第7話◆最強の固有スキル
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夜の森の出来事から数日後のこと。
「旦那様、身代金目的の誘拐犯グループが南の森の中で壊滅したそうです」
「主犯は傭兵崩れと聞いていたが、まさか領地の目と鼻の先で捕らえられるとはな」
「いえ、それが……捕らえられたのではなく、全員死亡とのことです。
懸賞金もかかっていたのですが、まだ名乗り出たものはいないそうです」
「猛者揃いのパーティによる仕事ということか。名乗り出ぬとは妙な話」
「攫われた名家の御子息たちも無事とのことでしたが、自力で森から出てきたようで、救出されたときのことは覚えていないそうです」
「案外仲間割れかも知れんな。
領地の近隣での出来事だ。警戒を怠らぬよう衛兵に伝えておけ」
「畏まりました」
────嘘だろ、あのおっさん達そんなに強かったのか。
さすがに人を殺した夜は寝つきが悪かったが、この世界では強き者が正義という教えを受けていたせいか、あまり抵抗はなかったな。
それとも魔王として自覚して生きる世では、人を殺めることに一々心を痛めるなということか……?
ともあれ助けた子どもたちが無事だったようで何よりだ。
魔力の器が小さいと言われた俺だが、あの夜に使った魔力量自体はごく微量で、器の小ささは何も枷にならなかった。
────つまり、魔力は量より質ということ。これが観測者と特訓をしているときに立てた仮説だ。
練度を高めた魔力は、微量でも強大な武器になり、薄めて使うこともできる。そして、器が小さくとも濃密な魔力を溜めておくことができる。
改めて思う、観測者のおかげだな。この世界の人間は魔力の器の大きさばかりを気にして、生み出した魔力を磨くということを怠りがちだ。
生み出した魔力は時間をかけて研ぎ澄ますことができる。それを絶えずプールしておけば、器の大きさに関わらず強力な魔法が使えるというもの。
────魔力錬成は常時行うほか、どこか外部から魔力を供給できるといいかもな。
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玄関に来客のようだ。父が対応しているから、何か重要な客人か。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。我々がベスギーザ様の固有スキル習得のお手伝いをさせていただけるとは、誠に光栄に存じます」
「うむ、其方たちには期待している。
ベスギーザは余の後継ゆえ、考え得る限り最強の固有スキルを授けたい」
「承知いたしました」
「それでは先生、こちらに──────」
執事に先導され、二名の魔導士が父とベスギーザとともに応接室に通される。
さすがに期待されている嫡男は違うな。
父をして「サイキョーのコユースキル」とやら、非常に気になるところではある。
固有スキルとは、簡単にいうと基礎魔法で説明できない特殊能力であり、一般には優秀な魔法士にのみ習得できると考えられているものだ。
属性や追加効果、条件を付与できるものもあり、普遍的な魔法よりも自由度が高い。魔導騎士でいうところの「必殺技」である。
俺は俺で固有スキルについては、既にいくつも考えていた。くだらない魔法教育の時間、常に考えを巡らせていたのだ。何しろ生まれる前から、観測者に聞いて固有スキルについての知識はあったからして。
一般論として、固有スキルの習得は一人一つである。枠という概念で考えられるが、深い理屈は家にある魔道書に答えはなかった。
例外もあるにはあるようだが、有史においては、最大でも三つ程度しか使うことはできないということだった。
早期に習得できればできるほど【研鑽できる時間に充てられるため有利】ということと、【早くに固有スキルを体得できる優秀な魔法士である証】とされることもあるため、皆が競って固有スキルの習得にやっきになるようだ。
十五歳のベスギーザが習得できれば、適齢よりかなり早いといえるだろう。
ただし、必ずしも思いついたものをそのまま習得できる訳ではない。魔力量、魔力の属性と指向性、自身の適正を勘案して落とし所を決めなければならない。
例えば、本人が剣士になろうと強い意志を持っていても、魔力の属性や指向性が合致していなければ、攻撃に特化した固有スキルは得られない。
逆に魔力の条件をすべてクリアして、攻撃特化の固有スキルを習得できたとしても、本人が血を見るのが苦手など、そもそもの性格に適性がなければ大成することはない。
例外として、「ひらめき型」と呼ばれる、自然体得に近い例もあるとのことだが、極めて稀とのことだ。
────まあ、焦ることはない。幸いにして俺は期待されていないからな。今はまだじっくり考えるさ。
二ヶ月後、ベスギーザが若くして固有スキルを習得したと、領内に知れ渡った。




