第14話◆不敬の君へ
◇
ハタシンの待つ訓練場に到着する。
「お待たせしました。
えーと、出向職員さん────お名前は何と仰いましたっけ?」
「殺す…………!」
ハタシンは既に殺意を漲らせている。これは事故に見せかけて殺すつもりで来るだろうな、オーディエンスがいるというのに……。
これだから頭に血が昇るタイプは怖い。
「審判は私、オールムが努めよう。
あくまでハイド・ムスブルグの実力を測る目的だ。
ハタシン・スケイベラ、君はそのことを努努忘れないように」
ハタシンから返事はない。
「それでは試合開始!」
「はあっ──────────!」
ハタシンは開始の合図と同時に斬りかかる。
一太刀で俺の剣を弾き飛ばすと、二太刀目で首を獲りにくる。俺は流れる水のように身をかわすと、ハタシンの剣の間合いスレスレで避ける。頭に血が上りきっているのか、こちらが完全に見切っていることに気づいていない様子だ。
その後もハタシンの剣筋は確実に俺の急所を狙ってくる。
ハタシンの一方的な攻めの展開。王国騎士であるハタシンによる、息つく間もない剣撃に、観衆は息を呑む。
なまじ俺が避けているだけに、オールムも止めるタイミングを計れずにいるようだ。
「流石に大口を叩くだけのことはありますね。
それなりに流麗な剣筋です。
しかし脆弱だ──────」
ギンッ────────────
鈍い音が静寂を破る。
俺は魔力を纏った手でハタシンの剣先から三分の一ほどのところを掴む。そして、そのまま手に力を込めると、剣先が粉々に砕けた。
「な………………はあっ?」
「あなたは、私がオークをどのように討伐したかを検証したいのですよね?
折角なので、再現して差し上げましょう。
こうしてオークを滅多撃ちに────」
ダダダダダダダダダダダダ──────
左手でハタシンの肩を掴み、右手の拳の弾幕でハタシンの上半身を滅多撃ちにする。
「ちょ……ま……ぐっ……待っ……ゔぐっ……」
肩を放すと、前歯が一本抜け落ち、ハタシンはフラフラと後退する。
「そうそう、次は魔弾でオークを爆破したんでした──────」
指先に魔力を集中させ、弾丸を形取る。
「ハイド、待て! そこまでだ!」
ダンッ────────────────
「ぐぬうううっ、うううううっ────!!」
ハタシンの右手を魔弾が弾き、ハタシンは剣を落として地に伏せる。
「ハイド・ムスブルグの実力は証明された。
数々の無礼、ギルドマスターとして謝罪する。本当にすまなかった」
オールムが場を鎮める。
「オークの群れは彼と違って、頑丈でした。
実戦では爆破する属性を付与したのですが、今のはただの魔弾です。
手加減したつもりなのですがね────」
──────再び歓声が上がる。
「ハタシンの奴、手加減されてやがる」
「王国騎士様のくせによ、ははは」
「てか、口だけで弱くね?」
「そもそも新人が討伐したのって、塩漬け案件だったんだろ?
いちゃもんつける前に、ハタシン自身がやれば良かったのによ」
「もういいよ、騎士団に帰れよハタシン」
「二度とでかいツラすんなよ」
────随分嫌われていたんだな。
担架を持ったスタッフがハタシンを乗せて運んでいく。
「ロザリア、ハイドさんをCランクハンターにするよう手続きを進めてくれ。
素材の査定は最後に俺が確認する。これ以上お待たせしないよう、急いでくれ」
「はいっ!」
「────急がなくて結構。
先ほど話した通り、今日は予定があります。
オールムさん、ロザリアさん、色々とお気遣いありがとうございます。
また明日の午後三時頃に来ますので、諸々はその時にお願いします」
◇
俺も大概だな────────。
ハタシンの行ってきた数々の不敬。魔の『王』として容赦できるラインを遥かに超えていた。
最後の魔弾は、本当は必要なかった。
撃つまでもなく、俺の実力は示せていたのだからな。
そもそもオールムが止めに入る方が早かったし、既に折れた剣を弾き落とす道理もない。
────あの魔弾は剣を弾くためじゃない、ハタシンの親指を潰すために撃ったものだ。
聴衆には大袈裟に映らなかったかもしれないが、奴の右手親指には、治癒魔法でも治せない重大な損傷が残るだろう。
親指は物を掴む上で、最も重要な役割を果たす。剣士のような手先の緻密さを要求される職なら一入であろう。
もはや力を入れることすら叶うまい。
奴はもう二度と、まともに剣を振れないだろう──────。




