第11話◆強欲の剣
「さて、マダガルさん。
俺は黙って自分が考えたスキルを渡す気はないぞ」
「何? どういうことだ?」
「貴方の適性に合ったスキルかどうかは、きちんと意見させてもらう。あと……
取り巻きの連中に授けるスキルについては、あいつらに選ばせず、貴方が指定してしまうと良いと思うぞ」
「ほう……?」
「連中の能力はさほど高くないと見ている。まあ俺よりは上かも知れないがね。
少なくともマダガルさんと対等に戦えるやつは居ないだろう。
フレッシャーズカップで三回戦に残っていたあの青髪の男くらいか、まともに戦力になる奴は────」
マダガルは顔を近づけると、小声で話し始める。
「……ここからの話は他言無用だ、ハイディア。
俺様はどうやらお前を見くびっていたようだな、非礼を詫びよう。お前の言う通り、奴らは実力的には駒程度に考えてくれて構わない」
「それでも貴方に従順な手飼いだし、パーティを組む前提で、サポート役としてのスキルを開花させることを提案する」
「────賢明だな。ハイディア、お前ならどのようにスキルを授ける? 聞かせてみろ」
「まずはマダガルさんがパーティの要ということで構わないな。あなたが圧倒的エースになる以外、パーティが強くある絵が想像できない」
「当然だ」
「では、先にマダガルさんのやりたいことを教えてくれ。今後の展望とでもいうのか。
学院なんて小さな話はいらない。侯爵家の世襲後の考えなど聞きたい」
「────俺様は嫡男として、家を継ぐだけではない。
武力を持った当主として、進軍を進めていきたいと思っている。
現当主は保守的過ぎる」
「素晴らしい。では進軍に足りる実力者となるべく、学内でも、より力を誇示したいところだな」
「ああ、まずは個人戦で勇者ネージュを抑えての優勝、そしてマルチ戦でパーティ優勝の二冠を獲りたい」
「素晴らしい野心だ。
まずは勇者ネージュと防御に長けたアルヴァンに、一対一で勝てるスキルであることが肝要だな。
そして、それが叶うならば、生涯を通して無二のスキルに昇華できるのも同義だ」
「────卒業後はお前を参謀として迎えたいくらいだよ」
「そうしてくれるとありがたい、何せこんな固有スキルだし、田舎伯爵家の三男坊だ」
「その上で先に言っておこう。
俺様がお前のノートから得たい固有スキルは『強欲の剣』だ」
「なるほど────さっきノートを見た時に決めていたのか。
さすがにお目が高い。マダガルさんに適性も指向性も合っている。俺が考えた中でも、使い手によっては最強クラスの固有スキルだ……」
【強欲の剣】
相手に与えたダメージの約三割を、回復効果として吸い取る剣。魔力で具現化した物体、武器にも効果がある。
無傷状態でダメージを吸った場合、回復効果に使われず、次回の攻撃に上乗せして使われる。
専用技【断魔の一閃】使用可能。
吸い取ったダメージを一定量溜め、一撃に乗せて放つことができる。最大威力は使用者の魔力の量、質、熟練度に依存する。
***
「基礎能力の高いマダガルさんでないと使いこなせない固有スキルだ。
特性もあって、アルヴァンの盾を完封できるな。
アルヴァンの盾に剣が当たるだけで魔力を吸い取れる。
最後は溜めた魔力で『断魔の一閃』を撃てば、奴ごと真っ二つにできるだろうな」
「お前さんは見る目も確かだな。
ここで俺様に違う魔法を提案してきたら、危うく疑ってしまうところだったぞ」
マダガルがニヤリと笑う。しかし、固有スキルの習得にあたってもアルヴァンを一番に意識するあたり、相当根に持っている様子だ。
「俺の考えたスキルが、綺麗に咲いてくれる様を見ることくらいしか楽しみがないからな。
契約前に他の連中のことも教えてくれ。
【強欲の剣】を中心にパーティを考える」
「青髪の男はニューロという。
俺への忠誠心が高く、魔力量も大きいが、それを活かせていないな」
「それではニューロをサブアタッカーにするのはどうだ?
一対多数の戦いになったときに、強力な魔法がある。
一対一にも応用できるが、マダガルさんの脅威にはならない」
「その方向で進めよう、奴が戦力になって俺様に反旗を翻せないというのが理想だからな。
残りの奴も得意なことと、魔力量をざっと表でまとめよう」
「趣味趣向も教えてくれるとありがたい。経験の足りない者のスキル開発がしやすくなる」
「わかった。それより先に俺様の固有スキルを開花させてくれ。待ちきれんぞ────」
「了解した。
では契約書を作るから、少し待ってくれ」
「あまり焦らすなよ────ぐふふ」
………………
「では、これが契約書だ。
双方の合意を以て締結することになる。契約書を読んだらサインをしてくれ」
「こんなもの読んでいられるか。要約しろ」
「俺が貴方に固有スキル【強欲の剣】を授ける。
また【強欲の剣】を発動するときは俺の魔力が使用される。使用にかかった魔力は十日で一割の利子がつく。返済方法は細則があるので契約書を見ておいてくれ。
返済期限は三ヶ月だ。三ヶ月を過ぎると一括返済を求めることがある。なお、契約後二十四時間は、クーリングオフを受け付ける。こんなところだ」
「クーリング……なんだって?」
「授けた固有スキルを使ってみて気に入らなかったら、二十四時間以内ならマダガルさんの意思だけで、一方的に契約破棄できるということだ」
「随分とお人好しだな、承知した。
サインだ、これでどうだ」
「よろしい、では契約を締結する」
契約書が眩い光を放ち、マダガルを包む。
「これで【強欲の剣】はマダガルさんのものだ。
これが契約書の控えになる。大事に持っておくといい」
「ふむ、ご苦労だった。早速切れ味を試すとしよう……」
俺はマダガルを見据える。
「ん? 大丈夫だ、お前さんを斬ったりするもんか。私設兵相手に試してみるとしよう」
マダガルは廊下に出て、遊び部屋を勢いよく開けると、取り巻きたちに声をかける。
エドワードが肌を晒したメイドに不格好に跨っているところだった。
「お前たち、外に出ろ。
俺様が習得した固有スキルを見せてやる」
「えっ……でもまだ……」
「いいから早く服を着ろ、エドワード」
泣いている女を無理矢理手篭めにするエドワードの下卑た顔に、もはや気の良いクラスメイトとしての面影はなかった。
◇
「マダガル様、本当によろしいのですか?」
「構わん、本気で斬りかかってこい」
先にマダガルは私設兵の剣を借り、自分の腕を軽く傷つける。
何事かと一同は騒然となるが、マダガルが一喝するとすぐに静かになる。
「どこからでもかかって来るといい。手加減は無用だ」
私設兵が剣を抜き、マダガルに斬りかかる。
「出でよ! 【強欲の剣】────」
マダガルの手に剣が具現化され、禍々しい魔力を帯びる。マダガルは私設兵の剣を真っ二つに斬ると、そのまま胴を斬りつける。
「うぐっっっ──────!」
鮮血が吹き出し、私設兵が倒れる。
「素晴らしい……
これが俺の剣だ! 俺だけの固有スキルだ! 凄まじい威力じゃないか!」
マダガルは与えたダメージ分の、手の傷の回復を確認する。
「回復効果もばっちり働いている!
これは攻めながら守り、守りながら攻める。俺の描いていた理想の固有スキルだ!!」
取り巻きたちは私設兵のことなど目もくれず、マダガルを賞賛する。俺はそっと私設兵に近づき、回復魔法をかける。
「す、すまない……」
一命を取り留めた私設兵は、申し訳なさそうに言葉を絞り出す。
「いや、こちらこそだ……」
俺が授けた剣の試し斬りで死なれては堪らない。しかしマダガルの奴、お抱えの私設兵の命を蚊ほども気にかけぬとはな……。
「ハイディア、俺様のためによくやってくれた。これから皆にも、俺様とハイディアから固有スキルを授ける」
俺様と────ハイディア、かよ。
【強欲の剣】などよりも、よほど強欲で傲慢な男だ。
俺は取り巻きの中から、戦闘向きの四人を選び、パーティメンバーにすることをマダガルに提案した。
そして本人たちの属性などを考慮しつつ、それぞれに合った固有スキルを、残りのメンバーを含めた八人と契約した。




