第7話◆学園トーナメント戦〜番狂わせ〜
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王立魔法学院には、実戦による学内大会がいくつも存在する。これらは学業成績に加味される他、生徒自身が実力を示す場でもあり、それを下らないマウンティングに使う生徒もいる。
年次が上がると、王国や聖教会などからスカウトが青田買いに派遣されることもあるという。
大会は学内にあるバトルコートで行われる。
観客席もあり、ちょっとした闘技場の規模である。
大会では武器の使用も可能であるが、致命傷を負わせることはご法度である。だが魔力同士のぶつかり合いになるため、基本的に負傷者は絶えない。
入学から三ヶ月目で行われるのが、新入生による一対一のフレッシャーズカップである。
新入生のうち、希望者によるトーナメント戦である。主に戦闘系の魔力属性を持った者が対象となる。
通常、学内大会では一対一のシングル戦に加え、パーティ同士の複数名で戦うマルチ戦も存在するが、フレッシャーズカップはシングル戦のみで催される。
「優勝は勇者様で決まりだろうな──」
「ああ、才能の前には平伏すしかないのさ」
「でも勇者の奴、まだパーティメンバー決めてないんだろ?
上位に入ればそっち方面で出世できる可能性はあるんじゃないか」
「勇者パーティーに在籍した経歴があるだけでも箔がつくしな。
優勝はないとしても出場だけしておくか──」
優勝はもっぱら勇者ネージュ・エトワールとの噂だ。
俺も形だけ参加して、予選で適当に敗退した。一年次はあまり目立ちたくなかったのだが、それでも参加したのは、思っていたよりも参加者が多く、不参加の方が目立ちそうだったからに他ならない。
勇者一強で参加者は少ないのではと危惧されていたが、勇者の目に留まるという可能性に期待して、ダメ元で挑む生徒も多く、かえって例年よりも参加者が多かったらしい。
当然のことながら、そんな有象無象はきちんと篩に掛けられ、相応の実力を持った者が順当に勝ち進んでいた。
ベスト16まで大きな番狂わせもなく、すでに固有スキルを習得している成績上位の連中、英才教育を受けた上位貴族家の連中が席巻していく。
そんな中、一際目を引く存在が現れる。
アルヴァン・クルーガー。伯爵家の次男だが、庶子であり成績も良くない不良学生だ。授業はサボる、喧嘩はする、昨日までは落第生候補だったはずだ。
アルヴァンは巨大な盾を具現化し、受けた相手の魔法攻撃に自分の魔力を乗せて跳ね返す。所謂カウンター形式の戦い方で相手を翻弄している。
アルヴァンの名を一気に轟かせたのは準々決勝だった。勇者の対抗馬と言われたマダガルを破る大金星を上げてみせた。
アルヴァンは定評のあるマダガルの剣技をすべて盾で受け、最後は渾身のカウンターでマダガルを沈めたのだ。
これにはアルヴァンの担任教師も開いた口が塞がらなかった。
「アルヴァン・クルーガー、
────たしかに魔力量は目を見張るものがあったが、固有魔法を習得したなんて聞いていないぞ。まるで別人じゃないか」
「見ろよ……マダガルのやつ、怒りに震えている。
そりゃそうだよな。侯爵家の嫡男で英才教育を受けてきたはずなのに、自分の攻撃は一つも通らず、かませ犬扱いだろ?」
「マダガルの野郎、威張り腐ってやがったから負けてザマァだけどな」
「あいつトーナメント発表された時、ネージュに『決勝で会おう』とか言ってたぞ」
「ダサすぎ」
「あははははは」
「おい、聞こえるぞ────」
地を舐めたまま起き上がれずにいるマダガルに対し、アルヴァンは吐き捨てるように呟く。
「威張ってるから強いかと思ったのによ。てんで手応えがねぇ」
「……このままじゃ済まさんぞ。
どんな手を使ったか知らんが、この短期間で固有スキルを習得して、実戦レベルにまで昇華するなどあり得ない!
俺様に恥をかかせたこと、絶対に後悔させてやるからなっ…………!!」
「生意気な口はせめて一人前になってから言えよ、お坊ちゃん。
リベンジはいつでも受けてやるぜ、おむつが取れたらな。
しかし、まさか俺がここまで来れるとはなぁ、本当にハイディア様々だぜ……」
「────?」
「マダガルさん大丈夫ですか?」
「マダガルさん、肩をお貸しします!
てめぇ、アルヴァン。覚えてやがれ」
「おい、やめとけよ……お前なんかが敵う訳ねーだろ」
マダガルは取り巻きに治癒魔法をかけられながら医務室に運ばれる。
「まるで雑魚の群れだな…………」
アルヴァンは心底見下した目で見送った。
◇
「やぁ、アルヴァン。好調だな」
会場をざわつかせたアルヴァンに、俺はバックヤードで声をかける。
「全部お前のおかげさ。番狂わせを見せてやるぜ」
「楽しみにしている。
だが戦い方は戦局に合わせて変化するものだ。
固執せず、常に最善を考えて戦えよ」
「誰に言ってんだ? 任せとけよ」
「あと……魔力の返済の件、忘れるなよ」
アルヴァンは俺に背を向けて、分かってるよと手を挙げて応える。
◇
準決勝第一試合、勇者ネージュは卓越した剣技で相手を圧倒した。
安全のために刃を潰した剣を自主的に使ってはいたものの、剣を纏っている聖魔法の効果で攻撃力は並の剣よりも高かった。
最後は、固有スキルを使う訳でもなく、相手の剣をへし折って降参させた。
ネージュはここまで一度も苦戦をせずに、決勝へと駒を進めたことになる。
女子生徒の声援に手を振って応える。
一方で準決勝第二試合、アルヴァンは、対戦相手である、小柄な女性魔法士ジルの放出魔法に苦戦していた。
ジルの放出魔法は中距離から遠距離を得意とするが、そのすべてをアルヴァンは大盾によって完全に防いでいた。
しかしアルヴァンにとっても、ジルは小柄でしかも距離があるため、カウンターが入りづらい。
お互い有効打に欠けている状況だった。
長期戦をジルが覚悟する頃、先手を打ったのはアルヴァンだった。
大きな盾で身体を隠すようにして、ジルに突進する。
「悪手。盾を持った状態なら私の方が速い────」
ジルが盾を避けて攻撃を躱そうとした瞬間、盾が消滅し、ジルの顔面にアルヴァンの拳が打ち込まれた────ように見えたが、すんでのところで止められた。
ジルは驚いて尻餅をつく。
アルヴァンは突進をしながら、最後の一歩で盾を囮にし、自身はジルが避ける先を見極めていた。
盾を放せばアルヴァンの方が動きも早く、体術では間違いなく上である。
「次は当てるぜ……。
どうだい、まだやるかい?」
「やめておく。私の負け────」
負けを宣言したジルにアルヴァンは手を差し伸べ、ジルはその手を借りて起き上がる。
会場は喝采に包まれる。
「すまねぇな、魔法だけでの勝負なら正直わからなかったぜ」
「謝る必要はない。魔法だけでなく体技も含めての戦い。
私はこれからあなたの盾を貫通できるまで技を磨く。次は負けない────」
「怖ぇな、おい」
「私のこと、覚えておいて────」
「忘れるかよ。不思議な女だな……」
ジルは背を向けると、バトルコートを後にする。こうして勝者のアルヴァンは決勝まで駒を進めた。
◇
決勝前の休憩時間、俺は再びアルヴァンと話をしていた。
「決勝進出おめでとう、アルヴァン」
「俺も本当に決勝まで来れるとは、思ってもみなかったさ」
「まさか盾を囮にするとはな。寸止めの後、攻撃されたら黒焦げだったぞ──」
アルヴァンの強さは、固有スキルでも魔力でも体躯でもない。判断の早さだ。
臨機応変に考え行動し、もし間違っていたとしてもすぐに次善の策に移る。
「女は殴らねえ。まあ、美人に黒焦げにされてベスト4なら、それはそれで本望だ」
「よく言うよ、ジルもかなりの手練れだったぞ。
さて、決勝のネージュだけどな────」
「ありゃ、正攻法じゃ勝てねーわな」
「────アルヴァン、わかってるよな?」
「ああ、わかってるさ──────」
お読みいただきありがとうございます。
学園トーナメントは明日更新する第8話で決着します。
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