第19話◆答え合わせ
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俺は【ハイドアウト・ドア】の扉を開けると、一歩一歩と歩みを進める。ケルベロスも後に続く。
マダガルたちはまだ状況が飲み込めず、凍りついたままだ。
「異空間に入ると指示が途切れるのか────。
リアルタイムではなく、最初にもっと複雑にプログラムしておくべきだったな。
まあいい、これからゆっくり慣らしていこう────」
俺が軽く腰のあたりを蹴飛ばすと、ベモはその場に力なく崩れ落ちる。
「ハイディア。貴様、どういうことだ……?」
マダガルが俺に問いかける。
「どうもこうもない。
返済期限までに、貸した魔力を返してもらえなかったからな。契約に則って、固有スキルを差し押さえただけの話だ。
ベモの【ハイドアウト・ドア】────
ああ、転がっている人形はベモじゃないぞ。ローレンの【ファントム・シーフ】で、複製したベモの人形だ。
そいつを、ギズマの【ピンキードール】で操って動かしてな────。
ヴィーユの【マイ・ゴシップライター】も差し押さえ済みだ。俺の眼には四人の姿がしっかりと映っている。
四人とも皆、別室でお前達を待っている。大丈夫、すぐに会えるさ────」
「……俺様を……ハメやがったのか?」
「おいおい、どの口で言うんだよ。
貸したものを返さない奴が悪い──そうは思わないか、マダガルよ」
「ハイドはどこだ────?」
「────ここには来ない。
ケルベロスならいるぞ、戦ってみるか?」
俺は双頭のケルベロスを手懐けている様子を見せつける。
ケルベロスが偽物だと疑うこともできるだろうが、誰もしない。
俺の言うことが真に迫っている、その表れだろう。
「マダガルよ。
お前に貸し付けた魔力も既に、お前の生涯をかけても返済不能なくらい膨らんでいるんだ。
耳を揃えて返してもらうか、返してもらうまで固有スキルを強制的に差し押さえるかしかないな────
すべて契約書にある通りだ、こつこつと積み上げた魔力使用量に、取り決めた利子が掛かり、複利で雪だるま式に増えた結果だな」
マダガルは俺を睨むだけで、何も話さない。
追い込まれている状況で、この胆力は大したものだ。わかりやすく狼狽える取り巻きたちとは全く違う。
「マダガルさん、どうなってんだ?
ハイディアの野郎、何言ってるんですか?」
「奴が言ってること、本当なのか?
ねえ、マダガルさん…………」
そんな中、エドワードがヘラヘラと俺に話しかける。
「なあ、ハイディア。
必ず返すからさ、もう少し待ってくれないか。
へへ、友達だろう俺たちさ……」
「エドワード、昨日お前が教えてくれたじゃないか────。
俺から魔法を借りて返してくれる奴なんていない、だろ?
所詮俺は利用されて終わり、なんだよな?
だったらきちんと取り立てないと────
待っていたら取りっぱぐれちまうだろうが」
「おいおい、それは────」
「吐いた唾を呑むなよ────。
俺はお前にだけは昨日確認してやった。
風見鶏じゃあるまいし、お前が選んだ道だろ。腹括ってマダガルについていけよ────」
「ぐっ…………」
エドワードは言葉に詰まった。
さて次はニューロのドスの利いた声か。
「おい、ハイディア……
お前こんなことしてタダで済むと思ってんじゃねえだろうな?」
「タダでなんか済ます訳ないだろ。
貸したもん返してもらうまで、きっちり詰めてやるよ────」
「そうじゃねえ!
マダガルさんは侯爵家の────」
「────お前こそ、そうじゃないだろ。
侯爵家のお坊ちゃんだって分かってここまで詰めてんだよ、分かれよ。
大事な固有スキル差し出して、魔力もくれてやって、そんなうまい話があるかよ────」
ニューロもこれ以上言葉はなかった。
「で、どうするよマダガル────。
頭張ってるお前はどうするんだ、睨んでるだけで何もしないのか?」
「────何が望みだ?」
思っていたよりもずっとか細い声で、マダガルが俺に訊ねる。
「貸した魔力を返してもらうこと────俺は最初から一貫してそれだけだ」
「俺様たちに他にできることは…………」
「俺を殺せば、魔力の返済義務はなくなるな。
だがここは【ハイドアウト・ドア】の中だ。
所有者の俺を殺すと、二度とここから出られない。お前の考えている通りだな。
だから────そうだな。
この場で俺を半殺しにして、ドアから出た後で殺せばいいんじゃないか?
もしくは俺が今も持っている契約書の原本を破るってのも手だな」
取り巻きたちがざわつく。
「落ち着けよ────
お前らは、俺が非力だから、取り立てなんてしないと勘違いしていたんだよな。
だがそうじゃない。契約書の通り、強制執行はいつでも可能だ。
俺はお前たちが攻撃を仕掛ける前に、執行を発動するぞ。そうするとお前たちは、固有スキルはおろか、魔力がない状態で、俺と戦わなくてはいけない。
いくら俺が雑魚同然でも、魔力のないお前たちとどっちが強いかくらい────分かるよな?」
「おいハイディア、魔法と魔力を使わせてやれよ────」
アルヴァンが奥の部屋から出てくる。
「アルヴァン・クルーガー、
貴様もグルだったのかっ…………!」
忌々しそうにマダガルが吐き捨てる。
「ああ、そうさ。
だが今はマダガル、お前の味方をしてやってるぞ。
なあハイディア、こいつらケルベロスを倒すために必死に鍛錬してきたんだろ。
少しは見せ場を作ってやってもいいじゃねえか」
「──────駄目だ。
俺にとってメリットがない」
「こいつらが能力使うほど、お前への借金は膨れるんだろ?」
「こいつらはもう既にパンクしてる。もう充分なんだよ────」
「わあったよ! じゃあ、ここからはマダガルの誠意の問題だ」
「何がわかったんだよ…………」
「マダガル、お前土下座してハイディアの靴舐めろ」
「────────!」
「テメェ、マダガルさんの…………」
ニューロが口にしかけて、言葉に窮する。そう、この問いの答えは既に済んでいる。
マダガルの立場は重々理解して、その上でアルヴァンは提案しているのだから。
「────靴舐めはいいよ、汚くなるから。
アルヴァンに免じて土下座で勘弁してやろう。よかったなマダガル────」
「ちっ、わかったよ…………」
「わかったよ、じゃねえだろ。アルヴァン様ありがとうございます、だろ?
おい、ハイディア。やっぱ今の話無しだ。
強制執行しちまえよ」
「待て、いや……待ってくださいッ。
アルヴァン様……申し訳あり……ませんッ。
俺様の、私の味方になって……くださって、ありがとうございますッ……」
「おうよ! 最初からそうしてろよ。
何が『俺様』だよ、頭が高えんだよ。豚野郎が」
「ぐぬっ────ぐぐぐぐぐっ────」
声にならない怒りが、唸り声となってマダガルの口から漏れる。
「わかったよ。
俺も自分の能力を、他人が使うとどうなるか見ておきたいしな。
俺に負けを認めさせたら、固有スキルはお前らにくれてやるよ。魔力の返済も免除してやる。
その代わり、お前たちが負けたら────
──────死ぬまで俺の奴隷だからな」




