第32話◆リンク〜ハイディアという名〜
◇
明くる木曜日の朝────。
ギルドマスターのオールムが出勤前に連絡を受け、ギルドに駆けつける。騒然とするハンターギルドで、側近のバリーが駆け寄る。
「オールムさん!」
「おはようバリー、状況は?」
「賊は裏口から侵入────屋外訓練場にオークキング、オークジェネラル、バインドベア、ストームバルチャー含む魔獣約六十体の遺体を置いていった模様。魔核は全て抜き取られていました。
現場はストームバルチャーがでかすぎて、どうにも対応が追いつきません」
「警備は────?」
「侵入を許したことには気づかず、朝の巡回で発覚したとのこと」
「遺体の状態は────死後経過はどのくらいだ?」
「一切腐敗してないことから、昨夜狩られたと見て良いかと。
気温も低いので、取り急ぎ、凍結魔法を使える職員で、遺体の温度を下げて保存してます」
「わかった、分析班と王国には?」
「すでに連絡済です。実況見分には────」
「俺も立ち会う。あと電話で聞いた【夜の王】というのは?」
「────これです」
バリーは、ビニールに入れられた手紙をオールムに渡す。近場で拾ったであろう新聞紙に魔獣の血で殴り書いたメッセージが残されていた。
『我が名は夜の王ハイディア。紛い物の王の首、まずは挨拶まで』
「夜の王……ハイディア?」
その名を聞いたオールムが眉を顰める。
「……数ある遺体の中央にはオークキングが据えられ、他の魔獣は取り囲むように配置されていました。オークキングは以前から目撃証言が上がっていて、調査隊を派遣するか検討中だったと、他の幹部から聞いています」
「ふむ、オークキングをはじめとする高難易度の魔獣を狩って、わざわざギルドに届ける。その真意がどこにあるのかだな」
オールムとバリーの話に、職員の若い男が割って入る。
「お話中すみません! 【冬の三連星】が戻りました。……夜の王にやられたと話しています」
「────いくぞ」
オールムとバリーも職員に続いて、屋内に移動する。
◇
「おい、大丈夫か? いけるか……?」
魔導士の男は意識を失い、剣士の男はぐったりと壁にもたれかかっている。バリーが駆け寄って魔導士の手首の脈を確認する。
「ガス欠の中で、転移魔法を使ってくれたからな、魔力枯渇の失神だよ────。あと、そっちは触れる時、気をつけてくれ。おそらく肋骨と顎の骨が折れている。すぐに医療機関へ手配を────」
「ドッジ、お前は平気なのか────?」
オールムが【冬の三連星】リーダーの男──ドッジに話しかける。
「身体はな────。魔力がすっからかんってだけだ。
あとは心がな────折れちまったよ。
三対一、それも相手は、俺たちのお目当てのオークキングを狩った後ってんだから、言い訳もできねぇ────」
「夜の王は……」
「魔王だよ────。
オークキングの伝令が野営をしていた俺たちのところに来た。幼いオークが両手をあげて、オークキングが魔王にやられているから助けてくれ、助けてくれたら人間に敵対することはしないからとな。
罠も疑ったが真に迫っていた。三人で向かうと、オークが流したと見られる血溜まりの中、ローブを被って仮面をつけた【夜の王】がいた。
あれは……ケルベロスを攫われたときと同じ蒼い魔力を纏っていた。あの時の少年も一味だと話していたから間違いない────」
「そいつが、伝令が言っていたという【夜の王】という確信は?」
「本人が名乗っていたからな。それに……あれが王じゃなくて配下だっていうなら、絶望だよ。
あんなのの上がいるっていうなら、それこそ人間に勝ち目は……クソッ!」
「………………」
「────なあ、オールム。もう、引退させて欲しい。ケルベロスの失態から、俺たちはこれ以上ないほど、牙を磨いたつもりだった。お前も知っているだろう?
だが、もう────」
「────泣き言は改めて聞く。まずオークキング討伐に乗り出したことは、お前たちがAランクパーティだから不問ではある──が、しかし、今回は状況から見て、オークキングがオークジェネラルとペアだった可能性が高い。お前たちの独断専行は極めて危険なものだった」
黙って聞くドッジに、オールムは続ける。
「だが、こうして三人揃って生きて帰ってこられたのなら、まだお前たちに天命はあるのだと、俺は思うがな────」
「────くくく、あいつにも言われたよ。今の俺たちには殺す価値もない、とな。
すまない────情けない理由で、あの二人の心意気まで無碍にするところだった。一から鍛錬して出直すとするよ。
今は……伝えられることをお前に全て伝える。【夜の王】は────危険だ」
ドッジとオールムのやり取りに立ち会っているバリーに背後から声がかかる。
「バリーさん、すみません」
「どうした、ロザリア?」
「先ほど依頼された、【夜の王・ハイディア】について、『ハイディア』に近い名前のギルド登録は五人確認しました」
「直近で動きがあるのは? ここ一年でいい」
「その条件だと……二名です。唯一、名前が完全一致した、Cランクのハイディア・ソルティレージュさんです」
「ああ、覚えてるよ。勇者ネージュの【誓いの夜明け】のメンバーだな」
「ええ、あと……その……言いづらいのですが」
「はぁ────。わかるよ。
ハイド・ムスブルグだろ──────」
バリーは頭を掻き、Sランクであり、筆頭ハンターの名前をため息とともに吐き出す。傍らで耳を傾けるオールムもまた、静かに目を瞑った。
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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◆告知②
本作で活躍する『ルナ』を主人公として、
完全独立スピンオフ短編
『最強魔王の筆頭配下、古書を探して『美少女探偵ムーブ』ひとり旅』を公開しました。
前後編で完結、10,000文字ぴったりでお送りする【あやかしキャラ文芸×短編ミステリー】として、カクヨムコンテスト11 短編部門に挑戦しています。
作品は作者ページにございます。
https://kakuyomu.jp/users/itka
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