第14話◆交渉II
◇
【モンタージュ・カタログ】でハイドの姿となったハイディアは、マダガルの屋敷に到着し、メイドと執事が二人を出迎える。
「こちらが我が屋敷──とはいえ、在学中の生活のために、父が買い上げたもの。
仮初の邸で恐れ入るが、どうぞお上がりください」
「いえいえ、素敵なお屋敷です。それではお邪魔いたします」
(さすがに遊び部屋は閉鎖し、取り巻きも呼んでいないか────。最初から屋敷にハイドを招く想定でいたのだろうな)
通された応接室で、メイドが茶を淹れる。
「お前たち、これから私は客人と大事な話がある。何人もこの部屋に近づかぬようにな」
「畏まりました、ご主人様」
メイドが退室する。
「それでは念のために……」
ハイドは防音魔法を展開する。マダガルはその流麗さに驚いた様子で称える。
「いやはや、これは見事な防音魔法……。
さすがにSランクハンターは伊達じゃないですな」
「ふふ、そんなに褒めていただくほどのことでもありません。それよりも早速本題に入りましょう」
「小耳に挟んだのですが────報酬に拘りのないパーティをお探しとか?」
「その通りです。
ですが、そんな酔狂なパーティや、ソロハンターはそうそう居ないもので……」
「まあ、そうでしょうな」
「聞けば、貴方はパーティとしての実績を欲しがっていらっしゃるとか?」
「有り体に言うとその通り。先日、Bランクのイーヴィルアイの群れを、デビュー戦で討伐しましてな」
「ほう、それは素晴らしい────。
私も初めての討伐はBランクのオークの変異種でした。まるで同じ道を辿っているようで、親近感が湧きますね」
マダガルは誇らしげに頷く。
「学生なのでハンターに専念はできないものの、パーティとしては更なる箔が欲しい。
パーティ全員が固有スキルを持っているとはいえ、クローズドの高ランクの討伐依頼なんてそうそう貰えないという、困った状況でしてな」
「互いにとって都合がいいということですね。
家柄も良く、有り余る富をお持ちの貴方には、討伐報酬はおまけのようなものでしょうから」
「その通り──────」
「それなら話は早い。討伐は私一人でやります。居ていただくだけで結構なので、即席パーティとして手を組みましょう」
「ハイドさん、あなたを疑うわけではない。
だが、討伐確度はそんなに高いのかね」
「ふふふ、ご心配には及びません────。
確度は百パーセント、それ以上でもそれ以下でもありませんよ。
何故かは、当日わかりましょう────」
マダガルは、ハイドが纏う魔力が研ぎ澄まされるのを感じる。
「ハイドさん、貴方は金が目的か?
もしそうなら、俺様……いや、私が貴方を個人的に雇う。無論ハンターギルドよりも色をつける」
「有難いお誘いですが、私は人に仕えるのが苦手なのです。だからこうして、王国からの士官命令を無視して、ソロハンターでいるんです」
「────本当に味方につけたい相手こそ、なかなか思う通りにいかないものだな」
「『協力』であれば惜しまずにいたしましょう。
例えば、今回のケルベロスの討伐、すべて貴方たちの手柄にしても良い」
「何だと……」
「生憎、私は名声に一切の興味がない。互いに欲する物が真逆ということです。
報酬に貴方が個人的に上乗せをしてくれるのならば、私は陰に徹してもいい────」
「……本当か?」
まさかの提案にマダガルが前のめりになる。
「一点問題があるとすれば────
ケルベロスの討伐をお譲りしたとしても、万が一、貴方のパーティの実力が追いついていなければ、メッキはやがて剥がれてしまうことでしょう」
「うむ。私はともかくパーティメンバーの実力には不安がないこともない」
「では、こうしましょう。貴方たちの討伐を私が見守ります。誰か一人でも危険が迫った場合は、私が助け舟を出すというのはいかがでしょう」
「是非もないこと。だがこの取り決めを交わす前にどうしても聞きたいことがある」
「何なりとどうぞ────」
「失礼を承知で、改めて問おう……
なぜ、そこまでケルベロス討伐に自信がある?
もとより自身以外のパーティは人数合わせで構わないと仰っていたようだが、
Sランクの魔獣を、貴方がそこまで軽視する理由を教えてはくれないか」
「────当然の疑問ですね。ここからは他言無用でお願いします」
ハイドは人差し指を立て、唇に当てる。
「今回のケルベロス──実は幼体なんです。
成体は三つ首だが、今回の個体は双頭しか持っていない────」
「なんだと……?」
「とはいえ、固有スキルを持っていないような並のパーティには、到底敵わない相手であることには違いありません。
しかし貴方たちは全員固有スキルを持っているという。前衛、後衛、支援、回復といった連携が取れていれば充分に勝機はあります」
「それはいい……!
報酬は倍出す! その方向で進めよう」
「私としても報酬に足して、上乗せ分まで入る。願ってもない話です。
では、討伐依頼に対しては、私とマダガルさん達のユニットパーティで申請を出しておきます。
当日は私抜きで討伐したということにすれば良い、理由はいくらでも後付けできます。
ご安心ください、討伐成果に幼体という記載はされませんから」
「よし、必ずやケルベロスは私のパーティで討伐する。ハイドさんには、サポートと、万一の保険として立ち会ってもらうと言うことだな?」
「その通りです。マダガルさんこそ、よほど自信をお持ちじゃないですか。しかし、いずれ上に立つ人間としてはそうでなくてはいけない────。
貴方の野心、私は好きですよ」
ハイドは薄目を開けたまま笑う。
「もし叶えば、学院でも前代未聞の快挙になるな……ケルベロス狩りの二つ名も……」
「ケルベロスへの致命傷をマダガルさんにつけてもらえれば、後からギルドが何と言ってきても問題ありません。
あとは、老婆心ながら、ケルベロスを討伐したパーティの戦術をお伝えしましょう」
ハイドは、以前幼きハイディアがケルベロスの幼体と出会い救出した時、一度はケルベロスの捕獲に成功した英雄パーティのことを話す。
「基本構成は私のパーティと変わらんな。
あとは連携だけ、抜かりなく取れるようにしておかねばな……」
「幼体とはいえ、あくまでSランク────
そのことだけは、くれぐれもお忘れなきようお願いします」
「もちろんだ」
「では、また改めて────」
………………
ハイドが帰った後、マダガルは一人ほくそ笑む。
「全てが上手く回り始めた。
あのハイド・ムスブルグを味方につける日が来るとはな……
小癪な勇者ネージュを出し抜き、学院の頂点に立つのは俺様だ……」




