われ、捉えた厄災級の魔物、ケルベロスが連れ去られたと報じられた。
そのことを知った俺は、非常にバツの悪い思いをする羽目になるのだった。
「まあ、虐められた仔犬が虐めた人を噛んだからって、それを人間が正義を振り翳して討伐するというのも、どうかと思うしな────」
勘違いをした悔し紛れに、口をついて出た言葉が、意外にも的を射ていて、どうにか自分を納得させることができた。
◆御礼
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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