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第五話 魔術産業の発展と秘伝魔術

 ファブニル家の人間達にとって目を疑うような光景が広がっていた。


「お、俺の腕が……ぐぁぁっ!」


 何故なら、三サークルの魔術師であるレイブルが一サークルの魔術師であるヴェルナーに魔法を破られた上に右腕が吹っ飛んでしまうような重症を負わせられたからだ。


「姉上! あいつ一体何をやったんだ! いきなり魔法の矢が爆発したんだけど!」


 ライドは狼狽えながらセレナードに疑問をぶつけた。


「多分、魔法の矢に込められた魔力を暴発させたんだと思うけど……体から離れた魔術を無理やり暴発させるには緻密な魔力操作が必要よ。魔力操作に関してはあいつ、上級魔術師以上よ」


「なんだって!」


 一サークルからニサークルの魔術師は下級魔術を使えるので下級魔術師と呼ばれる。同様に中級魔術が使える三サークルから四サークルの魔術師は中級魔術師と呼ばれる。


 そして五サークル以上の魔術師は上級魔術が使えるので上級魔術師と呼ばれる。また、五サークルを突破出来る魔術師はそう多くはない。


 そのため、多くの魔術師達は四サークルになってから数十年経っても、


『五サークルの壁を越えられない』


  と、嘆いている。だからこそ、上級魔術師以上の魔力操作が行えるヴェルナーに対してセレナード達は驚嘆していた。


 もっとも、ヴェルナーは『凶乱の大魔王』時代よりもかなり非力になっている。


 しかし、彼は現代では前人未踏と呼ばれる領域――――


 一〇サークルに達したことがある人物だ。今は魔術の威力、速度、規模及び身体能力の強化が他者より劣っていても身につけてきた魔術の技術だけは他の追随を許さない。


「ぐっ……は、早く治癒魔術を俺にかけろ!」


「は、はい!」


 右腕をなくしたレイブルは仲間に止血するように伝えた。声をかけられた魔術師はレイブルに駆け寄ろうとする。


「『下級無属性魔術・魔法の矢』」


「ぐあああっ!」


 ヴェルナーはレイブルに駆け寄ろうとした魔術師の隙を見逃さず魔法の矢で胸部を貫いて殺害した。


 トルネイド家の魔術師達はヴェルナーの容赦のなさに戦慄する。


「ひぃ……!」


「あ、悪魔だ……!」


「敵の戦力を減らすのは当たり前だ。隙を見せたお前らが悪い」


 ヴェルナーは平然としながら自論を持ち出す。


(にしたって、今殺した魔術師はニサークル五段階の実力者よ。普通に考えて一サークルの魔術一発では死なないはず)


 セレナードはヴェルナーの容赦のなさ以上に実力に見合ってない異常な強さに恐れ慄いていた。


「おい、こいつらの目的はなんだ! なんでファブニル家に奇襲をかけて攻撃したんだ!」


 ヴェルナーは肩越しにファブニル家の面々にずっと思っていたことを尋ねた。


「分からない!」


 シルバーはヴェルナーに応じていたが、ヴェルナーはセレナードの様子がおかしいことに気付いてシルバーの言葉を気に留めなかった。


「だが、その女は何か知ってるみたいだな」


 ヴェルナーはセレナードを顎で指す。対して彼女はヴェルナーの問いを聞いて唇を強く結んでいた。


「そうなんですかお嬢様⁉︎」


「心当たりがあるだけ、父上が私を逃す前に渡してくれたものがあるけど、私達を滅ぼそうとする理由になるとは思えないわ……てか」


 セレナーデはヴェルナーを睨んでから口を開く。


「そんなに強いなら、なんで実力を隠してたのよ! 貴方がまともにトルネイド家と戦ってたら大勢が犠牲になることはなかったわよ」


「お前が弱いのが悪いだろ」


 ヴェルナーが言葉を吐き捨てるとセレナードは悔し気に口を噤んだ。


 その後、ヴェルナーはニヤリと笑い、何かを思いつく。


「おい! トルネイド家の魔術師ども! お前らが欲しがってるものはセレナードが持ってるらしいぞ!」


「何っ!」


 トルネイド家の者達は泡を食ったように叫ぶ。


(この反応からして奴らの狙いはセレナードが持っているものの可能性が高いな)


 と考えたヴェルナーはほくそ笑む。


「おい、お前どういうつもりだ!」


 ライドは姉を危険に晒すようなヴェルナーの発言に怒りを露わにしていた。


「『凶乱流秘伝魔術・幻影走破(げんえいそうは)』」


 ヴェルナーは突如、実体のある幻影を三体トルネイド家の魔術師に向かわせて、自身はセレナードに駆け寄った。

 

「えっ! きゃっ⁉︎」


 ヴェルナーはセレナードを右腕に抱えながら、ライドとシルバーの間に立って囁く。


「屋敷の場所まで戻る、ついてこい」


「「⁉︎」」


 ライドとシルバーは目を見開いて、ヴェルナーに反発しようとしたが既にヴェルナーはその場におらず、すでに森の奥へと消えていった。


「ライドお坊ちゃん、とりあえずお嬢様のところまで行くぞ」


「分かってる!」


 ヴェルナーの行動の意図が分からないシルバーとライドだったが、セレナードの無事を確かめるためにも屋敷の方へと向かう。その場には動けないレイブルとニサークルの魔術師達が残っていた。


 今、ヴェルナーはセレナードを抱えながら木々の間を跳んで移動している。


「今の技なによ。皆、貴方の分身に釣られて貴方自身の姿を捉えられていなかったわよ……そんなことありえるかしら?」


「幻影走破は俺が作った魔術だ。あれはただ幻影を作る魔術じゃない、俺の幻影は実体を持っている。その上、この魔術は俺の気配を断つことができる」


「それで上手くその場から逃げられたってわけね……で私をどうする気よ」


 セレナードは目を薄めてヴェルナーを見上げる。


「話は屋敷に着いてからだ」


「ふんっ、屋敷はもう燃えてないけど」


 セレナードは鼻を鳴らし、自嘲気味に呟いていた。ファブニル家の屋敷はセレナードの言った通り、燃えて朽ちていた。


 ヴェルナーはセレナードを床に下ろし、煤けたベットに腰を下ろす。


「まず、俺は状況を知りたい、何があった」


「その前に私はファブニル家の後継者よ。そして貴方はたかがファブニル家の見習い魔術師」


「……は?」


 ヴェルナーは怪訝そうな顔をするがセレナードはまくし立てて喋る。


「つまり! 私が立って貴方が座って話してる構図がおかしいのよ、立場が逆でしょ」


(そんなことに拘っている場合かよ、こいつのペースに乗ってたら話が進まん)


 ヴェルナーは困惑しながら彼女を無視することにした。


「俺は奴らの狙いを知りたい。前の当主から貰ったものを見せてくれ」


(この男、私を無視した……!)


 セレナードは口をムッと閉じるが、切羽詰まった状態なため彼の言うことを聞くことにした。


 彼女は内心、豹変したヴェルナーが怪しいとは思いつつもファブニル家に仕えている人間だということで父親から譲り受けたものを見せることにした。


「正直これが狙いかは分からないけど」


 彼女はローブの内側に手を入れてとある物を見せる。彼女が見せたのは赤い布製の巾着袋だ。


「複雑に編み込まれた魔力を感じる袋だな」


「知らないの? 圧縮袋と言って袋の中は見た目以上に多くの物が入るわよ。物の重さだって袋に入れると十分の一になるわ」


「それは本当か」


 ヴェルナーは立ち上がってセレナードが持っている袋を触る。


「な、なによ……! 大事なもの入ってるから丁重に扱って」


 ヴェルナーは『凶乱の大魔王』時代にはなかった魔道具に興味津々だった。


(袋の内部は空間魔術の数式が刻まれて内部が拡張されてある。袋の入り口を通った物質は重力操作魔術によって軽くなるようにできている……こんなもんのが流通してるとは魔術産業は俺の時代より遥かに発達してる)


 ヴェルナーは圧縮袋に感心していた。その反面、人々の生活が便利になった分、戦闘技術の発展が妨げられたと考えていた。


 それからセレナードは袋からあるものを取り出す。


「ファブニル家の秘伝魔術が載ってる魔導書か」


「ええ」


 彼女が袋から取り出したのは一冊の本――魔導書と呼ばれるものだった。


 魔導書というのは特殊な魔術を習得する際に用いる本であり、使用の際には多大な魔力が必要なため多くの魔力が一箇所に集まって結晶化した石――魔石が必要である。


 魔術は魔導書が無くとも、通常の文献や人から教えを受けることで新たな魔術を習得出来るが独自の魔法理論を構築している秘伝魔術の習得は魔導書が必要である。


「どういった魔術だ」


「強力だけど、欠陥がある攻撃魔術」


「その話が本当ならファブニル家を滅ぼす理由には繋がらんな」


「でもあいつらこれを狙ってるようだった」


「裏に何かあるな……」


 ヴェルナーはトルネイド家が魔導書の他に何を狙っているのか気になっていた。彼の直感が何か大きな陰謀が渦巻いていると告げており、そこには自身が得する何かがあるかもしれないとも思っていた。


(この人、一体何を考えているの)


 一方、セレナードはヴェルナーの様子を見て不安に思っていた。

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