第1話◆プロローグ・代償の払い方
「デニス──────
お前に魔力の一括返済を要求する」
屈強なデニスを覆う強大な魔力と、魔法で具現化していた剣が、音もなく消える。
「何故だ……! 何故消えたっ……!?」
デニスが俺に向けていたはずの【紫炎の剣】は、今俺の手にある。
俺は青紫の炎を纏う刃を、月灯りに翳す。
「素晴らしい輝きだ────」
思い描いた通りの展開だった。
約三ヶ月前、【固有スキル習得の手助け】と【発動時に使う魔力の貸し付け】を契約した、王立魔法学院の上級生デニス。
彼は花形である王国騎士団に内定後、魔力の返済を求める俺にそれを渋り続け、今日は契約破棄を強行するため、刃を向けてきた。
それに対し、俺は強制返済を執行した────という、ここまでの一連の流れすべてが、俺の筋書き通りの展開である。
「────君の固有スキルは、契約通り俺が預からせてもらう」
「これはどういうことだ!?
何をした!! この泥棒野郎!!」
「泥棒とは人聞きが悪い────。
契約書にちゃんと書いてあっただろう。
貸した魔力と、その利息分の返済が期限までに為されない場合、固有スキルならびに生成するすべての魔力を差し押さえる──とな」
「そんなこと書いてあったなんて知らねえぞ、詐欺師野郎め。俺の剣を返せ!」
俺が軽く【紫炎の剣】を振るうと、デニスの頬が音もなく切れ、切り口が炎で焼けて血が止まる。
────素晴らしい切れ味だ。
「ふふ、泥棒の次は詐欺師呼ばわりか。
とんだ言い草だな、デニス。
それを言うならまずは貸し付けた俺の魔力を、契約通りに返してくれ。
それをできない奴が、どの口で泥棒だ詐欺師だと喚くんだ────」
「ぐっ! ぐぬううううううう!!」
デニスは魔剣を握った姿勢のまま、今にも切りかかってきそうな形相をしているが、肝心の剣は俺の手にある。
「────続けるか?
固有スキルどころか、魔力さえ使えないお前が、俺を蹂躙して、俺が持つ契約書の原本を破る術を持っているのであれば、試してみるがいい」
「くそっ……! くそがっ!!! このままじゃ済まさねぇからな」
「その言葉、リボンをつけてお返ししよう。こちらこそ、このままじゃ済まさない。
魔力を完済して契約を履行してもらうまではな────」
(こんなはずじゃなかった……。
気弱なお人好しをちょっとつついたら、固有スキルを手にできると聞いたから、俺も乗っかっただけなのに────)
────とでも思っているんだろう?
やっと事態が飲み込めてきたか。しっぺ返しを喰らったいじめっ子みたいな顔をして────可愛いところもあるじゃないか。
「契約書をきちんと読まないからさ。
お前が今すべきは、おうちに帰って契約書の控えを読み返すことだな。
俺は契約通り、お前に固有スキルの習得の手助けをしてやった。発動時にかかる多大な魔力の貸し付けもな。
俺のおかげでお前は華々しい学校生活と、王国騎士団の内定まで手にすることが出来たじゃないか。
今度はお前が契約を果たしてくれ────」
凄む俺に、すっかり青ざめてしまったデニスは、踵を返すとそのまま敗走した。
追いかけはしない。殺してしまうなんて勿体ないからな。しっかり生きてもらい、旨みはすべて搾り取る。この間にも奴が生み出す魔力はすべて、俺のものになっているのだから。
「デニスのやつ、あの様子だと契約書の控えなど捨ててしまっているかもな────」
大器晩成型のデニスが三ヶ月前に習得した魔剣は、当時俺が貸し付ける魔力がなければ発動できないほどの大技だった。
四年制の王立魔法学院の在籍中に、必殺技と言い換えてもいい、自身の固有スキルを発動できるようになる生徒は二割程度。
名家の嫡男であるデニスは、思うように固有スキルを習得できず焦っていた。
固有スキルを発動する際、消費する魔力をすべて貸し付ける契約を結んだお陰で、利息を含めると一生返しきれないほどの規模になっている。
奴が生きている限り、生成される魔力は俺のものになる。
「惜しかったな────。
成熟期にあれば、俺が貸す魔力などなくても扱える、強大な武器になっただろうに。
それこそ王国騎士団でも通用したであろうこと、残念でならない。
しかし全ては契約内容を把握していないお前が悪い────」
無論、守秘義務条項で何があったかを他人に伝えることすらできまい。契約書の控えを捨てているなら論外だが、捨てていないなら、現状から契約を履行する術も思いつくだろう。
もしそうなれば、新たな契約を結ぶことに応じてやろう。より俺に有利な契約を、な。
***
デニス(王国騎士団・内定) 契約あらまし
固有スキル【紫炎の剣】の習得を手助けし、発動時の魔力を、随時貸し付ける契約を締結。
返済利息として十日に一割(複利)の魔力が上乗せされる。返済期限は三ヶ月とし、期限を経過した時点で魔力の完済がなされている場合、固有スキルは譲渡される。
返済は随時可能とするが、返済する魔力は利息分から優先的に充当されるため、貸し付けた原資にあたる魔力は、利息を完済するまで減らない。
期限までに返済がなされない場合、貸し手はいつでも一括返済を要求することができる。
その際に返済能力がない場合、固有スキルならびに生成される魔力すべてを、完済まで強制的に差し押さえる。
差し押さえた固有スキルは貸し手が自由に使うことができる。また差し押さえている期間も利息は発生する。ほか、守秘義務などの細則は割愛。
***
────これは、前世で理不尽な死を遂げた魔王の俺が異世界に転生し、契約魔法を駆使して暗躍する物語の一端である。
事の始まりは、俺の前世にまで遡る。
◆御礼
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◆告知
『夜の王と契約魔法』はカクヨムコンテスト11にエントリーしています。(他プラットフォームにて失礼します)
https://kakuyomu.jp/works/822139839656378427
おかげさまで、新人作家の処女作であるにも関わらず、現在競合ひしめく「異世界冒険部門」で、100〜200位/1800作品と大健闘しております。
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