(7) ヒロシ、2日目・昼
昼からはジンクの提案で、再び王都に行くことになった。
チハルの衣料品や日用品を買うためだ。
もちろん俺も着替えなんて持ってないから、昨日貰ったお小遣いで買おうと思う。
俺だって毎日同じパンツはさすがに抵抗がある。
チハルもジンクにお小遣いを貰ったようだ。
驚いたことに、前日、城の中に直結してたゲートだが、他にも似たようなゲートはいくつもあるようだ。
確かにただの買い物くらいで、毎度、城の中に転送されててはストレスがきつい。
ゲートの場所は、第一工房の隣の建物。
元は村の住民用に設置したらしい。
もちろん、誰でも簡単に使えるわけではない。
ゲート近くに置かれた魔石にジンクに魔力を封入してもらうと、約一日の間はゲートに近づくだけで通路が開く仕組みになっている。
ジンクに魔石を渡され、ゲートに近づくと昨日と同じくゲートの空間が歪み始める。
ジンクが最初に通り、チハルが続き、俺が最後に入った。
今回はなんだか建物の密集地に出た。
裏路地なんて生易しい場所じゃない。建物と建物のわずかな隙間だ。
「あんまり目立つところに出ると、みんな驚くからな。ここに作らせてもらった」
隙間を通り抜け表通りにでると、そこは昨日来た錬金術ギルドの裏だったことか分かる。
街の風景を見渡してチハルは「うわー」と感嘆の声をあげた。
さっそくジンクに衣類店まで連れて行ってもらって服を物色。
下着はトランクスタイプのがあったが、ややダボっとした感じで、ゴムはなく紐で縛って留めるタイプだ。
元の世界ほどサイズが豊富にない。あと安いものは生地の強度に不安を覚える。
男でこれだから、チハルなんかは悶絶してるかもしれない。
トランクス風…各銅貨3〜5枚
Tシャツ的…各銅貨7〜10枚
これらは生地が不安な気がするので3着ずつ。
上着…銀貨1枚+銅貨5枚
コート(冬用?)…銀貨8枚
これから冬の季節らしいので、季節に合いそうなコートをジンクに見てもらった。
ズボンは今のジーンズをしばらく愛用しよう。
とりあえずこの世界での、初めての買い物ミッションが完了した。
銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円くらいという感じか。
この世界の貨幣単位はルーク。
銀貨でいうと、1枚100ルーク、約1000円となる。
銅貨以下はジンクに聞いてたとおり、小さな四角い貨幣がある。大きさは向こうの世界のSDカードの半分くらいのサイズ。もちろん金属製なのでそれより重い。
ジンクは面倒なので受け取らないと言っていたが、俺はしっかり受け取った。
買い物を終えて店の外で待っていたのだが、チハルは悪戦苦闘しているのだろう。なかなか店から出てこない。
一旦出てきたら、ジンクに他にもコートも買うように言われ、また店の中に入っていった。
次は靴屋だ。これはサイズが合わないと大変になる。
俺は向こうの世界から履いていたスニーカーを当分使うつもりだ。
服に比べると割高感のある価格帯だ。安いものでも金貨1枚は下らない。(下駄、サンダルタイプは除く)
チハルは出来合いので丁度いいサイズが見つかったようだ。すでに履き替えてる。
ジンクはサイズ的に毎回オーダーメイドになるらしい。
「他に何か必要なものはあるか」
そう言われてもまだピンとこない。
「ならば、今夜の食事の買い出しにでもいくか」
「昨日食べたフォレストボーアの串焼きがまた食べたい」
「了解した」
チハルは野菜の露店に釘付けになっていた。
「あれ、ジャガイモかな」
「あっちはキャベツっぽいけど、なんか違う」
嬉しそうにはしゃいでいる。
確かに、見覚えあるような、ないような食材が露店には並んでいる。
チハルは少量ずつだが買いまくっていた。
「ジンクさん、調味料のお店とかありませんか?」
ということで専門店へ。
塩、砂糖、胡椒、他、どれも日本人感覚ではバカ高い。
産地からの輸送コストがとんでもないんだろう。
だが、これだけ品揃えが良いのは王都ならではかもしれない。
そこで俺はひとつの商品が目に留まった。日本酒っぽい。
しかし、これも値段はかなり高い。
背後からジンクが「フローデリヒが好きだった酒だな、お主もか」
いや、俺は日本酒があるなら、米もあるのかと考えただけなのだが、ジンクは「久しぶりに…」と言って一本買うつもりらしい。
続いて連れてきてもらった店には米が売っていた。
精米されている白米もあったが、玄米、籾殻のままも並んでいる。ジンクは「こっちでいいぞ」と玄米の方を指差す。「やり方はわかっておる」と。
異世界転移されて、わずか2日で白米が食える(かもしれない)のは出来過ぎかもしれない。
買い物を満喫して村に帰ることにした。
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