第26話◆それぞれの夜明け〜ラブコメというなかれ〜
◇
ルナとの出会いの後、色々と考えたが、ルナにはハイドが借り上げている家に住んでもらうことにした。擬人化もできる上、言語も完璧に理解している。俄には信じ難いが、普通に暮らす分にはまったく問題がなさそうだ。変異種というよりも、俺と同じ特異点のような存在なのかもしれないな。
夜が明けたら、俺は学院に行かなくてはならない。色々と必要だろうと、ひとまず屋敷に立ち寄ることにした。
もう時間も遅いし、先に休んでくれと言っておいたからガーベラも寝ているだろう。
「静かに入ってくれ。同居人を起こしたくない」
囁くようにルナに話す。
「うむ、ここは古いが落ち着く屋敷だな。
今度こちらにも招待して欲しいものだ」
「折を見てな──────」
「もしかして、同居人に我の姿を見られたくないのか?」
「そんなところだ。話すにしても段階がある。
そうだ、念のためにムーンラビットの姿に────」
「ハイディア様……?」
見っかった──────。
ガーベラがこちらを見ている。
ルナはムーンラビットの姿に────なっていない。これは十五歳の少年が、夜更けにこっそりと少女を連れ込んでいるように見えなくもない訳で。
「────失礼しました。お休みなさいませ」
にっこりと微笑んで、自室に入ろうとするガーベラを慌てて引き止める。
「いや、待ってガーベラ。おそらく誤解をしている────」
「いえ、これは私が寝ぼけて見た夢です。最近多いんです、こういう夢。朝になれば忘れましょう。お気になさらず、どうぞごゆっくり」
「違う! それが違うんだ!
いや、今日俺は確かに勇者パーティで討伐に出かけると言った。帰らないかもしれないとも言った。
それが女の子を連れてこっそり帰ってきたとなれば、君も混乱するだろう。違う、違うんだよ────」
「いいんです、私こそ配慮が足らず申し訳ありませんでした。
ハイディア様も年頃の男の子ですものね」
優しい笑みのガーベラがすごく怖い。魔王が初めて感じた恐怖がこれでいいのか。
「違うんだよー
ルナ、ルナからも説明してくれ」
「うむ、我はルナ。よろしくな、ガーベラ」
「違う、自己紹介はいい。お前が今日なんでここに来たかをガーベラに説明してくれ!」
「いいんです、ハイディア様。
一介の従者に何も配慮など要りません」
「そう言わないでくれ、誤解なんだって」
ルナがうんうんと頷いてみせる。
「────なるほど、状況は概ね理解した。
安心しろ我が主よ。この場合は誠実に事実を伝えるべきと心得る」
実に頼りになるものだ。
これでこそ我が配下だ──────。
「えーと、ガーベラとやら。先ほど我はハイディアの胸に飛び込んで、腕の中で口説かれてだな。月明りの下で運命の出会いを────」
──────終わった。
「ルナ様。ロマンティックなお話の続きは、どうぞお二人で。お部屋のお掃除も済んでいますし、まだ朝まで時間はございます。
この屋敷は古いですが、扉を閉めれば声は通りにくいです。お邪魔をして申し訳ありません」
笑顔のままのガーベラがドアを閉める音が響く。押し切られてしまった────。
「もしかして、我は何かまずいことを言ったかのう……?」
ルナが指でこめかみあたりを掻きながら、気まずそうに笑ってみせる。
「いや、気にしないでくれ。すべて俺が悪いんだ────」
◇
夜明け前、ハイドの邸宅にて。
「こちらも立派な屋敷ではないか────」
「ああ、好きに使ってくれ────」
「どうした? 随分と元気がないが」
「放っておいてくれ、人間には色々あるんだ────」
「そうかそうか。早速だがシャワーを借りたい。タオルはどこじゃ?」
「それなら棚の上に……って、おい。
シャワーとかタオルとか、なんで人間生活に順応してるんだよ」
「擬人化しては、しばしば人間として街へ下りておったからのう。読書と人間観察が面白くてな。人間としての知識はそれなりに持っておる」
「どういう魔獣だよ……」
「たまに薬草を持ち込みで売ったりしてな。薬屋の店長とは顔馴染みじゃ。
古本を買い込んでは読み漁り、それを売ってはまた買うなどしていた」
「それはもはや人間だな──────」
ふと、先ほどの出来事を思い起こす。
「待て。じゃあ、さっきはガーベラにもう少し上手く言い訳できたんじゃないか……?」
「あれは咄嗟にテンパってしまってのう……
でも途中から、これが愛憎劇────限りなく黒に近い状況で、慌てふためく男の姿かと思ってな。胸が滾ってしまった────」
「ふざっ────」
「まあ、こういうときは改めてきちんと弁明すると良い。
あの場で、あれこれ言っても嘘くさくなるだけ。主は誠実じゃからな。その主が信用しているガーベラが、主の言うことをきちんと聞かない筈があるまい。
お互いに冷静に、二人きりで話すと良い。昨日今日の付き合いでもあるまいに」
「────ぐうの音も出ないな」
「ああ、押し倒して無理やり分からせようなどという物語もあるが、あれは男目線のくだらん夢物語じゃ。逆効果だからやめておくようにな」
ルナが満面の笑みを見せる。
「…………」
「さーて。シャワーじゃ、シャワー。ここのシャワーの水圧は、我のお眼鏡に敵うかのう────」
俺は諦めたように笑った。確かにルナの言う通り、ガーベラとの関係はそんなに脆弱なものでもない────と思いたい。
◇
とは言ったものの、気まずくて屋敷に帰れずにいた俺は、放課後を使い、ルナに学内と街、俺に纏わる環境を案内することにした。
平日はネージュとイーナにより立てられた学業優先の方針で、【誓いの夜明け】のストームバルチャーの討伐の続きは次の週末以降になる予定だし、どこかで、お目当てのストームバルチャーが偶然遭遇したハイド・ムスブルグにより討伐されたと【誓いの夜明け】に一報が入るはずだから、無駄足を踏むことはないだろう。
「────しかし主は随分面白そうなことをやっておるのじゃのう」
「そうか?」
「うむ、悪辣な『ざまぁ系の復讐譚』と言ったところじゃ」
「復讐譚のつもりは無いんだがな。
昨夜も話したが、転生当初に弟に会ったら復讐心から八つ裂きにしていたかも知れないが、転生から十五年。俺の人生はもはや後ろを向いていない。今出会ったところで、攻撃してくるのは向こうからだろうしな」
「向こうは主のことを今も恨んでいると?」
「ああ、奴は執念深い。しかも作り話をする悪癖を母親から受け継いでいるからな。人の同情を誘うために俺への恨み辛みを創作し、それを何度も口にするうちに真実と思い込む阿呆だ。奴の人生はその繰り返しだよ。
下手すると前世で俺に殺されたことになっている可能性すらあるな」
「主の弟とは思えんな。今世で名を上げるようなことはないと言えるのか?」
「────可能性は薄いな。衝動以外の行動力はない。
明日から頑張る、今はまだ本気を出していない────を死ぬまで続けるタイプだよ」
「ふむ、水と油じゃな」
「少しだけ────ほんの少しだけ、力をつけたことで行動力を学び、前世を悔やみ弱き者を助ける勇者になっていることを願う気持ちはある。今世は出生の前後で、勇者はギフテッドを見抜かれるようだしな」
「そうだな、我も相見えることを楽しみにしておこう」
「これに関しては、お前に会わせたくない気持ちの方が強い。転生してなお身内の恥扱いだ。複雑だよ────」
◆御礼
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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◆告知②
本作で活躍する『ルナ』を主人公として、
完全独立スピンオフ短編
『最強魔王の筆頭配下、古書を探して『美少女探偵ムーブ』ひとり旅』を公開しました。
前後編で完結、10,000文字ぴったりでお送りする【あやかしキャラ文芸×短編ミステリー】として、カクヨムコンテスト11 短編部門に挑戦しています。
作品は作者ページにございます。
https://kakuyomu.jp/users/itka
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