第4話◆勇者 ネージュ・エトワール
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ネージュ・エトワールは勇者だった。
生まれた直後から豊潤な光属性の魔力を纏い、すぐにそれを自在に使いこなすことができた────所謂ギフテッドである。
そうして光を纏うように生まれてくる子を、人は勇者と呼び、王国や聖教会が抱えて祭り上げる。
「英雄」が、その功績により得られる称号であることに対して、「勇者」は天賦の才を指す。
勇者を抱えることは、即ち国力にも繋がる。
厳密には、勇者は、王国と聖教会での取り合いになるのだが、エトワール家は代々王国に寄っているため、王国がイニシアチブを取ってネージュを育成していた。
ネージュは由緒正しい侯爵家の三男だった。
生まれる前から勇者であるとされ、生まれた瞬間にはもう歩む道が決まっていた。
光属性の魔力ゆえに、魔獣から忌み嫌われ襲われることもあったが、それらを全て、圧倒的な力で跳ね除けてきた。
ネージュは純粋だった。
「勇者様、いつもありがとうございます」
「勇者様、どうか握手を……」
「勇者様、うちの赤ちゃんに触れてください」
「勇者様────」
行く先々で、手を差し出す弱き者たち──彼らを護るたびに、感謝され崇められた。
自分は魔物や魔王と呼ばれる悪を倒す力を持っており、それは自分に感謝してくれる善良な市民を護るためにあるのだと、ネージュは幼心に理解していた。
◇
「今だ、ネージュ!」
斬────────────!
熟練の魔導士サルウェルの指示に合わせて、ネージュは剣を振るう。
「ぐむっ……………………」
ドサッ──────────
一つ目の巨人の上半身がずれ落ちる。
「サイクロプスの討伐完了だ。さすがだな」
リーダーのサルウェルが拍手をする。
「これでネージュとは暫くお別れね────寂しくなるわ」
「王立魔法学院を卒業する頃には、ネージュの組んだパーティとタッグを組むこともあるだろう。すぐの話だよ」
魔法士の女と、盾役の大男が名残惜しそうに話す。
「サルウェル、ミズム、ゴードン────三人ともありがとう。僕は君たちに教えてもらったことを糧に、立派な勇者になってみせるよ」
ネージュはサルウェルたちと、固く握手を交わす。
ネージュは王国のツテで、Aランクハンターの英雄パーティである【神界の青龍】に帯同し、実戦でその牙を磨いていた。
ネージュには、エトワール侯爵家から独立する、華々しい未来が約束されている。エトワール家にとっても、勇者を輩出した家柄ということで一層の箔がつく。
ネージュは王立魔法学院に進学し、首席で卒業後、勇者としての道を歩むという絵が既に描かれていた。
◇
入学式の日、A組のクラスルームにて────。
「ネージュ、久しぶりね────」
「────イーナじゃないか! 会いたかったよ」
ネージュがイーナの手を取る。
「もう私たちは子どもじゃないんだから、いきなり女の子の手を握るのはスマートじゃないわよ────」
「あっ、ごめん…………つい…………」
「ふふ、ネージュは変わらないわね。
エレメンタリーを卒業したら、すぐに旅立ってしまったから────」
「うん、たくさんの人を護れるようにね。
ミドルスクールには通わず、【神界の青龍】ってパーティに同行させてもらって、修行をしていたんだ」
「噂では聞いていたわ……有名なパーティよね。
学校にまったく通ってなかったけれど、一般教養は大丈夫?」
「基礎教養はミズムっていうお姉さんから教えてもらっていたから、学力にそう差はないと思うよ。
それより、イーナとまた会えるなんて、夢みたいだよ」
「…………もう。
本当に変わらないんだから────」
イーナは照れくさそうに顔を伏せる。
聖教会の秘蔵っ子であるイーナは、エレメンタリーをネージュと同じ学舎で過ごした。王国と聖教会の複雑な関係など、幼い子どもにとっては与り知らぬこと────。
恵まれた才能を持つ者同士、エレメンタリーでは仲良く過ごしていた。
「ねえ。今日の放課後、どこかで話せないかな? イーナに話したいことがたくさんあるんだ!」
「うん。じゃあ、一緒に帰ろう────」
開け放した窓から、爽やかな秋風が二人の間を吹き抜け、ネージュは屈託のない笑顔を浮かべた。
◇
ネージュは王国の第四王女と婚約をしている。他国との政治的役割を持つ正室の上位王女ではなく、側室の子である第四王女と結婚した後、ネージュは王国騎士団の団長に就任することが内定していた。
そしてイーナは、ネージュの側室として、ギフテッド二人から子が生まれることを、教会から期待されていた。
これは王国、聖教会双方の複雑な思惑によってすでに既定路線となっている。
次世代の子は王位継承権を持つギフテッドになる可能性がある。王は勇者ネージュの才覚を血筋に取り入れること、聖教会はイーナを使い、その血統への介入をそれぞれ画策している。
純粋なネージュは王国の最重要ポストの一つである騎士団長となることで、最前線で国民を護れるという大義名分が得られること、自身の出自からは成り上がりともいえる、多大な恩恵と家門の繁栄を、両親や嫡男である長兄に与え、喜ばれていることを、栄誉だと理解していた。




