第23話◆笑ってはいけない「勇者パーティ」
◇
コカトリス討伐の翌朝、登校前にアルヴァンが家に寄る。
「なあ、ハイディア。俺……今日学園に行きたくないんだが……」
「それはいつものことだろう。
────だが奇遇だな、今朝は俺もだ」
ここまで誰ともパーティを組んでいなかった、勇者ネージュと聖女イーナ。
その二人がここに来て急遽パーティを結成し、更にAランク魔獣のコカトリスを三体も討伐してみせたのだ。噂になっていない筈はない。
「俺ぁ、こういう悪目立ちみたいのは苦手なんだよ……」
「どの口がそれを言う。
というか、悪目立ちとは真逆だろう。
栄誉なことなんだから────」
「じゃあ、何でお前は行きたくねーんだよ?」
「悪目立ちしたくないんだよ────
俺はお前ら三人と違って、ぽっと出なんだぞ。
見るからにお前のバーターだし、さぞ妬まれるだろうな────」
「互いに気乗りしないには変わらねーな。
サボっちまうか…………」
「お二人ともそろそろお時間ですよ。お気をつけていってらっしゃいませ。
間に合ったので、勝手ながら二人分のお弁当を作りました。
よろしかったらお持ちください」
────ダメだ、ガーベラの笑顔には敵わない。
「いくか──────」
「だな──────」
重い足を引きずってアルヴァンと二人、学園へ向かう。
「奥から旨そうな匂いしてたもんな。
まあ、弁当を楽しみにいくとするか。
ガーベラちゃんの気持ちを無碍にする訳にはいかねーからな……」
「ああ、そうだな。
ガーベラの弁当は美味いぞ。期待しておけよ────」
◇
教室に向かう道中ですら、あちこちから視線と噂話の声を感じる。
アルヴァンはフレッシャーズカップ準優勝者だが、俺は「お前誰だよ」状態だからな……視線が痛い。
やっとの思いで教室まで着く────。
「おはよう! アルヴァン、ハイディア!」
とびきり明るいネージュの声が教室に響く。
何も、このタイミングで待っていなくても。
「勇者様は朝から元気いっぱいだな……。
頭痛くなってきたぜ」
「そう言うなアルヴァン……。
おはよう、ネージュ────」
「どうした、二人とも。
先日の疲れかい? ぐったりしてるね」
「まあ、そんなところだ────」
「次の学内大会、パーティ戦に出られることになったんだ。
あと、王国からコカトリス討伐の感謝状が出ることになったらしいとさっき先生が…………
そうそう、パーティ名だけど────」
「────朝っぱらから情報量が多いな。
俺たちゃ朝弱いんだ、後でまた教えてくれ」
「そうなのか……それはすまなかった!
でも勇者パーティたるもの、朝から動けるようにして────おや、予鈴だね。じゃ、また!」
ネージュが颯爽と教室から出ていく。
「まるで春の嵐だな────」
「掻き回すだけ掻き回していきやがって……」
教室内はすっかりざわついている。
俺とアルヴァンは空いている後方の席に並んで座る。
「おい……アルヴァン。勇者様とパーティ組んだんだってな」
「ハイディアも……マジなのか……?
お前の固有スキルすごいらしいな!」
どうやらネージュが余すことなく話してくれていたようで、質問責めは回避できた。
まったく、良いのか悪いのか────
というか、人の固有スキルを濫りに他人に話すなよ。
クラス内はそれで良かったが、この日は他の学年やクラスから見物に来る奴がいるほど、好奇の目に晒され続けた。
◇
自然と、昼食は離れの屋上でとる流れになった。教室にいてはまるで動物園の餌やり見物だ。
「ハイディア……俺、弁当食べてるこの時間が、今日のハイライトだ……」
「俺もだよ。実に沁みる味だな────。
だが一応、この後ネージュのところに行っておこう。
さすがに朝の話の途中で逃げちゃ駄目だろう」
「学内大会は締め切り過ぎてた筈なんだけどなあ……」
「力技だろ? 全校で噂になってる、表彰ものの勇者パーティだ。
ちょうど、マダガルたちが参加する筈だった枠もあるだろうしな────」
「皮肉なもんだな、死んだマダガルの怨念か?」
「生きてるって──────」
◇
放課後、学園のカフェテリア前で、パーティ四人が集合する。ネージュが中心となって、議題を持ちかける。概ね、朝矢継ぎ早に話した内容が続く。
「────という訳で、
僕ら『純白の戦剣倶楽部』は────」
それはあまりに不意打ちだった。
「ちょっ……待っ……おま…………マジか……」
アルヴァンの表情が強張り、ぷるぷると震える。
「もう一回……
パーティ名をもう一回……
正式に言ってもらってもいいか……?」
「おい……ハイディア、やめろって……」
「僕ら【純白の戦剣倶楽部】は────」
ネージュは真剣そのものだ。
俺は俺でもう限界だった────。
「駄目だ……話が……全然入ってこない……」
「純白の……戦剣倶楽部って……」
「いい名だろう? 寝る間も惜しんで考えたんだ!」
「寝る間も…………?」
「よせ、アルヴァン。皆まで言うな…………」
予想の斜め上をいく、珍妙なパーティ名を連呼するネージュに対し、必死に笑いを堪える俺とアルヴァン。
そしてさっきから気配を消しているが、イーナもずっと下を向いて動かない。アルヴァンが笑いの連鎖を途切れさせるべく、話を纏める。
「オーケー! わかった、ふふ……
その【純白の石鹸倶楽部】が、俺らのパーティ名……なんだよな?」
「石鹸じゃない、戦剣だ!
純白の石鹸って……クリーニング店じゃあるまいし……」
『ぷっ………………』
全員が吹き出す、全員アウト────だ。
「なんだ、どうした皆?」
笑いが止まらない。
「まさかのたとえツッコミか。ネージュはセンスがあるな────」
「聖剣じゃなくて、とんだ飛び道具じゃねえか……」
「そうね、ネージュ…………
クリーニング店みたいに思われたら良くないわ。
ふふ、他の名前にしましょう…………」
「いやいい、パーティ名なんて要らない!」
すっかり拗ねてしまったネージュとは裏腹に、俺の悪戯心に火がつく。
「二人とも────笑うなんて失礼だぞ。
ネージュは一生懸命、俺たちのためにパーティ名を考えてくれたんじゃないか。
ちなみに、ネージュ。他にはどんなものを考えていたんだ?
俺は、君が寝る間も惜しんで、考えてくれた他の候補も是非聞いてみたい────」
そっぽを向いていたネージュは、ニッコニコで振り返り、何事も無かったように誇らしく笑みを見せる。
機嫌はすっかり戻ったようで、嬉々として話し始める。
「ああ、他にも自信作はある…………。
【聖域の月蝕調査団】
【我ら四勇】
【やわらかい終末】
【タクチャカ・イベリスタル・セル】…………」
「何て──────?」
「タクチャカ! イベリスタル! セルだ!」
その後も『笑ってはいけない勇者パーティ』の試練は続いた。笑うたびに尻をハリセンで叩かれるショーなら、全員すっかり尻が腫れ上がっていたことだろう。
────思った通り、やはりネージュは天然だった。
◇
結局、最後はイーナが上手く纏めてくれて、パーティ名は【誓いの夜明け】となった。ネージュも納得した様子で微笑んでいた。
アルヴァンと帰り道で反省会をする。
「一時はどうなることかと思ったが、そこそこまともな名前になって良かったな」
「アルヴァンが石鹸とか言うからだぞ────」
「そうだ! お前、ちゃっかり自分だけ笑ってないことにしやがったろ。
それにしても、最後の怒涛のラッシュはやばかったな……」
「【タクチャカ・イベリスタル・セル】だったか?
あの文字の羅列は何処から持ってきたんだ。
くく……あれを寝る間も惜しんで考えるあたり、笑いのセンスはなかなかだぞ」
「【やわらかい終末】って何だよ……
やわらかいって……ふふっ、どんなパーティだよ……」
アルヴァンは思い出し笑いをする。よほどネージュの天然がツボだったらしい。
散々笑っておいて何だが、どっと疲れた一日だった。
【誓いの夜明け】か──────
魔王の闇魔法はしばしば夜の闇に例えられ、俺の魔力は月の光彩にも似る。
まさか、その夜の終焉を名付けるとはな。
偶然だとしても、勇者と魔王の因縁を感じさせるものだ。
◆御礼
読了ありがとうございます!
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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