第35話◆告白と沈黙
◇
ルナが流行病から全快した週明けのこと。
放課後、アルヴァンを俺のサブアカである『ハイド』の邸宅に招く。
「────お前、やっぱり底知れねぇな。
セカンドハウスか? ここで女が出てきても驚かねぇわ」
「おお、ハイディア────おかえり。
おや、来客か? そちら様はどなたじゃ?」
ルナがシャワーを浴びたばかりなのだろう、ラフな部屋着姿でリビングに顔を出す。
「おまっ……まじかっ……!」
しっかり驚いてるじゃないか────。
「ルナ、ただいま。こいつはよく話しているだろう、アルヴァンだ」
「おお! 聞いていたよりもずっと『いけめん』な良い男ではないか! ガタイも良いし、何より面構えが良い。
よろしく、アルヴァンよ────」
「なっ、ああ……」
手を差し出すルナに、驚き、褒められ、複雑そうな表情のアルヴァンが応じる。
「なあ……おい、ハイディア。この子は誰で、お前の何なんだ? 全然話が読めないぞ」
「我が名はルナ、ハイディアの配下じゃ」
「配下? はぁ────?」
「────話には順序というものがあるだろう、ルナ。
アルヴァン、先週ギルドで聞いた【夜の王・ハイディア】の話なんだがな。名前だけで散々いじってくれたお前には悪いんだが、あれは俺のことだ」
「────はぁ?」
「『流行病で倒れていたことや、医師や家族の信憑性のある証言もあり、間違いなく俺は無関係』とギルマスは太鼓判を押してくれたが、実際はこのルナがオークキングやらジェネラルやらストームバルチャーを単身で倒して、それを夜の王である俺の仕業だとしたんだ」
「はぁ? え? この子が……?」
「お前には言うか言わないか悩んだんだがな、実は俺は『魔王』だ」
「はぁ──────?」
まるで、は行から話し始めることしかできない病に罹ったかのようなアルヴァンに、俺はこれまでのあらまし──転生、前世からの因縁、ルナとの出会いなどを語り聞かせた。
どのみち反応がこうなることは分かっていたので、粛々と話す。
ルナが淹れてくれた珈琲を飲む隙もないくらい、二時間ほどかけて、話し尽くしたところで、アルヴァンは頭を掻きながらため息をつく。
「はぁ……ちょっと頭を整理させてくれ……」
どうやら、は行の病は続いているようだな。
「ハイディア……どこからつっこんだら良いかわからないが、【夜の王】は本当に大丈夫なのか?
お前とは別という認識でも、ギルドからは完全にマークされているじゃないか。お前やルナがいくら手練とはいえ、S級ハンターのハイド・ムスブルグは頭も切れるし、底知れぬ冷徹無比のサイコパスだっていうじゃないか」
「大丈夫────それも俺だ」
「はぁ────────────?」
例の病は止まらない。いや、よく考えると、感嘆以外も、ずっと話し始めは『は行』じゃないか。
俺が【モンタージュ・カタログ】を発動し、ハイドの姿に変身するところをアルヴァンに見せると、アルヴァンはようやく黙って頷いた。
「俺が表立って動けない時、ハイドにしかできないことが色々あるんだよ────。
そして、今居るここが、ハイドの住居兼ルナの住処、俺の隠れ家でもある──という訳だ」
「…………」
「どうした? 腑に落ちないことでもあるか?」
「いや……理屈ではわかった。だが、心が……まだ整理がつかない。そもそも何で俺に……いや、黙ってたことは別にいいんだ。責める気もないし、そっちの方が納得できる。
逆に、なぜ俺に話した? 隠しておいた方がお前にとっては都合がいいんじゃないか?」
「────そうだな。十五年も生きてきて、このことを話したのはルナが初めてだった。もともと、やすやすと人に話すつもりなんて無かったし、理解してもらえるとも思っていなかった。
お前の言う通り、知っている奴が増えるほど俺としてのリスクは高くなる訳だからな」
「…………」
「だが、ルナに話したことで腹を括った。ルナにだけ話して、お前に話さない自分がどうにも気に食わなくてな。
お前は俺の理解者であり、誰よりも信頼できる対等な『友達』だ。
もしお前から何かが漏れても、俺は後悔しない。そう思って話すことにした────」
「ハイディア……」
「主はのう────お主のことだけは、いつも楽しそうに話すんじゃ。すぐには理解できなくとも、主の誠意だけは汲んでやってくれんか? 我からも頼む────」
「……わぁったよ。
俺の気持ちも変わらない。あの日助けてもらった恩を差し置いても、お前は気のいいダチだ。話を聞いても何も変わらねーよ」
「……ありがとう」
アルヴァンが差し出した手を、俺は強く、ぎゅっと握る。
「一応聞いておくが、このことを、他にも話す相手はいるのか?」
「ああ、折を見てあと二人ほど話しておこうと思う相手はいる。どちらもお前には関わりの遠い奴だ。
だが、アルヴァン。お前にだけはきちんと話しておきたかった────」
「へっ……見くびられたもんだな。別に出会ったときに話してくれても良かったのによ。
でも……ありがとな……」
◇
アルヴァンが帰った後、リビングで珈琲を飲む俺にルナが訊ねる。
「主はアルヴァンをどうするつもりじゃ?」
「────別にどうもしないさ。
あいつは俺の友達ってだけだ。歩む道が違ったとしても、敵対することがあっても変わらない。
夜の王の陣営は、現時点ではお前とケルベロスだけ────。少数精鋭でいこう」
呼ばれたと思ったのか、仔犬の姿のケルベロスが足に擦り寄ってくる。俺は抱き上げて、膝に乗せると、額を指で撫でる。
「アルヴァンを陣営には加えんのか────?」
「……そのつもりだ。普通の人間にとっては茨の道だよ。あいつには才能もある。好きこのんで友達をともに歩ませたいとは思わない」
「────敵対する方がマシだと?」
「────そういうこともあるだろうさ」
「…………」
本音を言うと迷っていた。
蒼い瞳で見透かすように佇むルナは、黙って俺のカップを手に取ると、冷めた珈琲を口に含む。
「苦いのう──────」
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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