第33話◆最大の危機〜確認と確信〜
◇
金曜の朝、ハイディア邸の玄関の呼び鈴が鳴る。
「初めまして。ハンターギルドのマスターをしています、オールムと申します」
「同じく、幹部のバリーと申します。当然の訪問、すみません。ハイディアくんはいらっしゃいますか?」
「ご丁寧にありがとうございます。ソルティレージュ家、従者のガーベラと申します。
生憎、ハイディア様は寝込んでおられます。流行病の感染だろうとお医者様が────」
「それはいつ頃からでしょうか?」
「月曜の夕刻から熱が上がって、お医者様には火曜に来ていただきました。それからは私がずっとお世話をさせていただいています」
「つききりで看病を、ということですか?」
「はい。ハイディア様の従者は私一人ですので」
「つかぬことですが、お買い物とかには出かけないのですか?」
「買い出しにはハイディア様のガールフレンドの方が行ってくださいました。熱にうなされているようで、離れるのも心配で────」
目線を落とすガーベラを見て、オールムがバリーに視線を送る。バリーは黙って頷いて見せる。
「畏まりました、そんな折にすみません。一度、ハイディアくんにお会いできませんか?少々緊急で確認をしたいことがありまして」
「畏まりました。ハイディア様に確認をしてまいります。このままお待ちいただいてよろしいですか」
ガーベラはお辞儀をすると、一度施錠をしてハイディアの部屋に行き、ハイディアに事情を話し、再び玄関に戻る。
「お通しするようにと────。
ただ、依然体調が優れないため、ベッドの傍で応対すると」
「お邪魔します。すぐにお暇しますので、どうかくれぐれもお気遣いなく」
◇
ハイディアの姿でこの二人と会うのは、どうにも緊張するな。しかし何故────。
「オールムさん──────」
「失礼するぞ……確かに高熱だ。辛いだろう?」
オールムは俺の額に手で触れると、熱を確認する。
「峠は越したとは思うのですが────
何のご用ですか?」
「ハイディアくん。俺を覚えてるかな? この間、【誓いの夜明け】の昇級審査で立ち合わせてもらったバリーだ。
高熱のところすまない。いくつか質問に応えて欲しいんだ」
────なんのことだ。しかし、この状況で嘘を見抜けるバリーは上手くない。何の尋問だ? だめだ。頭が回らない。
「君の日曜以降の行動を知りたくてね。日曜は何をしていた────?」
「日曜は────【誓いの夜明け】で、ストームバルチャーを探して、見つけられずに解散になった後、一人で散歩をして────深夜に帰宅しました」
「他のメンバーとは別行動?」
「ええ、途中から。日が変わる前には別れました。あの、これは何の質問ですか────?」
「いいから。ストームバルチャーを君一人で倒したりはしていないか?」
「────ええ、倒していません」
「散歩はどのくらいの時間だった?」
「二時間くらいですかね。あの、これが────」
「つまり帰宅は、他のメンバーと別れてから三時間後くらいか?」
「……」
「どうした? 何か言えないことでもあるの?」
黙りこくる俺に、バリーのただならぬ気配を察知したガーベラが静かに口を開く。
「ハイディア様は……確かに深夜三時頃に帰宅したときに、私がお会いしています。その、ガールフレンドの方を連れて……」
────いいぞ、ガーベラ。それだ。
「────ガーベラ、言わないでよ。
そうです、可愛い女の子だったので……声をかけて連れて帰りました────」
「ははっ、なんだよ。そういう歳頃なんだからそんなの気にするなって。大人しい顔してやるじゃんか。
わかったよ、あんまりそこは深く聞かないよ。月曜は────」
空気が変わった……やっとバリーが笑顔を見せてくれた。俺も活路を見出した。このまま続けるぞ────。
「翌日の月曜は、彼女と色々話したり……僕の学校周りを案内したりしていました。その晩に熱が出て────」
「急に熱が出た?」
「ええ────、湯浴みの途中で気持ち悪くなっちゃって」
「そこからは外出せずって感じか?」
これは何らかしらのアリバイ確認だ。しかも、恐らく俺とは関係はない。ここは上手くぼかしつつ煙に巻きたいな。
「ええ、ずっとうちの中で過ごしてました。とてもじゃないけど、出歩けるようなコンディションじゃなくて────。
あの、これって本当に何の────」
「ガーベラさん、ここまでの話は本当? 何か記憶違いがあるといけない。よく思い出してほしい」
バリーは依然として俺の問いには答えず、ガーベラに矛先を向ける。それは概ね正解だ、ガーベラは嘘はつかないからな。
「ええ、本当です。少なくともハイディア様の目の届く位置に、私は必ずいましたから」
バリーは頷いて、再び俺に視線を移す。
「最後だ。ハイディア、【夜の王】って何だかわかるか?」
「────?
聞いたことがないと思いますが」
「ガーベラさんは?」
「私も……なんかそんな小説を見かけたことがあるような……。でも、それこそ記憶違いかも知れません」
バリーはオールムの顔を見て、大きく一度頷く。そして大きく息を吸うと、バリーは俺の目を見据えて口を開く。
「了解。これで質問は終わりだ、ハイディア。
すまなかったな、尋問するような真似をして────。
実はギルドに【夜の王・ハイディア】を名乗る謎の人物から、複数のメッセージが届いてな。
高難易度のストームバルチャーとオークキングの遺体が届けられ、そして英雄パーティ【冬の三連星】──こちらは生きてはいるものの、かなりの深手を負わさている。
まさか、そんなことをする奴が、ギルドに同名で登録している訳はないとは思ったんだが、一応確認のために来てみたって訳だ。
だが君の話と、ガーベラさんの証言を聞いて安心したよ」
バリーが頭を下げると、続けてオールムも頭を下げる。
「────ハイディアくん、ガーベラさん、大変な時にとんだ無礼を、すみませんでした。
ハイディアくんは優秀な魔導士の素質を持っている。その素質ゆえ、全く疑わないという決断をギルドとしてできなかった。
万が一にも、そうであってはいけないと、真っ先にヒアリングをさせてもらいました。
結論としては、疑う余地もない。本当によかった。後で改めて、差し入れを持ってきます。お詫びにもなりませんが、どうか受け取ってください」
「ガーベラさんは、ハイディアくんにガールフレンドができて心配ですね?」
バリーが道理にない質問を投げかける。ガーベラは戸惑いつつも、小さな声で答える。
「そんなことは……すごく可愛らしくて、気の利く女の子で……」
ガーベラの勘違いが、俺の言葉に説得力を持たせてくれた訳だ。嘘をつかないがゆえに、バリーの疑いを晴らしたんだろう。皮肉だな。
「ガーベラ、もうやめてよ。恥ずかしいよ」
「……失礼いたしました」
バリーが俺の顔を覗き込んで、髪を手でくしゃくしゃとする。
「ハイディア、お前モテるんだな。あんまり女の子泣かすなよ!」
ニッと笑うバリー。ここは無言で俯けば良いだろう。
「おい、バリー。やめないか、失礼だぞ。
ハイディアくん、ガーベラさん、それではこれにて、失礼いたします」
意識が朦朧とする中だが、きちんと応えられたようだな。
────これ以上聞かれたらやばかったな。今は完全にキーワードがルナとリンクしている。なんだよ【夜の王】って、しかも俺の名前を名乗るだと。あいつめ、一体何を考えているんだ────。
二人の気配がなくなったことを確認して、俺は【ファントムシーフ】で自身の人形を作り、【ピンキードール】で操作を命じて、寝ているふりをさせる。
さて行くか────さすかに節々が痛むな。
つらっ……だがこれは今すぐに行かないとな。
◇
【モンタージュ・カタログ】でハイドの姿になった俺は、メインストリートを迂回して、単身でギルドを訪れる。
「こんばんは、バリーさん。何やら忙しそうですね」
「おお、ハイドか。
ここ数日、【夜の王・ハイディア】を名乗る何者かから、強力な魔物の遺体が相次いで届けられてな。一応聞くけどお前は知らないよな?」
きた────────。
「────思い当たる節が、ない訳ではないです。ですが確心ではない。期待には及ばないでしょうが、詳細を教えていただけるなら、私は私で調べてみることにしましょう」
「────そうか。この後見てみてくれ。何かわかったら知らせてほしい。まさかと思うが、夜の王・ハイディア……ハイド、似ている名前だけど、お前じゃないよな?」
「一度も名乗ったことありませんよ、そんな少年趣味な名前。それに、もともと私は二つ名の類はあまり好みません。
ただし、私が戦う様を見て、誰かが名付けていたりしたなら話は別ですが────」
「まあそうだよな。すまんな、変な質問して」
「では魔獣の遺体など見せてください」
冷凍室で魔獣の確認、斬り口、手紙──────間違いない。ルナの仕業だ。
ギリギリだった。やはり、確信を持たない状態で、嘘を見抜けるバリーの質問に答えなければいけなかった。ルナめ、病人を追い込みやがって。
「ふむ、どうやら寒気がしてきたので続きはまた今度。どうやらこの後、熱も上がりそうです」
「お前も流行病か? かなり辛いらしいからな、気をつけろよ」
「ありがとうございます。それでは────」
◇
ハイディア邸への訪問から約二十分後、バリーと別れたオールムが、単身で再びハイディア邸の呼び鈴を鳴らした。
「ガーベラさん、こちら差し入れです」
「ギルドマスター様が直々に、わざわざ申し訳ありません」
「いえ、ハイディアくんは────」
「寝てしまったようです。これ以上は、その……」
「もちろん、起こしていただく必要はありませんよ。随分と献身的に看護をされているんですね」
「はい、私はハイディア様のご実家でも、ずっと個人付けの従者でしたから。
こう言うのは憚られるのですが、弟のような、兄のような、すごく頼れるような、甘えさせてあげたいような、不思議な感情なんです」
照れくさそうに微笑み、ガーベラは頬を赤らめた。
「……本当にお邪魔しました。くれぐれもお大事になさってください。
最後に────ギルドとしては、ハイディアくんにただならぬ素質を感じている。お世辞抜きにです。これからもハイディアくんのご活躍には期待しております」
オールムは深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。私が言えた立場ではないのですが、くれぐれもよろしくお願いいたします」
ガーベラも深々とお辞儀を返した。
◇
「────ただいま」
オールムがギルドに戻ると、バリーが出迎える。
「オールムさん、おかえりなさい。ハイドが来てたんですよ」
「────いつ頃だ?」
「つい、今し方です。タッチの差でしたよ」
「そうか……。こっちは、差し入れを届けた時にはもうハイディアは眠ってしまったようだと、ガーベラさんから聞いた。
一応聞くが、お前の見立てで、ハイディアの疑いは?」
「疑う余地もないですね。シロです。
ガールフレンドの話以外は、概ね真実を語ってましたよ。十五歳ってあんなに奥手なもんですかね。
【誓いの夜明け】のパーティ戦では、小生意気な後方支援役といったところでしたが、照れまくってて、可愛いところあるじゃないですか」
腕を組んだバリーがニヤニヤと嫌な顔で笑う。
「お前────最後のガーベラさんへの質問は興味本位だろう。一応言っておくが、そのスキルの使い方は褒められたものじゃないからな」
「それくらい、いいじゃないですか。
────ところで、ハイドの方は【夜の王】に心当たりがあると。確信といえるかは五分五分って感じの答え方でしたね。ハイディア少年は何も知らないって感じだったのに、ハイドの方は少し気になる反応でした。
だから念の為、ハイドに、『お前が【夜の王・ハイディア】なのか』と問いました。当然ですが否定して、そこは真実と受け取りました。『気づかないうちに、誰かにそう呼ばれていない限りは』という、あらゆる可能性を考えるハイドらしい答えでしたが、ね。
そもそも二つ名は好きじゃないそうです。これも本音と捉えました。これで充分かと」
「ハイドらしい回答だ。言質と整合性が取れているならシロでいいだろう。
────よかったよ」
「ギルドの中においては、少なくとも【夜の王・ハイディア】という名前から連想できる二人はシロということですね。
特にハイドが【夜の王】だったら、ギルドの誰も敵わないことになる。それに────」
「ああ、ハイドの場合なら、ギルドに遺体を届けて、メッセージで名乗る意味がないからな。
多大なる実績を持つハイドが、何らかの理由で反旗を翻すとしても、そんなまどろっこしい真似をせず、ただ宣戦布告するだけで事足りるのだから」
「そうっすね。心当たりに期待していいのかは分かりませんが、ひょっこり【夜の王】も狩ってきてくれるかもしれませんよ」
「そう一筋縄ではいかない相手だろうがな。
まあ、ハイドに期待しつつ、こちらもきちんと調査して備えよう」
「あーあ、それにしてもガーベラちゃん、可愛かったなー。あの子全然嘘言わないんですよ。
あんないい子いないぞー。ハイディアの野郎、青春ラブコメしてやがんなー」
「まったくお前は……報告書を纏めるぞ。手伝ってくれ」
◆御礼
読了ありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ぜひぜひブックマーク、リアクション、評価、感想/レビューをいただけたら、ものすごく励みになります。よろしくお願いいたします。
◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
あなたの一票で、大きな支えを得られます。ログイン、フォロー/評価というお手間をかけてしまいますが、是非あなたの手で作品を育てていただけると、嬉しいです。何卒、よろしくお願いいたします!
◆告知②
本作で活躍する『ルナ』を主人公として、
完全独立スピンオフ短編
『最強魔王の筆頭配下、古書を探して『美少女探偵ムーブ』ひとり旅』を公開しました。
前後編で完結、10,000文字ぴったりでお送りする【あやかしキャラ文芸×短編ミステリー】として、カクヨムコンテスト11 短編部門に挑戦しています。
作品は作者ページにございます。
https://kakuyomu.jp/users/itka
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