第38話◆プロフェッショナル
◇
歓声を受けて、グレイズとネージュは戦局を気配で察する。
「ガルフ…………」
「アルヴァンは相打ちか────ますます負けられる訳にはいかなくなりました」
────ガツン
グレイズの渾身の太刀が、薄らと笑みを浮かべたネージュの剣を、身体ごと弾き飛ばす。感情に任せたような剣筋にネージュが唖然とする。
「よそ見してるなよ────。余裕ぶりやがって。
今のお前らは俺たち上級生からすれば格好の的なんだよ。真剣に来い────その余裕ぶった鼻っ柱、俺がへし折ってやるよ」
「…………!」
◇
俺は背後のイーナに対し、庇うように右手を伸ばして、牽制する。
白装束のシルリア、大柄なゲーティスは完全迎撃型か、それとも他の企みがあるのか、全く動く気配がない。
「イーナ、君は動かない方がいい────」
イーナは黙って頷く。
二人残る敵陣の出方がわからない。俺だけが残って一対三──学内大会のトップ・ティアを相手に胸躍る展開だが、それをやっては一躍有名人だ。
『ザ・成り上がりチートもの』みたいな背筋がむず痒くなる展開だけは御免だな。
大会ルールで剣の切れ味を封呪されているとはいえ、総合力では圧倒している。万が一にもネージュが負けることはないはずだ。
「おい、ネージュ。何を相手に乗せられて剣技だけで戦っているんだ────お前の肝である聖魔法はどうした?」
「……学内大会だからかな? 魔獣と違って思惑が飛び交ってシンプルに戦えない。それでも、勝ち方には拘りたいんだ」
「────わかった、好きにしろ。だがこっちは俺と、飛び道具を封じられたイーナだけだ。
もちろん、お前が倒れても最後まで諦めはしない。だが客観的事実として、お前の剣に四人分の勝敗が掛かっていることだけは忘れるな────」
「────わかってるさ」
どこがだよ────。
言いかけた俺は口を噤む。
【ライジング・サン】はハンターギルド的にはBランク──総合力では間違いなくAランクの【誓いの夜明け】が上だ。だが対人戦においては、敵の方が間違いなく格上。
今となっては、アルヴァンが相打ちでガルフを落とせたのが大きい。アルヴァンの覚醒がなければ、ガルフだけでアルヴァンとイーナの二人を倒せるだけのポテンシャルを持っていた。
敗因になり得るとすれば、恐らくはグレイズを含めたパーティ全員が搦手を使ってくることと、それにネージュが気づいていないことだ。
【誓いの夜明け】は、対魔獣を積み重ねてきたシンプルな戦略だからな。与しがたい────。
◇
「グレイズ先輩、貴方を弄する意図はなかった。お詫びします。貴方ほどの剣士を前に、剣と剣で戦いたくなってしまった。
ここからは僕も魔力を解放して戦います」
「ふん、それを甘くみていると言うんだ。こちらも手加減はせん────全力でこい!」
グレイズは自陣営に向かって、さりげなくくいっと顎を上げて合図をすると、ゲーティスが首を横に振って返答する。
「ちぃっ────」
グレイズは眉を顰めると、爆発的に魔力を纏う。
「いくぞ、勇者ネージュ。我が奥義、受けてみるがいい! 『赫灼の断罪者』!」
炎のような魔力を纏うグレイズの剣に対し、迎撃姿勢に入るネージュ。剣を振り下ろす瞬間、シルリアが怪しく微笑み、その『反射』バフを受けて加重加速する。俺もデバフをかけて相殺する。
ギィン──!!
鈍い音が響き、グレイズの剣が砕ける。ネージュが返す二太刀目を浴びせる。
「ぐうっ──────」
グレイズがふらつき、倒れそうになるのをネージュが駆け寄って支える。
「チェックメイト」
グレイズが呟くと、ネージュの身体が震えて、グレイズと共に倒れる。会場は異変に気づくが、原因には気づかない。
倒れたままのガルフが俺たちにだけ聞こえる声で語りかける。
「へっへ、倒れてからも戦いだぜぇ。甘ちゃんの一年坊たち。戦闘不能者の武器を使っちゃいけないなんてルールはない。
気を失ったフリしてダウンした方が動きやすいこともあるんだぜ────」
グレイズが放ったナイフを、シルリアの『反射』で死角からイーナの足元を掠めた様子だ。膝をついて倒れる。同じ轍は踏まないか。
「そうだな────俺も同感だ。
それなら自分で作った武器の本数くらいは覚えておくべきだったな。
お前に全て馬鹿正直に返したとでも思ったか? 甘ちゃんの一年生でもそれくらいの知恵は回る────ねえ、先輩」
「グレイズ! そいつを────」
俺はネージュに駆け寄るフリをして、グレイズの腕をナイフでピッと切る。忌々しそうにグレイズが呟く。
「麻痺なんて入れなくても、ネージュの一撃で充分深手だよ────。わざわざトドメを刺しやがって────。
隙を作るための『赫灼の断罪者』、とっさの思いつきにしてはキレッキレだったと思ったんだがな……」
「見え見えの玉砕覚悟なんて、タマじゃないでしょうに。あと『赫灼の断罪者』のネーミングセンスはどうかと思いますよ」
「ははっ、俺もそいつに同感だよ────」
「けっ……死ねよ、お前ら────」
苦虫を噛み潰したような顔のグレイズが、10カウントで戦線離脱する。ネージュは麻痺がしっかり入ってしまった様子で、剣を杖にしてかろうじて立っている。
────瞬間、シルリアが両掌に魔力を纏い、初速でネージュの背を取る。俺は更にその後ろから、両腕で抱きしめて、交差した逆手で、シルリアの両手を握って制圧する。
「やめておけ────。手負いのネージュに加減は期待できない。諦めない姿勢は美しいが、あなたの体躯では危険だ」
胸に潜めたもう一本のナイフの麻痺薬を、手元の魔力で増幅し、シルリアの行動を奪う。
「やっばぁ────君、やっぱり強いんじゃん。やられたよぉ────」
留め具が外れたフード付きの白装束がはだけて、隠された素顔が露わになる。
────女だったのか?
ちらっと見せつけるように露出した胸元、褐色肌に甘い香り、燻んだアッシュヘアが、俺の腕をくすぐるようにもたれて広がる。
「んん……ダメかぁ……。視線は胸元じゃなくて、詠唱警戒で唇から喉、全身と敵陣も視野に入れてる────心拍数にもほとんど乱れはなさそうだねー」
シルリアはどこか艶のある表情から、あどけない笑顔に変わる。
「やられたよぉ……君みたいな子、すっごい好みだ────。
ねえねえ、降参したげるから、今度デートしようよ。
んーん、まずは友達になりたいなぁ」
「────降参は願ってもない申し出ですが、デートは遠慮させてください。『何らか』の発動条件を踏むのが怖いのでね」
「やばぁ、しびれるぅ────。
うちはシルリア・ソル……うちだけ二年生だから、三年間一緒だよ。今度教室まで会いにいくから──まずは学食デートね。お姉さんが奢ったげる────」
笑顔のまま喋りたいことを喋ってパタン──とシルリアは意識を失う。その『痺れ』の正体は、おたくのガルフの麻痺薬なんだけどな。俺はその場にそっとシルリアを寝かせて距離を取る。
「さて────後ろの先輩。
奇しくも後衛同士が無傷で残りましたね。しかし、【誓いの夜明け】はネージュとイーナはまだダウンしていない。三対一で、続けますか?」
ここまで無表情だったゲーティスが、口元だけで笑う。
「────やめておく。降参だ。
君に一つだけ問いたい。君は俺たちと対峙してから、一度たりとも驚いたり、動揺はしなかったのか?」
「さあ、どうでしょう……。目の前で起きることに精一杯で、驚く間もなかったかもしれません────」
「────ふっ、そういうことにしておこう。君には機会があれば再戦を求めたい」
やはり条件待ちだったか────。他の三人で圧倒できる実力を見せつけながら、奥の手を持つ。紛れもないプロフェッショナル集団だ。
奴の語り口から、俺たちの動揺や恐怖心などの心の隙が、何らかの発動条件なのかもしれないな。
ゲーティスが両手を挙げて降参の意を示すと、会場は割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。
「試合終了! 第一回戦・第一試合の勝者は【誓いの夜明け】────!」
◆御礼
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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