第13話◆論破
◇
「昨日仮登録したハイド・ムスブルグです。
討伐部位を持っ────」
「窓口で確認いたしますので、
こちらの番号札を持ってお待ちください」
出たな、お役所仕事────人の話くらい最後まで聞け。チャットボットかお前は。
名札にナミドメとあるお役所仕事さんから受け取った番号札を持って、しばらく待つと、昨日の担当女性の窓口に通された。
「いらっしゃいませ、ムスブルグさん。
さっそく討伐されたんですね。素晴らしいです!
(あれ……こんな顔だったかな……)
早速ですが、管理番号と討伐部位をお願いします」
「こんにちは。
これが変異種のオークの右耳と魔核ですね────管理番号はG15296。
それでこれらが、取り巻きのオーク達の右耳と魔核。
あとこれがその場にあった、被害者のものと思しき装飾品です。
遺族の元に返せるなら、返して差し上げてください」
「え、えええ──────!?
まさかあの、塩漬けの──────
失礼、オークの群れを討伐されたんですか?
ソロでですか?」
あの案件、塩漬けだったのか────
「大変申し訳ありません。実績のない方の高ランク討伐は、ギルドによる確認が必要となります」
「なるほど。オークの遺体と、被害者の遺体は別々に地に埋めてあります。
アンカーを打ってありますので、必要があれば現地調査してください」
「────おい、討伐方法も聞かせろ。
疑わしければ、偽証罪で王国騎士にしょっぴかせるからな!」
横から顰めっ面の男が割って入る。
「おやおや、横から初めまして。
どちら様でしょうか────」
「仮登録の半人前如きに名乗る名など無い。
見たところ大した魔力もなさそうだしな。
お前があの塩漬け案件を討伐したというのは信じがたい。
そうだな……討伐を証明できたら、名乗ってやろう」
やはり塩漬けだったのか────
「証明として魔核やらをお持ちしたんですけれどね……。
討伐方法もお伝えしておきましょうか。
全員拳で叩いた後に、蜂の巣にしました。
現地で確認していただけますか?
せっかくなら犠牲者の遺体も掘り起こして、併せて回収していただけると助かります。
私には遺品回収だけでやっとでした」
「遺品までくすねたのか? 貴様……」
「違います、ハタシンさん。
ハイドさんは遺族に返すようにと────」
「窓口風情が口を挟むんじゃない!
今すぐ確認班に向かわせる。
貴様、ここで首を洗って待っていろよ」
口を挟んだのはどっちだよ──────
ハタシンとやらは待っていろと言いながら、自分は何処かへ行ってしまった。
「用事があるので、一旦帰ってまた来ますね。
午後三時くらいになると思います。
夜には別の用事もあるので、長居はできませんが……」
「ハイドさん、申し訳ありません!
ハタシンさんは実直なあまり、非常に口調の厳しい方で……」
「気にしていませんよ。
あなたは私のことを信じてくれました。
それだけで救われます────ありがとう」
「────私はロザリアと申します。
お待ちしていますね、ハイドさん」
ギルド内がざわついている。
そりゃそうか、あんな馬鹿でかい声で騒ぐもんだからな。悪目立ちも良いところだ。
俺はエレメンタリーに戻るため、ギルドを後にする。
ハタシンとやらに下手な尾行をつけられたようだが、路地裏で【モンタージュ・カタログ】を解除して煙に巻いた。
ハンターギルドは広く門戸を開いている、か。聞いて呆れるな。
◇
俺はまた午後三時にギルドを訪れた。
「オールムさん、この方がハイドさんです」
ロザリアと一緒に、大柄な髭面の男が出迎える。
「初めまして、ハイド・ムスブルグさん。
私はギルドマスターをしているオールムと申します。
この度は長く塩漬けになっていた案件の討伐、ありがとうございました」
ギルマスまでそれ言うかよ。どんだけ塩漬けだったんだよ、あのオーク────
オールムから差し出された右手を握手で応じる。
「ハイドさんのおっしゃる通り、討伐が確認できました。
犠牲者の遺体もすべて掘り返し次第、遺族に返すつもりです」
「ああ、野犬に掘り起こされないよう、犠牲者の方は深く埋めていましたね。
ご苦労をかけてすみません────」
「とんでもない、慈悲深さの表れです。
現場からも、ご遺体への敬意を感じたとの一報が入っています」
「では、討伐として認めていただけると?」
「勿論です。
それについては職員から大変失礼な────」
「────待て。
俺はまだ信じていない。
お前の実力をこの目で見た訳ではないからな」
「よせハタシン! この期に及んで……」
「マスターこそ、こいつに報酬を払って、後から詐欺でした────なら、首が飛ぶぞ?」
ハタシンは手で首を切る仕草をする。
「じゃあ、どうしろと言うんだ?」
「王国騎士団から出向している俺が、直々にこいつの腕前を見定めてやろう」
なるほど、奴の無礼は所属に起因しているのか。立場はギルマスのオールムの方が上だが、ハンターギルドは王国の外郭団体。
オールムにとって、王国騎士団から出向しているハタシンとの立場は、非常に複雑なのだろう。
「王国騎士団の品格も知れたものだな────」
「貴様、今何と抜かした! 不敬罪でしょっぴくぞ」
「王国騎士団の品格も知れたものだな────と思われても仕方のない言動ですね、と言いました。
貴方個人への思いが口に出てしまっただけですが、これでも『王国に対する』不敬罪に問われてしまうのでしょうか…………?」
「全文を聞けば、不敬には当たらないな。
それは出向職員を受け入れたギルドへの厳しい意見として、真摯に賜ろう。すまない」
問いにはオールムが答えてくれた。
「もう一点──────。
私をしょっぴくと仰っていましたが、出向ということは、あなたの現在の所属はギルドになるのではないでしょうか。
王国騎士でないあなたに、私を捕縛する権限があるのか、心配です」
「ないな、あくまで出向先が現在の所属になる。
捕縛したら越権行為に該当する」
またもオールムが答える。
「どこまでも愚弄しおって……貴様、決闘だ!!」
「愚弄した覚えはないのですが────
いつの間にか腕試しから、決闘になってしまいましたね。
オールムさん。出向しているとはいえ籍を王国騎士に置く方が、一般人に私闘を持ちかけることは、この国では────」
「────ご法度だよ。
まったく、ハタシン頭を冷やせ……」
「とはいえ、馬鹿を────失礼、
頭の中まで筋肉で出来ている立派な騎士様に対して、口先で煙に巻くような真似は無礼に当たりますね。
そちらの『出向職員さん』に腕試しをしていただけるとのこと、謹んでお受けしようかと思います────」
「貴様、どこまでもッッ…………!」
「ハタシン、いい加減にしないか!!」
オールムが声を荒げる。
「────外に出てお待ちください。
生憎、私は剣を持っていない。
ギルドで剣をお借りしてから参じます」
「早くしろ、俺を待たせるなよ」
ハタシンは椅子を蹴り倒すと、ギルド裏の訓練場に行ってしまった。
「────いいのか?
あれでハタシンはかなりの手練れだぞ。
使い慣れていない剣では太刀打ちできるか……」
「構いません。そもそも私の実力を測るのが目的なのであれば、太刀打ちできるかは問題ではないでしょう。
ときにロザリアさん────」
「はい、どうされましたか……?」
「お茶を一杯いただけますか」
「え、でも……ハタシンさんが外で……」
「────いいから淹れて差し上げろ。
こちらの方が、圧倒的に無礼なのだからな」
(まあ、彼の実力を見る好機と捉えるか。いざとなったら俺が止めるしかないがな)
「わかりました、オールムさん」
ロザリアが淹れてくれた紅茶をのんびり楽しんでいると、ハタシンが痺れを切らして戻ってくる。
「貴様、まだか! 俺をいつまで待たせる!」
「今、お茶をいただいています。しばしお時間をいただけますか?
先ほどの珍妙な問答のせいで、喉が乾いてしまいまして。ふふ」
「うぐぐぐぐ、舐め腐りおって…………」
ハタシンは剣を抜くが、俺が全く動じない様子を見せると、今度はドアに八つ当たりをして、再び外に出ていった。
ハタシンを繰り返し挑発する俺に、オールムが話しかける。
「ハイドさん……。
ロザリアではないが、あまり奴を挑発し過ぎない方がいい。
奴は奴で、頭に血が上ると何をしでかすかわからないところがある」
「挑発なんてとんでもない。
私は猫舌なんです。せっかくロザリアさんが淹れてくれたお茶を、無駄にするといけない。
ゆっくり楽しませていただきます────」
俺はその後またもゆっくりと剣を選び、訓練場に行く頃には、すっかりオーディエンスが集まっていた。
いけすかないハタシンを、ここぞとばかりに煽る新参者。楽しみにしてもらえたようで何よりだ。
俺も【モンタージュ・カタログ】で見た目を変えたこの姿なら、変に実力を隠す必要はない。思う存分遊んでやるとしよう。




