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冒頭
十年前、あの二次創作小説は確かに「伝説」だった。
タイトルを出せば掲示板はすぐにスレで埋まり、夜な夜な更新される章に誰もが張り付いた。パソコンの前でリロードを繰り返し、まだかまだかと待ちわびた。原作アニメの人気が落ち着いたあとも、その小説だけは独自に燃え上がっていた。
だが熱狂はあっけなく冷める。更新停止から数年も経てば、ファンの間でさえ名前を出す人はほとんどいなくなった。SNSのアルゴリズムも、あの物語を思い出させることはない。作者の行方も知る者はいない。
――はずだった。
ある夜、動画投稿サイトに一本の読み上げ動画がアップされる。誰かが昔のログを掘り起こし、丸い饅頭型のキャラクターが解説しBGMを付けたものだ。タイトルに見覚えのある人々が「懐かしい」とリツイートし、次の日には「初めて読むけど面白すぎる」と新しいファンがコメントを連ねた。
十年前の物語が、再び時代の光を浴び始めたのだ。