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(9) ヒロシ、2日目・夜

村に戻ってからは、ジンクのポーション作成を見学した。


回復ポーションは簡単に簡単に言うと体力回復薬である。

薬というものは、作用と反作用が存在する。

一方的に自分にとって都合の良い効果(作用)だけを享受できるものではない。


一般的に回復ポーションは、冒険者が危機に陥ったときに薬草をベースに臨時的回復薬として開発された。

実際に冒険者が回復ポーションがあったおかげで命を落とさずに済んだなんて話はいくらでもある。


逆に飲みすぎて吐血した例もある。

本当に飲み過ぎれば中毒で死んでしまうこともありえる。


だから王都の条例では、ポーション類を扱えるのは王都から正式な認可を受けた冒険者ギルド、錬金術ギルド、一部の薬店のみとなっている。

たが、そこ以外に入手が一切できないわけではない。闇で流れるのだ。実際には民間ギルドでも買えたりする。

冒険者が余ったポーションを売ったりもする。


というのがジンクからの解説。


元の世界では薬剤師だったというチハルは俺以上に興味深く聞いていた。

「飲み薬だったのですね」


「最初からそういう方向で開発されていたものではないぞ。外傷用の塗り薬だ。それを布に染み込ませて患部に当てるようにした。その方が回復魔法との相乗効果が一番高い」

「その後、飲んでしまう者まで現れた。一応肉体疲労の回復効果はあるがリスクは高い」


「ジンクさんは回復魔法も使えるんですか?」

「もちろんだ。試してみるか」

「やってみたいです」


チハルは靴を脱いだ。足の皮がところどころ捲れている。午前中はぶかぶかのジンクの靴で歩き回っていたせいだろうか。新品の靴のせいかもしれない。

ジンクもそれに気づいて「それは治さんとな」と笑う。


ジンクは布を持ってきて、チハルの両足に被せ、ポーションを振りかける。

「よく傷口に染み込むように押さえなさい」と言い、回復魔法をかける。若干だが布が少し輝いて見えた。


布を退けると、捲れ上がった皮膚の間から見えていた赤みのあった部分が、他の皮膚の部分と変わらないくらいに回復している。


「すごい」


チハルは俺に「すごくないですか?」と同意を求めたので、俺は王都でもっとグロい傷を見せられた話をした。



ようやく、ジンクのポーション作り実演が始まる。


たしか中学の理科の実験でやった蒸留水の装置のデッカい版みたいな器具を使う。下級回復ポーション用だそうだ。大きいのは、短時間で大量に作らないと手間と買い取り価格のバランスが悪いから。


アルコールランプのようなもので水を熱し、一旦水蒸気にして、薬草や鉱物を細かくしたもので漉してポーション薬を作る。

こっちは魔力がなくても作れるらしい。


ジンクが作る上級回復ポーションは液の透明度が高く『クリアポーション』の愛称で呼ばれるのに対し、下級はやや白濁していて『ホワイトポーション』と呼ばれるらしい。白というよりは少し緑がかって見えるけど。


チハルは非常に興味深く見ていて、途中からポーションの大瓶に詰めて栓をする作業をジンクと交替してた。


俺はと言えば完全に見ているだけだった。



ポーション作りが一段落し、ジンクは水魔法で器具の洗浄を始めた。


チハルは、料理作りを試させて欲しいと言った。

「初めての食材と調味料なので上手くいく自信はまったくありません。毒味役になるかも…」


「大歓迎だ、たまには新しい刺激が欲しい」

「竈門を使ってもよろしいですか?」

「使い方はわかるか?」

「母方の実家で見たことあります。使うのは年末くらいですが」


俺は買ってきた玄米を思い出した。

「ジンクは精米もできるのかな?」

「セイマイ?米を研いで白いのにすることか?」

何度もやったことがあるぞ、という。


ジンクは家の奥から木の箱を持ち出してきた。

蓋を開けると、中には何本も木の棒が立っている。輪投げの的を思い出した。

グラスで玄米を掬って、何杯か箱に入れる。そして蓋をする。

「久しぶりだからしくじるかもしれない。魔力の加減が難しいのだ」

そういうと、箱の中でザザザザという音がしだした。

「フローデリヒが生きてた頃はよくやってた」


数分後、静かになった箱の蓋をあけると、白い米が出来上がっていた。

チハルが見にきて「糠は取っておいてください」と言う。

了解ですと応える。ぬか漬けまでやるのかな。


竈門はすでにジンクによって火が入れられていたので土鍋でごはんをセット。

ジンクの家は、不思議なほど日本的な道具がある。

フローデリヒさんというのはやはり日本人だったのかな。

謎なのは日本人離れした名前だけだ。


そのことを思い切ってジンクに尋ねてみた。

「ああ、フローデリヒの元々の名前は、この世界では卑猥な意味を持つ言葉の発音と同じだったんだ」と言って大笑いしながら答えてくれた。だからワシが命名した、と。

「ヒロシやチハルは大丈夫なのか」と聞いたら、それは大丈夫らしい。


ごはんが炊け、チハルの料理も完成した。

チハルが言うには、購入した調味料の味が想像してたものとかなり違ったので悪戦苦闘したとのこと。特にしょうゆかと思って買ったものが全然違ったらしい。

でも、最初から食べられるものが作れただけで大したものだと思う。


食後、ジンクに「今晩は風呂に入るか?」と聞かれた。


風呂!風呂あるのか!?

見学に行くと、確かに木で作られた浴槽があった。

湯船は水魔法+火魔法で作るらしい。

これもフローデリヒのこだわりなのだそうだ。


フローデリヒさん、ありがとう。



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