第6話◆君の心に巣食う闇が、怨恨だと言うのなら
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森での出来事の翌朝、クラスルームでアルヴァンに話しかけられる。
「ハイディア、昼休みちょっといいか」
「俺も話がある、人の来ないところで話そう」
昨日の戦闘後にかけた治癒魔法は無事に効いているようだ。律儀に翌日から学校に来るあたり、アルヴァンのやつ、根は真面目なのかもしれない。
◇
しかし魔法学院に屋上というものがあることにも驚いた。だがそれ以上に、この世界でも不良生徒が屋上を好むという事実に、何か因縁めいたものを感じる。
「アルヴァンから先に話すか?」
「いや、そっちから頼む」
「わかった。
昨日の子ども達は無事だった。身元もわかって、問題なく親元に戻れるとのことだ」
「そいつは何よりだ」
「ふたりはお前に感謝していたぞ────」
「別に、目の前で起きたから、成り行きみたいなもんなんだけどな……」
「かつての俺もそうだった。
お前も俺に礼を言いたかったんだろう?
そういうことなんじゃないか────」
アルヴァンがまんざらでもなさそうにそっぽを向く。
「あとな、昨日の魔獣の件はギルド預かりになった。新種の魔獣らしくてな」
「ずいぶん物騒だな。
そういやあいつら、言葉を話していたもんな」
「そうなんだ。他にも仲間がいると俺は踏んでる。近くギルドでも動きがあるかもな。
報酬はギルドで分析やら何やら終わった後になるそうだ、構わないか?」
「ああ、だが本当に俺がもらっていいのか?」
「どうしてだ?
お前がいなければそもそも討伐には至らなかったろう?」
「いや助かるけどよ……」
「気になっていたんだが、昨日もお前仕事中って言ってたよな。
昔誘拐された時は、名家の子息だと新聞で見た。そんなお前が学業と並行して仕事するなんて、何かあったのか────」
「…………」
間を置いてアルヴァンが話し出した。
「……母親の実家が没落してな。
政略的に足手纏いになったってことで、母親と弟は籍を抜かれて追放されたよ。もう連絡もつかない。
俺は────魔力の器がでかく、利用価値があるかもと手元に残された。もちろん跡目としてではなく、コマとしてな。
本当は二人についていきたかったんだがな……母親にも止められた。
家は俺に必要最低限の金しか出さないし、今食うためにも、今後のためにも金が必要なんだよ」
「壮絶だな──────」
「勇者だよ」
「ん?」
「勇者が俺の母親の実家を潰した。伯父が悪事を働いていたことに託けて、一族全員投獄だ」
「その伯父は何をしたんだ?」
「国家転覆を目論んで、隣国と内通して内乱を引き起こそうとしたんだとよ。
真偽はわからんがな。勇者とその一味が隣国の証言だけを鵜呑みにして、状況証拠だけで伯父は処分されて、訳も分からぬままに他の親族も投獄だ。
勇者様ってのはどんだけ偉いのかって話だよ」
俺は、勇者ネージュが同級生として入学したとエドワードがクラスルームで話していた時、忌々しそうに捨て台詞を吐いていたアルヴァンを思い出していた。
「なるほどな。真相はわからないが、勇者を忌々しく思うには充分な出来事だ」
「要らんことまで話しちまったな。忘れてくれ」
「そんなことはない、俺も──────
勇者と聖女には個人的な恨みはある。
まあ、相手の勇者はネージュではないし、かなり昔の話だがな」
「あいつら何なんだろうな。
ハイディア、お前には何があったんだ?」
「改めて話すよ、かなり長くなるしな」
「そうか。ところで俺が聞きたかったのは魔力の返済についてだ。早く返さないとお前も困るだろ?」
「アルヴァン────
お前さてはいいやつだな?」
「あ? 何がだよ」
「返済については別途協議と契約書には書いてある。常時生成される魔力の三割を返済に充ててくれれば、一週間も待たずに完済できるだろうよ」
「そうか、お前がそれで困らないならいい。貸してもらって助かったぜ」
「こちらとしては、利子を取っているから礼には及ばないよ」
「お前の固有スキルか? 魔力を借りるなんて初めてだ」
「そうだ──────
その件でアルヴァン、お前に提案がある」
「なんだよ?」
「────固有スキル、欲しくないか?」




