第37話◆ライジング・サン
◇
王立魔法学院・団体戦トーナメントは一回戦第一試合から盛り上がりのピークを迎えていた。
破竹の勢いを見せる、王国お抱えの勇者、新入生ネージュ率いる【誓いの夜明け】。
そして、学内団体戦を二連覇中の【ライジング・サン】。リーダーのグレイズは、王国騎士団への士官要請を固辞し、卒業後もパーティでの活動継続を表明しているという。
両チームの入場に割れんばかりの歓声が上がる。一部の熱狂的なファンから『ネージュ』コール、『グレイズ』コールが起きている。
「ネージュってすごいんだな────。世のため人のため、押しも押されもせぬ勇者様って感じだ。イーナも聖教会のホープとして、敬虔な信者が集団で応援にきているな。二人ともすごいなー」
会場の熱狂とは裏腹に、月並みで棒読みな感想しか出てこない。やはり、こういう華やかな場は、俺には似つかわしくない。
「君とアルヴァンも、僕たちと運命を共にするパーティの一員なんだ。皆で一緒に応援に応えよう。
お兄さんも、熱心に君を応援してくれていることだろう」
「そうだな────まあ、全力で頑張るさ」
気の抜けた返事が更に棒読みとなる頃、審判が闘技盤上の、両陣営の中央に立つ。
「パーティ戦は全員戦闘不能、もしくはリーダーの降参のいずれかで勝利の条件とする。場外もしくはダウンの10カウントで、その個人は戦闘不能とみなす。
武器は殺傷力を抑える呪符を付与された、事前申請をしたもののみ。魔力で具現化ないし錬成するものも、殺傷力は抑えること。
違反があれば没収試合とし、学院としても処分をする。くれぐれも学生同士の試合ということを忘れぬように」
【ライジング・サン】のリーダー、グレイズが握手を求めて、ネージュがそれに応じる。
「最初から全力でいかせてもらうよ。
君たちのような勢いある新人を、初戦で降ろすのは心苦しいがね。奇しくも、ともに『夜明け』を冠するパーティ、どちらが真の夜明けに相応しいか、教えてあげるとしよう」
長い髪を靡かせ、グレイズが不敵な笑みを見せる。
「【ライジング・サン】の活躍はずっと前から知っていました。気持ちの良い勝負になるよう、胸を借りるつもりで挑みます」
笑顔で応じるネージュに、グレイズは思わずため息をつく。
「──まったく、聞いていた通りのいい子ちゃんだな。出鼻くじかれちゃったよ。
まあ、偉ぶるのは柄じゃないし、正々堂々戦おう。先輩相手だからって、くれぐれも遠慮するなよ。勇者くん!」
「もちろんです、よろしくお願いします!」
ネージュとの握手の後、背を向けたグレイズは、目を細めて小さく鼻で笑う。
「それでは、一回戦第一試合!
【誓いの夜明け】対【ライジング・サン】の試合を開始する。互いに敬意と、魔法士としての誇りを持って戦うように────ファイト!」
俺は開始早々、【ミスティ・フィールド】を発動すると、紫色の靄が両手から闘技盤を覆っていく。
観客からは、ほどほどに見えた方がいいだろう────いつもよりも、透過性を高める。しかし……
「ネージュ、迂闊に踏み込まない方がいい。打ち合いを誘うグレイズの言葉に惑わされるな。
後衛と思しき二人の魔力錬成は、明らかにこちらの初手を誘っている。敵は十中八九、迎撃タイプだ────」
「なるほど。それならイーナ、まずは君が────」
「…………」
「そうね。【ホーリーアロー】六の矢『雷』!」
連射で三本、敵陣営に矢が放たれる。
敵は慌てる様子も避ける様子もなく、白装束の魔導士が詠唱をしている。これは……
「アルヴァン、前に出ろ──────」
「おう!」
『雷』の矢が、敵に到達する手前で軌道を翻し、同じ速度で跳ね返される。アルヴァンが前線に立ち、【ヴァイス・シールド】で受ける。
「へぇ、初見でよく気づいたねー」
フードを被った小柄な白装束から、僅かに褐色の肌を覗かせる、後衛のシルリアが拍手する。粘っこい視線で観察をしていた細身長身のガルフが口を開く。
「グレイズ、司令頭はネージュじゃない。あの靄の男だ。
隙をついてあいつから狩るぞ────」
ガルフが組んだ腕を下ろし、ナイフほどの短剣を具現化し、くるくると投げてパシッと掴み、ニィッと笑う。
「ネージュは噂通りのシンプルな男だ。俺が引きつけよう。ガルフは盾の男──と見せて、靄の男も隙を見て排除してくれ。聖女イーナはシルリアが充分に牽制しているが、出方には気をつけろ。
シルリア──俺たちが飛び出したら『陽光』と『反射』でバックアップしてくれ」
「了解。あの靄はバフとデバフ、あとは視覚効果といったとこかな? 今のところ毒はないから安心して────」
ガルフとグレイズがこちらに向かって駆け出し、闘技盤の両極に別れると、俺たち陣営を二方向から挟むように攻めてくる。
シルリアが詠唱すると、太陽のようなエネルギーの球体『陽光』が【ライジング・サン】の頭上に現れる。
「くっそ、目眩しかよ──────」
眩しさに思わず手を翳すアルヴァンにネージュが指示を出す。
「目を離すな、アルヴァン!
僕がグレイズ先輩と戦う。ナイフの男──ガルフ先輩はアルヴァンが相手をしてくれ。イーナとハイディアは相手の後衛を! できれば『陽光』をなんとかしてくれ」
「応ッ!」
「了解──────」
相変わらず感覚的な指示だな────。
◇
ネージュが剣を抜くと、最前線でグレイズと激しく打ち合う。純粋な剣技ではグレイズに軍配が上がるように見えるが、ネージュは持ち前のセンスで完全に補っている。『陽光』が刀身に煌びやかな光を生み、目にも止まらぬ、疾風怒濤の応酬に、観客席から歓声が上がる。
今日はバフを掛けるタイミングは見極めた方がいいな。ベスギーザの眼はどうでもいいとしても、大っぴらに目立つのはまだ避けたい────。
細身のガルフは具現化したナイフを両手に持つと、『陽光』を背にアルヴァンの盾の視覚を狙う。
「くっそ……眩しいぞ、ハイディア!」
「遠慮がないな、お前たちは────」
俺は【ミスティ・フィールド】の靄を頭上まですっぽり覆うと、濃度を上げて『陽光』に翳りを作る。
「へえっ、器用なことするじゃーん。でも目立たないように立ち回るのはお前だけじゃないぜぇ。
────なぁ、シルリアちゃん」
ガルフはナイフを次々に錬成し、四方八方に投げると、シルリアが『反射』を使い、射角を変える。
放ったナイフが、あらゆる角度から軌道を変えてアルヴァンに向かう。
「殺傷力は無くしているが、刺さるとちぃーっと痛いぜぇ。飛んでくるナイフに刺されるか、俺に刺されるか、好きな方選びな──」
ガシャン──ガシャン──────
アルヴァンに当たったはずのナイフが次々に地に落ちて消える。ガルフは異変に急ブレーキをかけて立ち止まる。
スキルの進化────アルヴァンの【ヴァイス・シールド】は鎧のように再編成され、全方位のナイフから完璧に身を守った。
足早にスキルを修得してから半年、発展途上の固有スキルが、この局面でまた新たな花を開く────。
「すげぇな、これ……。
火事場の馬鹿力みたいなもんか。これなら攻防一体────行くぜ!」
アルヴァンが、渾身の力と体重を乗せて、ガルフに踏み込むと、体格差を活かして肩からタックルをする。細身のガルフは、なす術もなく吹き飛ばされる。
「ぐぇっ…………」
「この状況で身体を捻って、急所を外すたぁ、すげえな…………あれっ……?」
アルヴァンもよろめき、膝をついて倒れる。
「な……ぜ…………」
「へっへ、千載一遇のチャンスじゃねーか。鎧の隙間にナイフを差し込むくらい、朝飯前よぉ。舐めんなよ?
相打ち上等、あとはネージュを任せたぜグレイズ────お?」
俺は歩いてガルフに近寄ると、受け止めたナイフをガルフの目の前に落とす。
「────見事でした、先輩。
アルヴァンの一瞬の万能感を見逃さずに突く慧眼。攻撃が決まるここ一番の見せ場で、俺とイーナへの不意打ちも忘れない抜け目なさ。これぞ曲者ですね」
「一ミリでも切れたら動けなくなる麻痺薬仕込んだのに、全部素手で受けちゃったの? 聖女に投げた分まで?
あーあ、言わんこっちゃねー。お前から先に叩くべきだったんだよ。お前ら強えーわ……」
ガルフがバタッと倒れると、アルヴァンとの見事な相打ちに、再び歓声が上がった────。
---------
本話をもちまして、本年の更新を最後とさせていただきます。
11月22日に処女作として【夜の王と契約魔法】をスタートいたしました。年末までに多くの方に読んでいただき、応援をいただくことができました。光栄なことであり、来年も自信を持って本作を描いていこうという励みになっております。
さて、いわゆるチート持ちである勇者ネージュは、テンプレなら「あいつTUEEE、SUGEEE」で上級生も総舐めにされるところですが、彼らにもプライドがあり、一年生の知らない三年間があるはずです。
【ライジング・サン】は直近の差し替え分として、新規で書き下ろしたキャラクターですが、芯の強さを持ったキャラクターたちです。
間延びしない、説得力のある決着を描きたいと考えています。
来年も変わらぬご愛顧をいただけるよう、ブレない、破綻しない、エタらない作品作りを心がけて参ります。
皆さまが良いお年を迎えられることを、心よりお祈りして、年末の挨拶とさせていただきます。
誠にありがとうございました。
◆御礼
読了ありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ぜひぜひブックマーク、リアクション、評価、感想/レビューをいただけたら、ものすごく励みになります。よろしくお願いいたします。
◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
あなたの一票で、大きな支えを得られます。ログイン、フォロー/評価というお手間をかけてしまいますが、是非あなたの手で作品を育てていただけると、嬉しいです。何卒、よろしくお願いいたします!




