第1話◆十五歳の旅立ち
◇
十五歳を迎えた七月末のこと。
「いいかハイディア、お前は魔力の器が圧倒的に小さい。これは代々魔導騎士を輩出してきたソルティレージュ家においては、致命的かつ恥ずべきことである」
普通、ハレの日に実の父から言われる言葉じゃないよな。さすが、期待されていない三男坊────
「しかしながら、お前には俺から流麗な魔力循環と、魔法に関する知見が遺伝したようだ。
その結果、試験にも合格し、ベスギーザが卒業した王立魔法学院にお前も通えることとなった。
器の小さなお前にとって、これは身に余ることである」
良いことは全て自分の手柄か、思い上がりも甚だしいな。
「優秀なベスギーザと、ソルティレージュ家の名に泥を塗るようなことがないよう、四年間の学園生活を送るように。
お前が卒業した暁には、魔導士として聖教会に送り込むつもりでいる。四年間は敷居を跨がなくて構わん。足りぬものを僅かにでも補うべく、精々邁進するが良い」
────自分で悪徳伯爵家を希望しておいて何だが、俺はこいつが嫌いだ。
長男のベスギーザ、次男のタスタリオ、長女のカミーユ、全員が根性の曲がった捻くれ者揃いじゃないか。弟、妹もまったく可愛くない。
まあいい、いずれは捨てる実家だ。
「出立に際し、お前付きの従者であるガーベラを帯同させる。身の回りを全て任せるが良い。
嫡男であるベスギーザとは違い、悪漢に狙われる心配は少ない故、私設兵は付けないが構わんな」
「結構でございます。従者を一人付けていただけること、それだけで幸甚に存じます」
「相変わらず、物分かりが良いところだけがお前の取り柄だな。僅かながら、成長に期待する。俺を失望させるなよ」
本音を言うと、ガーベラについては少し安心した。
好色家揃いの下衆一族において、ガーベラはまさに食べ頃の娘だ。今まで父や兄が何度か声を掛けているのを、俺が色々と理由をつけて跳ね除けていた。
それでも全てを守れたとは思っていないが、ガーベラは顔にも出さずに、俺の前では明るく振る舞っていてくれた。少なくともこれから四年間はそんな心配もなくなる。
俺が居なくなり、ガーベラが家に残ることになれば、取っ替え引っ替え弄ばれることになるのは想像に難くない。
次男のタスタリオが、俺の出立前に珍しく声を掛けてくる。
「おい良かったな。ガーベラを孕ませるなよ」
────長男ほど期待もされず、かといって無碍にもされず、優秀でも劣等でもない空気みたいな次男の癖に、色欲だけは一人前か。
長男の予備として扱われるのは不憫だが、同情の余地もない。先ほどの言葉には王立魔法学院に通えなかったコンプレックスもあるのだろう。とっとと没落して欲しいものだな、この家は。
出立の日、家族は誰一人として見送ることなく、使用人有志が見送ってくれた。
馬車に揺られ半日、王都に到着する。
築六十年ほどのくたびれた一軒家は、ソルティレージュ家が以前、王都滞在のために買い上げ、使わなくなったものだという。
立地は良いが整備など全くされていない。
まあ、家を用意してくれただけ有難いと思おう。
「ハイディア様、四年間は私だけでハイディア様の身の回りのこと全てをいたします。
ハイディア様の学園生活が素晴らしいものになりますよう、誠心誠意努めて参ります。
よろしくお願いいたします」
「この家のことを一人で切り盛りするのは難しい。全てを完璧にこなす必要はない。
家の者は誰も見に来ることなどないのだから、適度に息を抜いてくれ。俺は俺ですることはする」
「ハイディア様……」
「君と二人だから────俺も本音で話そうと思う。実家にはもう戻らないよ。俺はこのまま独立する。これは希望じゃない、もう決めていることなんだ。
それで────君さえ良ければ、家に帰らず俺についてきてほしい。四年後以降の給金は俺が支払おう」
「ふふふ、まるでプロポーズを受けたような気持ちです。
ハイディア様が小さい頃からお仕えしていましたから、ご立派になられて言葉もありません。
未熟なまま、何もできない私ですが、是非お供させてください」
「俺は血縁こそあるが、あの家の人間とは違う。君に酷いことをしたいとは思わない。
────今まで護ってやれなくてすまなかった」
「ハイディア様はいつも私を護ってくださっていました。私には過分なことです」
「ありがとう……」
「さて、今日は腕に縒りをかけて、ハイディア様の好物ばかりを作ります」
「そうだな、二人分作ってくれ────
一緒に食べよう。もう実家と違って遠慮はいらない。俺がそうしたいのだからな」
「……はい、ありがとうございます」
◇
その日の食事は本当に美味だった。
実家のシェフから俺の好物の作り方を聞き、練習してくれていること、出立前に他の使用人からこっそり聞いていた。
「湯浴みになさいますか?」
「ああ。だが到着したときに見たが、この家の風呂は、入る前に相当念入りに洗わないといけない。
残念だが、今日は身体を流すだけで構わない」
「先ほど入念に掃除をしました。
古い傷などは落ちませんでしたが、ご覧になっていただいて、差し支えなければお湯に浸かってください」
「まさか、あの短時間でか?」
俺の荷物を片付けた時間の後、自分の荷解きをするよう命じた。その時間を使って……
「ハイディア様は毎日必ず湯浴みをなさっていました。本日は長旅でお疲れだったはずです。
できれば、お湯にゆっくりと浸かっていただきたく……」
「────ありがとう。
だが、もっと自分のことも優先して構わない。二人なのだから、あまり気を遣わないでくれ」
ガーベラは嬉しそうに微笑んでみせた。
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