第8話◆学園トーナメント戦〜奇策〜
◇
今年のフレッシャーズカップは近年稀に見る激戦続きである。
「間違いない、今年は当たり年だ」
教員たちも確かな手応えを感じていた。
その主役は紛れもなくネージュの存在である。
ここまで実力の一割も出していないであろう、まさに勇者としての器だ。
一方で、アルヴァンは完全なるダークホースだった。今大会で彼を見る目が百八十度変わった者も多い。
いつしか身につけた固有スキル、それに加え、準決勝では魔力と体術を組み合わせて、駆け引きと戦闘センスを見せつけた。
「ネージュで決まりだよ。
奴はここまで魔力も体力も温存している。
アルヴァンはかなりバテているはずだ」
「まあ、勝ち負けで言えばネージュだろうけどよ。俺はアルヴァンを応援するぜ。
決勝までのトーナメントで当たった相手は強者揃いだった。
あの盾で勇者の剣をどこまで凌げるかだな」
「もし勝つようなことがあれば大金星だけど……
相手は王国お抱えの勇者だぞ。無名に負けちまったら国はそれでいいのか?」
皆が口々に決勝の予想や、感想を交わしている。
例年のフレッシャーズカップでは、ここまで満員にはならない。今年は、勇者を一目見てやろうと、上級生もこぞって見に来ている。
超満員の会場の中、いよいよ、決勝の火蓋が切って落とされる。
審判に促され、ネージュとアルヴァンが入場する。試合前にアルヴァンが差し出した手を、ネージュが握る。
「胸を借りるつもりでいくぜ、勇者様」
「ああ、気持ちのいい勝負をしよう!」
「それでは、フレッシャーズカップ決勝戦!
ネージュ・エトワール対アルヴァン・クルーガーの試合を開始する。
互いに敬意と、魔法士としての誇りを持って戦うように────
────ファイト!」
審判の合図と同時にアルヴァンが仕掛ける。
一回戦から準決勝まで一貫して、序盤からカウンター攻撃しかしてこなかったはずのアルヴァンが、盾を発動せずにネージュの懐まで躊躇なく踏み込み、魔力を纏った拳で思い切り殴りつけた。
思いもよらないインファイトに、ネージュは完全に不意を突かれる。
この好機に、アルヴァンは反撃の隙を与えない。会場の誰もが予想していなかった展開だ──────。
剣を抜こうとする右腕側をアルヴァンは執拗に攻める。
「左がお留守だぜ」
ネージュの端正な右頬を容赦なく殴り飛ばす。
殴り、蹴り、殴り飛ばし、剣を抜く間合いすら与えず、追いかけてはまた殴る。文字通りの滅多撃ちだ。
沸き立つ会場────まさかの展開にどよめく学校関係者たち。
「おいおい、これはまさか……」
「すげぇぞ、アルヴァンのやつ。もしかしたら……」
────同級生のどよめきが、少しずつアルヴァンの応援に変わる。
生徒たちにとって、同学年に勇者がいることは、最初から頂点の枠が勇者で決まっているということを意味していた。
皆、口には出さないが、最初から頂を目指せないことを、内心不満に思っていた生徒も少なくない。
アルヴァンの拳が、生徒たちの思いの堰を壊し、言葉となって溢れ出る。
「やれ! アルヴァン──勇者狩りだ!!」
「お前が勇者だ! ネージュを倒せ!!」
「いいぞアルヴァン! アルヴァン!!」
ネージュも今大会、初めての体術で抵抗を試みるが、先手を打ったアルヴァンの無双状態、まったく隙がない。
苦し紛れのネージュの拳はアルヴァンに躱され、弾かれて届かない。
右──左──右──フェイントを入れて右、今度は左──────
品行方正なネージュが初めて受ける喧嘩戦法。
アルヴァンが決勝で初めて見せる、奇策にして奥の手である。
「ぐっ……くそっ…………」
「喋ると舌を噛むぜ」
顎を殴り上げると、ネージュの口から血が滴る。それでもアルヴァンの拳は止まらない。
思い通りに戦局を進めることができないネージュに苛立ちが募る。
身体を纏う聖魔法で、基本的な防御力は底上げしているものの、殴られ続けて少しずつダメージが蓄積していく。
「どうした勇者様、こっちはあと二日は殴り続けられるぜ?」
ネージュはアルヴァンの隙をついて、一時退避しようと試みるが、アルヴァンに襟を捕まれ引き倒される。
そのままアルヴァンは馬乗りになって、ネージュを執拗に殴り続ける。
会場は最高潮────皆がアルヴァンコールを始める。
(なんだこれは……
なんでみんなアルヴァンを応援しているんだ……?
ぼくは勇者だぞ……
ふざけるな……ふざけるなっ……!)
「調子に乗るなよ……」
ネージュの眼光が鋭くなる。息を深く吸い、一瞬の溜めの後、聖魔法を身体全体から放出する。
ゴッ────────────
地面が抉れるほどの爆発が、ネージュの身体を起点に、全方位に放出される。
閃光と、観客の腹の底に響くような轟音、地響き、舞い上がる砂埃────
アルヴァンは爆発の直撃を受け、その奔流に完全に飲み込まれた。
あまりの衝撃に、声をあげていた観衆は水を打ったかのように静まり返る。
最初に状況を把握したのは、攻撃したネージュだ。
(────しまった、全力に近い爆発的な聖魔法を放出してしまった。アルヴァンは大丈夫か……?
いや、無事では済むまい……僕はなんてことを……)
続いて審判が我に返る。
「試合終了だ!!
救護班を早く、回復魔法の準備をっ!!」
審判の声で会場の時が動き出す。誰もがアルヴァンの絶望的な状況を覚悟する────。
否、
「いててて……容赦ねえな、ちくしょう」
砂煙の中から声がする。煙が晴れる頃、吹き飛ばされたアルヴァンは無傷の姿を見せる。
一度は静まり返った観衆が、より大きな歓声を上げる。
(そんな…………ありえない…………)
元々防御に秀でた固有スキルを持っているアルヴァンだが、勇者が放つ聖魔法の爆発を喰らって無傷、ということは考えられない。
つまり────アルヴァンは読んでいたのだ。
追い詰められた勇者の抵抗の仕方を、想定した上で備えていた。
だからこそ、無双に近い、攻めの局面からでも、防御にフルシフトすることができたのだ。
ネージュは身震いした。
総合的な戦闘力においては、勇者である自分の方が圧倒的に上のはず。それでもアルヴァンは考えを巡らせ、計算した上で勝つための策を展開してきた。
準決勝までの相手とはまるで別次元。
────これこそが戦いだ。生温い試合などではない。自分が身を投じる世界であると、ネージュは確信した。
「────アルヴァン、恐れ入ったよ。
僕の甘さ、すべて君が教えてくれた」
「おっと、余裕のおしゃべりか?
真っ向勝負の勇者様には死角なしってところかよ。
お前の甘さなんか知らねーよ、俺は俺にできることをしてるだけだ────」
アルヴァンは大盾を具現化し、防御の姿勢を取る。
追ってネージュは剣を抜く。
「────防御でさえ先手を打たれるか……。
ひとつ聞きたい。君の固有スキルである、その盾のことなんだが……習得したのはいつのことだ?」
「ひと月ほど前……ある奴に助言を貰ってな。
そこから形になるまで悪戦苦闘さ。
まだまだ未完成だが、言い訳はしねえ。
今できることは全てやってやるぜ」
「素晴らしい……。
一ヶ月でここまで研鑽するとは……君は間違いなく大成する。
今度一緒に魔獣の討伐にでもいかないか?」
「身に余る光栄だ、天才野郎め」
トッ──────────
盾が消滅してアルヴァンが倒れる。
ネージュは一瞬にしてアルヴァンの盾を掻い潜り、高速の剣撃を背後に打ち込むと、一撃でアルヴァンの意識を刈り獲った。
「天才なんかじゃない……
僕は君と同じ、努力の人間さ……。
アルヴァン・クルーガー、君は素晴らしい戦士だ……君が居てくれてよかった。
是非また手合わせ願いたい」
「────勝者ネージュ!
今年度フレッシャーズカップの優勝者はネージュ・エトワール!!」
会場が沸き立つ──────。
しかし、真の規格外である勇者ネージュ・エトワールの学内大会デビューは、ダークホースのアルヴァン・クルーガーによって華やかなだけのものではなくなった。
そしてアルヴァンもまた、その名を学園中に轟かせることになった。
◇
アルヴァンは優勝も狙っていたようだが、そう上手くは行かないか……。
あのネージュ・エトワールに対して、アルヴァンはよく戦った。ネージュも面食らったことだろう。正攻法ではアルヴァンに勝ち目はないからな。
やむを得ず準決勝でジルに使った以外、得意の喧嘩戦法は封印していた。後にも先にもネージュへの奇策はこの一回しか通用しない。
だが充分だ。ネージュに一発食らわせたどころか、マウントポジションでタコ殴りにするのは、後にも先にもアルヴァンだけだろう。名前を知らない者はいなくなった。
すべて俺の計画通りだよ。ご苦労だったなアルヴァン。ゆっくり休め────。
◇
「ネージュの野郎……無意識かも知れないが俺のことを殺そうとしやがった。
あんな奴のどこが勇者だ……。
爆発のとき、咄嗟にハイディアから魔力を借りなかったらやばかったな……
ハイディアはあの状況を読んでたってことか……」
爆発の時、アルヴァンの全身を覆い護ったのはハイディアの魔力だった。
一言の詠唱で貸し出し、アルヴァンを完全に包んで護る契約を交わしていた。
「くそっ、あれだけの魔力を返済すんのか……」
アルヴァンは医務室のベッドで忌々しそうに呟いた────。
◆御礼
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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