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第一章
満員電車の中で、スマホをスクロールする指がふと止まった。
見慣れたはずのアイコンに、胸の奥がざわつく。
――「あの物語」を思い出させる言葉が、そこにあった。
十年以上前。高校生の頃、僕は毎晩、更新されたばかりの二次創作小説にかじりついていた。親の目を盗んでノートPCを開き、深夜二時まで読みふけり、次の日は授業中に舟をこぐ。それでもやめられなかった。あの小説が、僕の青春そのものだった。
社会人になって、そんな情熱はどこかに置き忘れていた。仕事、残業、惰性の休日。友人と会う時間も減り、趣味も薄れていった。だが今、スマホに映ったその断片は、乾いた日々に火をつける火花のようだった。
「……まだ、誰かが覚えているのか」
胸の奥が熱を取り戻す感覚を覚えながら、僕は無意識にリンクをタップしていた。




