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夜の王と契約魔法〜ルールで縛り、契約で奪う──契約魔法で成り上がる【無双×暗躍】譚〜  作者: 皆月いつか
第0章 転生×暗躍×無双 編

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第9話◆風の検証


 エレメンタリースクールに通いながら、夜間の魔獣狩りも盗賊狩りも板につき、すっかり実戦経験を習得した十二歳のとき。


 やはり……。クリアできる鍵は闇属性魔法だ。

 ケルベロスに言われたことが気になり、読み漁った歴史書に、魔王は祝福と称して配下に能力を授けることがあると書いてあった。


 これを組み合わせれば……いける。

 上手くいけば一つと言わず、いくつでも固有スキルを習得することができる────。


 問題は代償を誰が払うか、ということだけだ。



「ねえ、ガーベラいる────?」


 俺付きのメイドであるガーベラを呼ぶ。

 ガーベラはメイド三年目の十四歳。エレメンタリー在学中からソルティレージュ家に見習いとして仕えていた。現在もミドルスクールに通いながら、非常によく働いてくれている。俺と同じエレメンタリー出身ということで、付き合いも長い。

 セミロングのブロンドヘア、色白で小柄、童顔の可憐な少女だ。


「ガーベラ、僕が思いついた魔法を試してほしいんだ」


「ハイディア様……私は魔法が得意じゃないんです。

生活魔法も満足にできないくらいで……すみません」


「大丈夫だから一度やってみてよ。

部屋の掃除の魔法だから、ガーベラに使って欲しいんだ」


「うーん……」


「魔法で風を起こして、部屋を三周して埃を巻き込むんだ。

そして窓を開けて外に飛び出す。すみずみまで部屋が綺麗になるよ」


「そんなに簡単にいいますけれど、たぶん私じゃできませんよ……」


「大丈夫、僕が教えてあげる。ここに名前を書いてみて」


 契約書はわざと下手な字で簡単に書いた。

 これを見て子どもの遊びだと思ったのだろうか、ガーベラは微笑むと、快く応じてくれた。


「なるほど、わかりました。はい、これでいいですか?」


「うん。この紙は控えって言って魔法のことが書いてあるから、ガーベラが持っていてね。

それじゃ詠唱をしてみて。『風ほうきさん、お部屋を綺麗に』って」


「ふふ、ハイディア様はまだまだお子様みたいですね。

それではいきますよ。『風ほうきさん、お部屋を綺麗に』」


 ガーベラの手が煌めき、心地よいそよ風が生まれる。

 風が部屋を三周して、窓を開けると部屋中の埃を外に出した。


「うそ……?」


 成功だ……! ガーベラは魔力をほとんど持っていない。そのガーベラが魔法を発動することができた。


「すごいすごい!

じゃあ、次の魔法だよ。ここに名前を書いてみてよ!!」


 今度はさっきよりもびっちりと書き込んである契約書だ。

 ガーベラは恐る恐る名前を書く。


「はい、控えだよ。

それではこの人形を見て詠唱をしてね『ピンキードール』って」


「……ピンキードール?」


 人形が立ち上がってガーベラと同じ姿勢になる。発動したのはガーベラだが、使われているのは俺の魔力だ。


「うそ……これって……」


「うん、ガーベラと同じ動きをするよ」


「すごい……ハイディア様、本当にすごいです!」


「そろそろ約束の一分かな、『魔力を全部返して』」


 ガーベラの僅かばかりの魔力がなくなり、人形が倒れる。

 【ピンキードール】の発動のためにガーベラに貸していた魔力分をガーベラから返却してもらったのだ。

 予想通り、ガーベラの手持ちの魔力では足りなかったようで、今は保有魔力量がマイナスの状態にある。

 ガーベラが生み出す僅かな魔力が、少しずつ俺の器に溜まっていくのがわかる。


「────ピンキードール!」


今度は俺の詠唱で人形が動く。


「ガーベラはできるかい?」


「ピンキードール……!

あれ、動かない……」


 成功だ。あとは──────

 俺はガーベラから魔力が完済されたのを確認した。


「ガーベラ、もう一度やってみて」


「はい……ピンキードール!」


 今度は成功する。

 ガーベラは不思議そうな顔で人形を見つめる。


「ガーベラ、『ピンキードールを僕に返してくれる?』」


「え? …………ええ、『畏まりました』」


 人形が倒れる。

 そして、俺の手元にあった契約書とガーベラの手元の控えが宙で重なり合って消滅する。ガーベラの【ピンキードール】に関する記憶とともに……。



「ありがとうガーベラ。

魔法が使えるなんてすごいね!

【風ほうき】はガーベラにあげるよ」


 ガーベラには【風ほうき】の記憶だけが残っている。


「ふふふ、ありがとうございます。ハイディア様」


 ガーベラには不可解な体験であったことだろう。

 だが【風ほうき】は、傍目には固有スキルなどと呼べる代物ではなく、子どもが考えたものとして自然だし、それを使えたところで大袈裟なことではない。

 生活魔法の応用程度のものだ。


 だが【ピンキードール】は違う。簡単な分類だが、れっきとした固有スキルである。極めれば人形と感覚を共有したり、あらかじめ指示した通りに自動操作することもできる。


 契約のあらましはこうだ。

 俺は【ピンキードール】をガーベラに授けた。

 条件は【ピンキードール】を発動する時に俺の魔力を貸与し使用すること。


 その魔力を返済期限までに返してもらえない場合、【ピンキードール】は担保として差し押さえられ、俺が自由に使うことができる。ガーベラは完済まで能力を使うことはできない。

 今回は返済期限は一分間、無利息に設定した。


 そして使った分の魔力を完済した後は、晴れてガーベラの固有スキルとして、自分の魔力で使うことができたという訳だ。


 今回は、俺が固有スキル自体の返却を求めてガーベラがそれに同意した場合、【ピンキードール】に関する記憶ごと、契約が破棄される、という一文で結んでいる。


 契約を破棄するため、俺の手元にも固有スキルとしては残らない。

 だが、また誰かに貸して、差し押さえたままにできれば、実質的には俺の固有スキルとして使うことができる。

────これで、おおよその検証は完了だ。



 やはり俺の固有スキルは、契約魔法【魔王の祝福】で決まりだな。


 契約魔法を上手く使うことで、固有スキルをいくつでも無制限に手に入れることができる。

 それどころか、契約で縛れば他人の固有スキルや魔力を、永続的に奪うことだって可能だ。代償は契約者が払うことになる。


 ああ、やはり俺は魔王なんだな────。祝福を授けることも、奪うことも思いのままだ。


 満足そうな俺を見て、ガーベラは微笑ましそうな顔をしていた。


「ハイディア様。いただいた魔法、大切にしますね」


「うん!」



────俺は【風ほうき】の契約には条件をつけなかった。つまりは譲渡契約だ。


 背の低いガーベラが、いつも俺の部屋を隅々まで、綺麗に片付けてくれている。高いところを掃除しているときは、梯子に乗って、背を伸ばして────。

 そんな一生懸命なガーベラが、落ちて怪我をしないように。【風ほうき】はそんな思いから作った魔法だ。


────先刻、彼女が放ったそよ風は、まるで春の風だ。

 部屋の中に残った微かな香りが、固有スキルへとはやる俺の気持ちを、そっと落ち着かせてくれた。

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