第2話◆湯浴み
◇
風呂はすっかり綺麗になっていた。
古い造りではあったが、俺の好きな香油を使ってくれている。本当に気が利くものだ。熱めの湯でのんびりと身体を休める。
扉をノックする音が聞こえる。
「お背中、お流しいたします」
「────よせ、子どもじゃないぞ」
「ふふふ、ご遠慮なさらないでください。
ご実家では浴室係に背中を洗わせていたと聞きました。その役目、私にもさせてください」
確かに、背中を洗おうとして手や魔法でタオルを背に回しても、まさに痒いところに手が届かない。
洗って欲しいが……実家の浴室係に洗って貰っていた時とは意味合いが変わりすぎる。
しかし、すでに背中は洗って欲しいと疼いている。まさに背に腹はかえられぬ、か。
「────わかった、頼む」
「では、失礼いたします────」
一瞬期待してしまったが、まさか本当にタオルを身体に巻いただけの姿で現れるとは思ってもみなかった。
「動じない、動じないぞ……」
「────どうしましたか?」
「心の声が口から溢れてしまっただけだ、気にしないでくれ」
「────?」
────いかん。ガーベラはなんというか、そういう対象にしてはいけない。立場を利用して汚らわしい目で見たりしたら、俺もあの家の人間と同類だ。
「では、失礼します」
「うむ……」
肩を張って、背中をぐっと大きく見せる。
「くすっ……」
「笑わないでくれ────」
「いえ、失礼しました。それでは……」
うむ、これはなかなか。
「もう少し強く、もう少し上の方……
そう、そこ。そこ気持ちいい……」
「うふふ、子どもみたいで可愛らしいです」
「揶揄うな。まったく……」
「それでは失礼します。
ごゆっくり疲れを癒やしてください」
一緒に入ろう────と、一瞬言いかけてしまった。自重しよう。初日からこんなでは先が思いやられる……。思っていた生活とかなり違う。
◇
風呂から上がると、ガーベラが冷たい茶を淹れてくれる。
「お湯加減は如何でしたか?」
「ありがとう、最高に気持ちよかった。
まさかこの家で湯浴みが楽しめるとは思わなかったから、嬉しいよ」
「一生懸命お掃除した甲斐がありました」
「上がるときに魔法を使って沸かし直しておいた。
湯も綺麗にしておいたから、ガーベラもこの後で入ると良い」
「いえ、私はそんな……」
「湯浴みは良いぞ。実家では使用人は湯船を使えなかったが、病みつきになるから、試してみろ。
……用意してくれた香油も心地よい香りだった。ガーベラにも楽しんでもらいたい」
「では、失礼することにします」
「少なくとも三十分は浸かるようにな。
ゆっくりと湯に浸かると疲れが取れるし、睡眠も深くなる。あと湯上がりは部屋着で構わん。ここは実家とは違うんだ────」
「ご配慮、ありがとうございます」
ガーベラの笑顔には敵わないな。
◇
「さて、ガーベラが入浴をしている間に、家中を掃除しておこう」
霧状に魔力を解放し、害虫・害獣を追い出す。そして洗浄魔法を使い、邸内の汚れを綺麗にしていく。
後は簡易的なトラップを仕掛けておこう。治安は悪くないはずだが、ガーベラの身に危険が迫ったら、俺が護らないとな。
「お風呂いただきました。
どうもありがとうございます」
「もっとゆっくり入っていて良かったのに……」
風呂上がりのガーベラ──
香油か……芳しい香りに包まれる。
一体どうしたんだ、今日は。
やけにガーベラを異性として意識してしまう。これで四年間も耐えられるのか……
目を閉じて、首を何度か横に振る。
せっかくの王都だ。色々と発散するために、久々に魔獣でも狩ってくるか────
「先に寝ていていいぞ、俺は少しこの辺りを散歩してくる」
「畏まりました。今日はお疲れかと存じます。
差し出がましいようですが、あまり遅くなられませんよう────」
「わかった、おやすみ────」
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