第6話◆夜を駆け抜ける
◇
十歳を迎えた日の夜中、俺は鍛錬を実践に移すことにした。俺の小さい器の中には、濃密に練った魔力が溢れんばかりにある。
すでに使い慣れている、認識阻害魔法を使う。従者の目は勿論、家族の目も充分ごまかせているようで、音もなく寝室を、そして館を抜け出す。
◇
領主邸の近くの森には、当然ながら大した魔獣は居ないようだ。
(父と兄が魔獣狩りをしている、森の深部にいきたいな────)
魔力で強化した足腰で茂みを駆け抜け、森の深部を過ぎた頃、進む先に人の気配を感じる。
「あそこは他領地か。キャンプなんて呑気な雰囲気じゃなさそうだな……」
強面の男たちが十人ほど、静かに酒盛りをしている。
魔力を最大まで薄め、霧状に細かくして、気づかれないよう風に乗せて飛ばす。その魔力が触れた情報から、状況を把握する。
武器を持った男が十四人、馬車には子どもが二人。後ろ手に縛られているようだ。
「身代金目的の誘拐といったところか。
魔物狩りの代わりだ、あいつら悪党で我慢しよう」
さて、これから魔力で攻撃していく訳だが、人に向かって攻撃魔法を本気で撃ったことがなどない。錬成した魔法を使うのも殆ど初めてだ。
普段受けている指導では、実力を隠すために、魔力を薄めに薄めて手加減した魔法ばかりだからな。まったくもって勝手がわからない。
(とりあえず、試しに何人か狩ってみるか……)
用を足しに茂みに入った男に狙いを定める。拳を魔力で覆い、硬めるイメージだ。背後に忍び寄り、飛び上がって男の頭を……
ゴッ────────────
男は地面に叩きつけられた後、数メートル先まで吹き飛んでいった。男の頭は落としたトマトのようにぐちゃりとへこみ、血が溢れて出ている。
「うわっ、グロいな……」
まさかここまでとは思わなかった。
魔力を纏っているせいか、手に、人を殴った感触はあまりない。しかし目の前にはもう助かる見込みもない男が転がっている。
魔力により人の命を奪ったのだという初めての経験で、心拍数が上がるのを感じた。
「おいどうした、なんだ今の音は────」
近づいてきたもう一人の男の背後に回って飛び跳ねると、左手で男の髪を掴む。
そして右手の魔力を刃状に変形させ、喉元を鮮やかにかき切った────
────つもりだったが、切れ味が良すぎて、男の首が胴から離れる。
ドサッ──────────
男の首から下が、力なく倒れる。
思った以上に、磨き上げた魔力とは強力なものだったようだ。十歳の未熟な身体能力でも、大人二人を簡単に亡き者にできてしまう。
「例えばこれを──────」
指先に魔力を集中し、高速で撃ち出す。
ピストルで撃つイメージだ。残りの男達はこの距離からでも……
ビッ────────────
頭を撃ち抜くと、男が倒れる。
「どうしたおい、酔っ払ってんのか?」
ビッ────ビッ────────
一人、また一人と男たちが倒れていく。
「クソッ! 襲撃か!!?」
これは良い。魔力消費量が少ない上に狙いを定めやすく、殺傷能力に長ける。
魔力の弾に次々と賊が倒れる中、男が一人残る。
身体を覆った魔力で弾を受けているな。こいつはどうやら倒せないようだ。纏っている魔力が他の奴らとはまるで違う。
「やってくれたな──────。
隠れてないで出てこい!
ガキどもを殺されたくなかったらな!」
まあ、子どもたちは俺に関わりはないしな。
それに出ていって投降したところで、捕らわれる子どもが一人増えるだけ。俺がやったと信じてもらえなければ意味もない。
つまり、続行だ────────。
魔力の形を尖らせ、弾頭のように変化させて試してみる。
ビッ────────────
「ぐっ…………!」
男の右腕に着弾した。貫通はしていない。
それを今度は爆発させるイメージだ。
ドムッ──────────!
「ぐあっっ!!!」
これだ────!!
魔力を撃ち出すだけでなく、形を変え、追加効果を付与することで魔弾になる。
魔力消費は少ないまま、ひと工夫で攻撃性能を高めることができる。こうなると一度に撃てる最大数も確認したいな。よし。
ドドドドドドドドドド────────
隙を作らずに一度に撃てるのは五発程度だが、耐えず撃ち続けることで、マシンガンのようにもできる。
もはや男は蜂の巣状態だった。潰されずに残った片目で、俺を見据える。
「ガキ…………だと…………?」
「ガキじゃない、魔王だ。無礼者──────」
ビッ────────────
魔弾で頭を撃ち抜くと、男は絶命する。
偉ぶるつもりはなかったのだが、弱い癖に上から物を言うから、ついつい癇に障ってしまった。
◇
「────君たち大丈夫かい?」
全員の死を確認した後、縛られた子どもたちに歩み寄る。
「お兄様が……いっぱい殴られて…………」
ぐったりしているのは、同い歳くらいの男の子だ。顔が腫れていて、体温も低く小刻みに震えている。
回復魔法というものをかけてみる。加減がわからなかったが、顔の腫れが引いて意識も戻ったようなので、これで良かったようだ。
「……どうなった……助かったのか?」
意識を取り戻した少年が、辺りを見回しながら尋ねる。俺は二人の縄を解きながら答える。
「ああ────────
事情はわからないが、君たちを攫った男はもう死んだ。夜が明けたら二人だけで森を出られるか?」
「あ、ああ……」
「良い子だ。先を急ぐので俺はこれで失礼する。
一つだけ頼みがある。誰に助けられたかは、見ていなかったということにしておいてくれ」
「…………」
兄の方の少年は、信じられないものを見たという目をしている。
「ありがとうございます、お兄様を助けてくれて」
「たまたま通りかかっただけさ、礼には及ばない────」
口止めが叶わなかったところで、誘拐された子ども二人の記憶だ。同い年くらいの子どもに助けられたなどと信じる奴はいるまい。
ましてや、そこから俺に結びつくこともないだろう。
その後の獲物は、偶然襲ってきた蛇の魔獣──スネイルスネイクくらいのもので、朝になる前に屋敷に戻った。
◇
「お兄様────本当に良かった!」
少年は泣きじゃくる弟を抱きしめる。
「さっきの奴が助けてくれたのか……?」
自分ではまるで歯が立たなかった男たちが全滅している。
「すごいんだよ、指から青い魔法でばばばーって」
つい……礼を言い損ねてしまった。
自分では守れなかった弟を救ってくれた。次に会う時は肩を並べられるくらい強くなっていよう、そして必ず礼を言おう。少年はそう決意した。
「あの人のことは、内緒にするように言われた。
恩を仇で返すようなことがあってはいけない。何も見ていなかったと答えるんだぞ」
少年は弟を抱きしめる。
「うん、わかったよ。お兄様」
少年たちの長い夜は、静かに明けていった────。
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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