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夜の王と契約魔法〜ルールで縛り、契約で奪う──契約魔法で成り上がる【無双×暗躍】譚〜  作者: 皆月いつか
第2章 夜の王 編

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第31話◆デジャヴ


 ルナがオークキングを討った、その半刻ほど後、三名の男がオークキングが散った辺りに足を踏み入れる。


「あのオークの言っていたのはこの辺りか────。確かに、つい今し方まで激しくぶつかり合った魔力の残滓ざんしが漂っている」


「【夜の王・ハイディア】だったか。オークの話は真に迫っていたが、罠という可能性も捨てきれん────。退避は号令に合わせて一斉に、抜かりなくな」


 歩みを進めるほど、獣の匂いが強くなる。見ればオークの遺体が転がっている。その先に佇む華奢な少女の後ろ姿を見つける。


「君、大丈夫か?

こんなところで何を────」


「待て、この魔力……魔獣だ。しかも桁外れに────」


 強い──────。


 三名は背を向けたままのルナを前に、流麗に位置関係を変え、戦闘のフォーメーションへ流れるように移る───。


 ルナは背後の気配に気づいていた。オークキングが逃した個体に魅了チャームされた応援だろうか、感じる気配は人間のそれである。

 人間を殺めてよいかは一存では決められまい────そう考えたルナは、ローブのフードを被り、魔力を使い、記憶にある書籍から着想した、マスカレードのような目元を覆うマスクを、指で描くように身につけ振り返る。


「まったく……『せんちめんたる』な空気を察してほしいものじゃ────」


 ルナの独り言は男たちには届かない。


「目を離すな、あのオークの話を信じるならオークジェネラル、オークキングを追い詰めた魔獣だ」


「ふむ────汝等はただものではないな。臨戦体制への移行があまりにスムーズじゃ。

人間でありながらオークに魅了されるのは、心に魔の巣食う闇の民であるということ。力の使い方が勿体ないのう」


「喋った……会話ができるのか……

貴様が【夜の王・ハイディア】か……?」


 何やら勘違いをしているようだが、その設定は好都合────そう考えたルナは答えを返す。


「くっくっく。その通り、《《我こそが》》【夜の王・ハイディア】じゃ。こんな夜の森に居る心の病んだ人間か、汝等は差し当たり、盗賊か人攫いと言ったところかのう──────。

こういったことはあまり性に合わないのだがな、やすやすと見過ごすわけにはいくまい。主も幼少期から悪人の類は狩っていたという。

気まぐれに、少々お仕置きをしてやろうぞ────。第三の目撃者がいるのはラッキーと考えることにしよう」


 ルナはゆらりと揺らめくと、蒼色の魔力を身に纏う。


「くるぞっ!!!」


 一人の男が剣を抜いて飛び出す。

 ルナは自身の身体を霧化させ、剣は身体を通過する。剣士の男は素早く二手目、三手目を繰り出すがルナの実体には届かない。


「なんだと……?」


「引け────恐らく物理無効だ!」


 背後のリーダー格と見られる男の指示に、剣士の男は一歩でルナの間合いから離脱する。


「判断が早いのう────見事なものじゃ」


 中央の魔導士の男が詠唱を始めると、ルナは身体がズンと重くなるのを感じる。


「ふむ、フィールドにいる敵を対象にしたデバフの類か? 範囲も広く、効果も充分。かなりの凄腕と見た────」


 リーダーの男が詠唱すると、剣士の持つ剣に魔力がみなぎる。再び剣士がルナに飛びかかる。


「はあああああああっ──────!」


 ルナは霧化で受け流そうとするが、リーダーが付与した燃焼性の魔力を纏う剣により、霧化した部位が焼かれる。


「ほう、この短期間で我のロジックを看破したか。

これはまた随分と狩りがいのある相手じゃ────」


「ほざけっ────────!」


 ルナは霧化した魔力を鋭く硬化させ、オークジェネラルから学んだ鎌鼬かまいたちで応戦する。


「なっ……なんだ……この技は……」


 リーダーの男が魔弾を放ち、ルナの猛攻を遠方から牽制する。ルナの鎌鼬は魔弾をも斬り裂くが、威力は概ね同等で多くは相殺される。男が放つ魔弾の手数があまりに多い。


「おい、剣筋が中途半端だ。引くか押すかどちらかにしろ────。

敵のやいばの一手一手は、覚悟さえあれば耐えられないものではない。急所にだけ気をつけろ」


 リーダーの男の指示は的確────ならば。


 ドッ──────────


「んぐうっっ────────」


 ルナは鎌鼬を囮に、自らの足で剣士の鳩尾みぞおちを蹴り、生じた隙から、顎を殴り飛ばす。


「くそっ────こちらの手の内も読まれてるか。重力をさらに三倍、いや五倍、限界まで落とせっ!!」


 リーダーの男の指示で、魔導士が限界に迫る苦悶を顔に浮かべながらも、更にデバフを強める。顔を滴る脂汗が地に落ちて滲む。リーダーの魔弾も両手で投げるように放たれて、ルナに近づく隙を与えない。


「やるのう────。こんな連中がオークごときに魅了されるとは実に解せん」


 リーダーの回復魔法を受け、剣士が立ち上がり、再び戦線に立つ。


「────かなり訓練されている。

いや、これは実戦経験か────。まるで強靭な個を常に仮想敵にして腕を磨いているような流麗さじゃ。オークの連中などより、よほど歯応えがある」


 ダメージの抜けきらない剣士が再びルナに蹴り飛ばされると、剣士はそのまま転がり、体勢を立て直して魔導士の側に寄る。


「俺は魔力の放出が苦手でね……」


 剣士がニヤリと笑い、渾身の魔力を、掴んだ肩から魔導士に流し込む。魔導士は剣士の魔力を受け、自身もありったけの魔力をたぎらせる。


「【呪縛封呪じゅばくふうじゅ】──────」


「むっ──────」


 魔導士の手の動きに合わせて、ルナの動きが縄状に錬成された魔力で縛られる。金色の魔力が押さえ込むようにしてルナの身体を包む。しかし────ルナの溢れる蒼い魔力を御しきれない。


 バチバチッ──────バキッ────


「なんて奴だっ……!

リーダー、ダメだっ……すぐに封呪を破られる。生け捕りは無理だっ!!」


「だろうな。しかしもう大丈夫だ。

今だっ──奥義【破天】──────!」


 ゴッ──────────


 リーダーの放った特大の弾頭がルナを捉え、森の一面ごと爆発とともに破壊し尽くす。突風に煽られた煙がブワッと辺りを覆う。


「はぁ……はぁ……どうだっ…………」


「跡形もないな……俺ももう煙も出せないぜ……」


「あのさ、あいつ……やっぱりさ……」


 ブワッ────────────


 次の瞬間、充満する煙を風がさらい、安堵していた一同が悪寒に晒される。未だ煙立つ爆心地を闊歩する小さい足音が近づいてくる────。


天晴あっぱれじゃ。集団戦法の極みを見た。これは我も配下を持った際、存分に参考にさせてもらおう。

防御があと一瞬遅れただけで大ダメージになるところじゃった────」


「なん……だと…………」


 へたるように地に膝をつく一同。魔力製のローブを再び纏い直したルナの身体からは、蒼い魔力が煌々と湧き立つようにたち登る。


「どうやら、そこまでのようじゃな。瞳を見るに、正気を取り戻したように思えるが、オークの魅了は解けたのかのう?」


「何を……言っている……」


「その実力をなぜ正しきことのために使わん? 

悪事に手を染めるには、あまりに惜しい実力じゃぞ────」


「何を……訳の分からんことを……

くそっ……ここまでか……」


 剣士の男が、消え入りそうな声で力なく呟くと、リーダーの男がルナに問いかける。


「ひとつ、聞かせろ。

貴様──夜の王・ハイディアの配下に、かつて我々からケルベロスを攫っていった少年はいるか?

あの少年を倒すために、俺達は腕を磨き、血反吐ちへどを吐きながら、フォーメーションを徹底的に磨き上げたのに……畜生ッ……」


 涙を流しながら、悔しさに歯を食いしばるリーダーの男の言葉。ルナの中で、ハイディアから聞いたケルベロスとの出会いのエピソードと、あの場から立ち去ったオークの少年が泣きついたであろう状況が繋がる────。

 ルナの頬を今日初めて冷や汗がたらりと伝う。


「なるほど……汝等はオークに泣きつかれて来た、えーと……英雄パーティ?」


「ふん────もはや俺たちには、『英雄』などという二つ名は相応ふさわしくない。

俺たちに先はない……殺せっ……」


 膝で立ち、こうべを垂れ、目を瞑り、とどめを待つリーダーの男。他の二人もその想いに従う。


(────これは完全に腹を括り、覚悟を決めた男の言葉。完全にやってしまった。

勘違いじゃったごめんねてへぺろこつんとは言えない雰囲気じゃな。

 さすがにこの状況で引退までさせては心苦しい。上手く切り抜ける方法はないかのう……ええい、ままよ)


 ルナは不敵な笑みを浮かべ、三人を見下す。


「────今のお前たちなぞ、殺す価値もない。

更なる高みを目指すが良い。その牙が我が首元まで届かんとするとき、初めてこの手で殺めてやることにしよう。貴様らにはまだ伸び代がある。

我が名は【夜の王・ハイディア】────。

ケルベロスも我が配下として牙を研いでいる。貴様らも次に相まみえる時、殺すに値する敵であること、我に証明してみせよ」


 ────ということにしよう。


 ルナは霧散し、勘違いしたバツの悪さからそそくさとその場を後にする。オークキングをはじめ、主だった遺体をひとしきり回収した後で良かった、この後こっそりジェネラルとバインドベアだけ回収しよう────そんなことを考えていた。


「くそっ────────!!」


 男達は無念さから、その場を動くことすらできずにいた。

 そしてその様子を見届け、男たちに救いを求めたオークキングの子息──ガロは、身を潜めた物陰から黙ってその場を後にした。




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◆あと書き

読了、ありがとうございます。毎日エピソードを追ってくださる皆さまが、執筆の励みになっています。心から感謝申し上げます……。


https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427/episodes/822139839658658371


明日の18時03分に、

『第31話◆リンク』更新予定です。よろしくお願いいたします。

寒い日が続きます。皆さまもどうか風邪など引かれませぬよう、ご自愛ください。


◆御礼

読了ありがとうございます!

面白いと思っていただけたら、ぜひぜひブックマーク、リアクション、評価、感想/レビューをいただけたら、ものすごく励みになります。よろしくお願いいたします。


さて────この三人組を見て、何か胸につかえたような感覚の方はいらっしゃいますか?

第0章/第8話を読み返していただけると、そのつかえの正体が分かるかもしれません。もしリンクしたなら、作者冥利に尽きます。

https://ncode.syosetu.com/n6443lj/8


◆告知

『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)

https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427

おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。

あなたの一票で、大きな支えを得られます。ログイン、フォロー/評価というお手間をかけてしまいますが、是非あなたの手で作品を育てていただけると、嬉しいです。何卒、よろしくお願いいたします!


◆告知②

本作で活躍する『ルナ』を主人公として、

完全独立スピンオフ短編

『最強魔王の筆頭配下、古書を探して『美少女探偵ムーブ』ひとり旅』を公開しました。

前後編で完結、10,000文字ぴったりでお送りする【あやかしキャラ文芸×短編ミステリー】として、カクヨムコンテスト11 短編部門に挑戦しています。

作品は作者ページにございます。

https://kakuyomu.jp/users/itka

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