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(6) ヒロシ、2日目・朝

朝、ドアをノックする音で目が覚めた。


「おはようございます。ジンクさんがお話しがあるそうです」チハルの声だ。

異世界に来たという現実を受け入れざるを得ない。


「はーい、おはよう、いま行きます」

不意に腕時計を見る。そう言えば、腕時計を付けていたことも忘れていた。社畜営業マンにはもはや体の一部だもんな。


時計の針は9時を回っていた。向こうの世界の時間だ。

もう仕事が始まってる時間だけど俺が出社しないから騒ぎになっているかなと考えたが、向こうの世界には向こうの俺が存在しているんだった。

俺は悲しきコピー人間か。


そういえば、こっちの世界は1日何時間だろう?

そもそも1時間の尺度が違うかもしれない。

1年が何日あるかも違うんだろうな。


そんなことを考えながらリビングに到着すると、パンの焼けた匂いとジンクやチハルが待っていた。


「おはようございます」

「おはよう、まあ掛けなさい」

話があるということに若干身構えながら、着席する。


「実はな、昨晩ベッドに入りながら考えたんだが…」


ドキドキする。


「この村をもう一度復興できないか、とな」


「ワシがこの村で一人で暮らすようになって長い。正直諦めてた。たが2人が来て、生きる活力が湧いてきた気がする。ワシにとっては最後のチャンスかもしれない」


「俺もここに居させて貰えるなら協力します」

「私も」

「2人とも、よろしく頼むな」


「まずは住民をもう少し増やさないとな」ジンクは言った。

「俺たちはこの世界に来て丸一日経ってません。まだ知らないことだらけです。ジンクさんの計画に従いますよ」


そしてジンクはこの村から住民がいなくなった経緯を話してくれた。


この村は勇者フローデリヒが魔王封印の褒賞として国王から贈られた領地。フローデリヒが考えていた土地より何百倍も広い土地だった。

そこでフローデリヒは、魔物の襲撃を受けて村が全壊した村人たちに声をかけて回り、移住者を募った。


移住者は増えていったが、村単位の移住者はそれぞれに集まり、やがて他の村の移住者グループとのいざこざが発生するようになった。

そして、この村に移住してから誕生した二世以降はどんどん村から出ていってしまうようになったというのが大まかな顛末らしい。


「うーん、やっぱり大人数での集団移住がネックだったのかな。村ごとにしきたりとか違ってたと思うし、宗教が違う場合もある。近い仲間がいれば集まっちゃいますね」

「ワシも今になって思えば、そう思う」


「そんなわけで、これから少しずつ住民を増やす行動をしてみようと思う。了承してもらえるかな」

「了承も何も、俺たちはジンクの考えを尊重するだけです。事前に相談してくれてありがとう」


話を聞く間、パンを細かく手で千切り口に運んでいた。思いっきり口に頬張ってはいざというときに喋れない。

それにパンは弾力が強くて噛みごたえがある。すっかり満腹感に満たされた。

パンに添えられてた飲み物を一口飲んでみる。お茶だ。紅茶より日本茶に近いが、不思議な清涼感がある。

「美味しい」


「美味しいですよね、私も驚きました」


「それは、ここに住んでからフローデが開発してた茶葉だ。故郷の味を再現したかったらしい。ワシもファンでな、村が廃墟化してからもその茶畑だけは手入れしておった」



「ジンク、この国の人ってどうやって暮らしてるの?」

「どうやって、とは?」

「どんな仕事をして、どうやってお金を稼いでいるのかとか」


「ああ、王都で言えば、まず国から雇われている人間は多いぞ。国の組織があそこに集まっているからな。国軍の兵士も結構いる」

「あとは自分で商売したり、そういう店で雇われたり、ギルドなんかの依頼をこなして報酬で暮らしている者もいる」

「ギルドにもいろいろあってな。冒険者だけではない。工事の仕事を専門に扱うのもある。様々だ。とは言え、定職を持たない貧困層もそれなりにいる」


「農業とかは?」

俺が何を考えてるのか、ジンクは理解したようだった。

「王家専用の畑や牧場はある。ただ民間人の食卓には届かん」

「だからと言って、さすがに民間人が王都の中や周辺で畑や家畜を飼うのは難しい。王家の領地だからな。だからそういうのは王都から少し離れた村でやる」

「この村も最初はそういう方向性で考えておった。結界があるから、農作物が害獣や魔物に荒らされることもなく、理想的な環境だと思ったんだがな」


ジンクは俺の背中をパンパンと軽く叩いて、

「さっそく考えてくれてありがとう」と言った。



「少し畑でも耕しておくかのー」


そう言うと、ジンクは外に出ていった。

居候の身としては手伝わないわけにはいかない。

ジンクを追いかけると、

「ん?今日は何もすることはないぞ」


え?畑を耕すんじゃないのか?


その答えはすぐに分かった。

ジンクは荒れ放題の畑に到着すると、中には入らない様に言い、畑に向かって両手を差し出した。

すると畑の土が空中に浮かび上がり、やがて激しく土が空中で暴れ始めた。やがて土が地面に下り始めると、しっかり畝までできた畑が完成した。


追いかけてきたチハルも唖然としている。


チハルが遅れてきたのは靴が原因。マンションの室内からそのまま異世界に送られてきたそうなので、今は身長差が30cm以上あるジンクの靴を借りている。

つまり、ぶかぶかの靴なのだ。


続いて、畑のところだけに雨が降り始めた。


なんという全自動。


あっという間に6区画(3×2)の畑が完成した。


「あとは様子を見ながら増やしていこうか」



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