第3話◆魔法学院への入学、数奇な出会い
◇
ガーベラが制服のネクタイを上まで締めてくれる。
「いってらっしゃいませ、ハイディア様」
「ああ、いってくるよ。ガーベラ──」
夏の暑さも引いた九月、今日は王立魔法学院の入学式だ。王立魔法学院には王族貴族の家から、特に魔法の才能に秀でた者が入学を許される。
所謂エリートの登竜門と言われ、長兄であるベスギーザも、三年前に学院を卒業し、今は世継ぎの際の箔をつけるために、王国騎士団に仕官している。
俺にとってこの四年間は、力をつけるための重要なものになる。無論、お勉強に精を出すわけではないがな。
◇
入学式と言っても、俺が思っていたものとは異なり、学長から簡単な挨拶があるくらいのセレモニーで、あとはオリエンテーションのような内容に終始した。
クラス分けはアルファベット順で、概ねA組が最優クラスといった印象だ。
F組か────まあ、埋もれて過ごすには適当そうなクラスだな。フリーで座った席の周りで、初対面同士、皆話をしている。
「よう、俺はエドワード。南部にある男爵家の次男さ、よろしくな」
ひょろっとした金髪の少年が話しかけてくる。学生であるということで、形式的には身分はフラットに、と最初に言われている。
「ハイディアだ────田舎伯爵家のしがない三男坊さ、よろしくエドワード」
「そっちの……ガタイの良いお兄さんも、よろしくな!」
「ああ────」
ガッ────────
「てめぇか、アルヴァン・クルーガーってのは。
ちょっとツラ貸せよ────」
クラスのドアから入ってきた柄の悪い三人組が、挨拶途中の『ガタイの良いお兄さん』の胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
「……人違いだろ? 他、当たってくれや」
「嘘つけよ────。ザップさんこいつです。こいつがさっき俺を────」
「あー、わかったよ。
お前らについていけばいいんだろ……」
アルヴァンは頭を掻きながら、男たちについていく。
「ふん、威勢のいいことだ。だが俺の……」
ドッ──────────
背中を見せたザップを、アルヴァンは後ろから蹴り飛ばす。
「てめぇ、何しやが────ぶッッッ」
転がったまま振り返ったザップの顎を、回り込んだアルヴァンが軽く蹴り飛ばす。ザップはそのまま気を失ってしまった。
「ザップさん……!」
「喧嘩売りにきて背中見せるやつがあるかよ。一応聞いてやる……お前らもやるか?」
「い、いえ。すいませんでしたっ────」
「二度と来るなよ、次に来たら死ぬまで蹴るからな。返事は?」
「は、はいっ……!」
男二人はザップを引きずると、そそくさと出ていってしまった。
「話の途中で、悪かったな。さっきの奴が言っていた通り、俺はアルヴァン・クルーガーだ。連むのは好きじゃないんだが、まあよろしくな」
「……知ってるよ。喧嘩が滅法強いって、南部じゃ知らない奴はいないんじゃないか?」
エドワードが引きつった笑顔で返事をする。
「怖がらなくてもいいぜ、俺は手を出してきた奴しか相手にしない。入学からこんなだと、また孤立しちまうのかね」
「そんなことはないさ、よろしくアルヴァン」
俺が手を差し出すと、アルヴァンはパシンと叩いてニッと笑う。
「おう、よろしくな。お坊ちゃん」
思わぬ揉め事にざわつくクラスの中で、アルヴァンは机に突っ伏して寝てしまった。
やれやれ、やはりFクラスは身を置くには丁度いい、雑多なクラスのようだ。
◇
早速、入学した翌日から授業が始まる。
「おいハイディア、どうやら今年は当たり年らしいぞ」
エドワードが授業中にも関わらず話しかけてくる。
「────それはどういうことだ?」
「A組に『勇者』がいるらしい、既に国に仕えることが内定しているんだとさ。
あと『聖女』もいるってな。こっちは聖教会の息がかかっているって噂だ」
────聞き捨てならないな。
勇者と聖女といえば、前世からの因縁だ。
前世の弟が死んだのは、俺と数日違いだ……。まさか転生して入学した訳ではあるまいな。これは確認する必要がありそうだ────。
「他にも名家の嫡男も複数いたり、有名な魔法士を親に持つやつもいるらしいぞ」
「俺たちには関係ない話だな────」
────ということにしておこう。
「ちっ、勇者か…………」
「聞いていたのかアルヴァン?」
「なんでもねえよ……」
「──────?」
今ひとつ掴めない男だな、こいつは。
………………
昼休みに、エドワードとA組を覗く。
「あいつだよ、勇者ネージュ・エトワール。侯爵家の由緒正しきお家柄だそうだ。
三男らしいが、王国と聖教会、どちらもお墨付きの勇者らしいぜ」
キラキラとしているのに嫌味がない。あどけないようで顔立ちは整っている。
根っからの陽キャだな、前世の弟とは別人だろう。
「同じ三男でも俺とは雲泥の差だな────。
女子を侍らせてるのも勇者パワーか?」
「ああ、そりゃモテるよな……。
あのキラキラオーラ、俺たちにはお近づきにすらなれそうもないな」
「ははは、まあな────」
「そんで、あっちの端にいるのが聖女イーナだ。ファミリーネームは非公表らしいぞ」
「なるほどな────」
────黒髪清楚な良い子ちゃんてところか。ファミリーネームを言えないほどの名家か、或いは聖教会の事情かもな。
「間違いなく美人だし、勇者・聖女のお似合いのカップルって専らの噂だ」
「エドワードよ。俺は、入学直後にも関わらず、お前の情報網の広さにびっくりしてるよ」
「まあ、俺は顔だけは広いからな……」




