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第六話 中級魔術師対下級魔術師

 ヴェルナーとセレナードが考えごとをしていると、セレナードを追ってきたライドとシルバーがやって来た。


「姉上!」


「お嬢様! 無事ですか!」


 二人の声を聞いたヴェルナーとセレナードは考えごとを止め、やって来た二人と向かい合う。


「おい! 姉上に怪我させてないだろうな」


 ライドはいきなりヴェルナーに噛み付く。


「生意気なガキにはお仕置きが必要だな」


「うわっ! 何をする!」


 ヴェルナーはライドがうつ伏せになるように右腕で抱える。次に彼はライドの臀部(でんぶ)に平手打ちを食らわした。


「痛いっ! 痛いよぉ!」


 ライドはヴェルナーに臀部を何発も叩かれて涙目になっていた。


「ちょっと止めてあげてよ!」


「これぐらいで勘弁してやる」


 セレナードに嗜められたヴェルナーはライドを地面に下ろす。


「うぅ……」


 ライドは痛そうにお尻を摩っていた。


 その場が一旦、静まり返ったあとシルバーはいきなり、ヴェルナーの前に跪く。


「ヴェルナー、お前のおかげで俺たちは助かった! 感謝する」


「家臣は素直に礼を言えるのに当主は礼を言えないんだな」


「一々、一言多いわよ…………ありがとう」


 ヴェルナーが皮肉めいたことを言うとセレナードは言葉を詰まらせたあとに礼を言う。生き残れてるのはヴェルナーのおかげという自覚があったからだ。


「全員で俺合わせて四人しか生き残ってないのか?」


「ええ………いきなりトルネイド家の魔術師が奇襲してきたわ。サンドラ家に仲裁を頼もうと思って使者を送ってきたけど仲裁に来るという手紙だけ渡してサンドラ家は動かなかったわ」


「そのまま、家を焼かれて追い詰められたわけか」


 ヴェルナーに応じるようにセレナードはこくりと頷く。そのとき、シルバーは慌てて後ろを振り返る。


「敵がこっちに向かってきてるぞ!」


 彼は森から屋敷に向かって一〇人程の魔術師が近づいてくるのが分かった。


 ヴェルナーも目を凝らして森の奥を見る。


(三サークルの魔術師が二人いるな……一人はさっき戦ったレイブルとかいうやつ、もう一人は三サークル第五段階で四サークルに達しようとしているな)


「三人とも生き残りたかったら俺に従え」


「何か策でもあるっていうの?」


 セレナードはヴェルナーの毅然とした態度に妙な信頼感があった。この男なら何とかしてくれるかもしれないと思ってしまった。それはライドやシルバーも内心、思っていた。


「王級結界魔術であいつらを罠に嵌める」


「「「王級結界魔術⁉︎」」」


 ヴェルナーの発言に三人は目を丸くした。


 サークルの数が増えれば使える魔術が増えるがサークルの数に依存しない魔術も幾つかあり、ヴェルナーが言った結界魔術や錬金魔術と呼ばれるものが該当する。


 ただし、サークルに依存しない魔術は高度な魔力操作、扱う魔術に関する深い見識、複雑な数式の演算――つまり、技術、知識、計算力の三拍子が必要である。


 また、ほとんどの魔術には下級、中級、上級、王級、超級、神級の六つの段階がある。しかし、結界魔術や錬金魔術は五サークルを越える上級魔術師と呼ばれる者でもせいぜい上級魔術の習得が限界である。


 何故なら、何十年もの魔術の修練を結界魔術や錬金魔術の習得に費やすことでようやく王級結界魔術に至れるからだ。ほとんどの魔術師はそういった類の魔術を習得するのではなく幅広く色んな魔術を習得しようとする。そのため、ヴェルナー以外の三人は王級結界魔術を使えると発言した彼に驚嘆したのであった。


「信じていいんだな」


「ああ」


 シルバーに応じたヴェルナーは不適な笑みを浮かべた。


 それからヴェルナーは三人に今から取るべき行動を説明し、三人に役割を与えてから一人でトルネイド家の魔術師を迎え撃つことにした。


(記憶を取り戻す前とは言え、俺はトルネイド家の魔術師に怪我を負わされた。一〇〇倍に返してやるよ)


 感情を昂らせたヴェルナーはトルネイド家の魔術師一〇人の前に姿を現した。


「あぁ……こ、こいつですダナハ師団長! 俺の腕を奪ったのは」


 レイブルは目の前に現れたヴェルナーに顔を青ざめさせながらトルネイド家の魔術師団の団長に声をかけた。


「本当に一サークル第五段階の下級魔術師にやられたようだな」


 ダナハはヴェルナーを品定めするように見つめていた。


「おそらく、生まれながらにして魔力操作が優れているタイプの天才なんだろ。こいつと魔法の矢を撃ち合ったお前が悪い。だが俺は違う、こいつの挑発に乗らずに最初から最強の攻撃魔術を食らわす!」


「フハハハハハハ!」


「⁉︎」


 突如、声を上げて笑うヴェルナー。ダナハは彼を不気味に感じた。


「最強の攻撃魔術だと? 中級魔術師ごときが使える攻撃魔術など底が知れてるだろう」


「井の中の蛙がほざきおる。下級魔術師が俺の攻撃を浴びて生きれるわけがないだろ」


 ダナハは両手で三角形を使って、魔術をヴェルナーに撃つ準備をする。


「師団長、こいつの発言には何か裏があるはずです! 俺もこいつの口車に乗せられてやられました!」


「黙って見てろ!」


 ダナハの動きはヴェルナーの狙い通りだった。


 ヴェルナーはセレナードからトルネイド家は風属性魔法を得意とすると聞いた。そして必然的に中級魔術師が使う攻撃系の風属性魔術を予測していた。


(挑発に乗らないと言っておきながら挑発に乗ってるな)


 ヴェルナーはダナハに呆れながら魔法の矢を撃つ準備をする。


「そんなもので俺の魔術が防げるわけないだろ! 『中級風属性魔術・風刃暴挙(ふうじんぼうきょ)』」


「『下級無属性魔術・魔法の矢』」


 ダナハは十ニの風の刃を放ち、ヴェルナーは白色の光線を放った。誰の目から見てもヴェルナーの攻撃は無謀だった。


「魔法の矢よ、散れ」


 ヴェルナーの魔法の矢は十ニの光線に分裂し、それぞれ風の刃に向かっていった。彼は十二の風の刃が到達するである位置を予測し、その位置の座標を魔法の矢の数式に組み込むことで分裂させたのであった。


「なにっ!」


 トルネイド家の魔術師達は面食らっていたが魔法の矢は分裂した分、か細くなっていたのでダナハの魔法が破れるとは思っていなかった――


 ――ただ一人を除いて、


「まずい! あいつ! あれをやる気だ!」


 レイブルの顔は青ざめていた。


「魔法の矢よ、暴走しろ」


 ヴェルナーは魔法の矢に込められた魔力を暴走させることで魔法の矢を風の刃ごと爆発させたのであった。

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