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(3) ヒロシ、王都へ行く

「それで、これからどうするつもりじゃ」

「突然の出来事で、いったいどうすればいいのか…」

「そうか、これからのことはゆっくり考えなさい。しばらくは、ここで暮らせばよい」


ラッキー、と口に出しそうになった。

こんな状況で、世界を冒険して魔王を倒してこの世界の英雄になります、なんて言えるやつには俺は絶対に着いて行かない。

俺はヘタレと言われようと、全力で藁を掴む。


空き家は好きに使っていいという。

当面の雨風は凌げるかもしれないが、その後の食べ物はどうすればいいのだろう。野菜とかの作物さえ見当たらない。


「ワシは3日に1回くらいの頻度で王都に行く、この村でポーションを作って王都に納品するんじゃ、それで食物や日用品を買って帰る。今日はこれから王都に納品に行くが、一緒に行ってみるか」

王都と言われる場所、めちゃくちゃ興味がある。

「ぜひ!」

ジンクムントは目を細めて嬉しそうに笑った。


「なら、着いてきなさい」


そう言うとジンクムントは踵を返して歩き出した。

地面に座ったままだった俺は慌てて立ち上がり、ジンクムントを追いかける。全身の痛みでまだ上手く歩けない。


朽ちかけた木造住居が通りを挟んで両側に並び、その先にやや大きめの建物が建っている。その大きい建物の手前で立ち止まると、左手にある建物に向かった。

「ここがワシの第一工房じゃ、回復系のポーションを主に作っておる」

扉を開けると、ヒヤッとする空気が流れ出る。


中に入るとテーブルの上に木箱が積まれていた。

「こっちが王家の軍隊に納品、あっちが錬金術ギルド用」

ギルド!…ファンタジーっぽい。子供の頃にはよくRPGゲームをやったものだ。


「王家用は瓶にも王家の紋章が入っておる、間違えるでないぞ」

ジンクムントは体の水平方向に向かって手をかざすと、その空間が波紋のように歪み始めた。そして、そこに王家用の木箱を次々と空間に入れ始める。

ジンクムントの後ろに回って覗き込むと積まれた木箱が見える。


「おぬし、魔法は?」

自分がいた世界には魔法なんて存在しなかったことを話す。

「そうか、まぁいい、そっちの箱も取ってくれ」

なんかあっさり納得するんだな。


ギルド用と言われた木箱をジンクムントに一箱ずつ渡す。


全て入れ終わるとジンクムントは床に置かれた大きな木箱に向かった。その箱もか、ずいぶん重そうだなと思ったら、箱の上蓋に手を掛け、開けた。中には硬貨のようなものが大量に入っていた。


ジンクムントは無造作に硬貨を握りしめると、テーブルの上に並べた。


大金貨…10,000ルーク

金貨…1,000ルーク

銀貨…100ルーク

銅貨…10ルーク


「この下に、1ルークという四角い形の貨幣がある。ワシは受け取らないからここにはないんじゃ」


「それと、大金貨は普通の店ではまず使えん、使いたければギルドで両替を。露店だと金貨も断られることもある」


日本の露店で1000円札が断られることはないから、円よりルークのが高いのは間違いなさそうだ。


「いきなり無一文スタートじゃ辛かろう、お主にやる。入村祝いじゃ」

あまりに無造作なタンス預金だった。

かなりの量があるから、床が抜けないかも心配になる。


「次はこっちじゃ」と言って、工房を出た。

第一工房反対側の家を指差し、「向こうは第二工房、材料には匂いがキツいものもあるから分けて作っておる。今日の納品はないからパス」

そして一番奥に建っている大きな建物に入っていった。


普段はこの建物で生活しているらしい。


「王都までは徒歩だと2日くらいはかかる」

2日!!……歩くんだろうか?

しかし、3日おきに通ってるなら計算が合わない。


「そこでだ。このゲートを使う。あと、おぬしは便宜上ワシの弟子ということにしておこう」


ジンクムントが先ほどの空間魔法のようにゲートに手をかざすと、ゲートに囲まれた空間が歪み始め、向こう側に兵士らしき人影が浮かぶ。彼らは敬礼のような仕草をした。

「行くぞ」そう言うと、ジンクムントはゲートに入ってしまった。俺も後に続く。


「ジンクムント様、ようこそおいでくださいました」

ゲートを通ると、何やら石造りのトンネル通路の行き止まりに出た。


「この者はワシの弟子にした者じゃ、この者に通行証を用意してくれんかの」

「お帰りの時までに手配しておきます」

「よろしく頼む。では、いつものようにポーション納品の確認を頼む」

そう言うと空間から紋章入りポーションの木箱を取り出した。

「日が暮れる前には戻るから、手配を頼む」

ジンクムントは通路を歩き出した。


「ここは王都の城の裏口、王家御用達商人のみが使える通用口じゃ。この場所に王家の人間は滅多に来ないが、もし警護兵以外の人間を見かけたら、とりあえずさっきの警護兵のような敬礼をしておくんじゃ」


両手のひらを胸の位置で上に開き(何も所持していないことを見せる)、そのままお辞儀をする。ということだ。


通用口の扉を開くと、城の周りにお堀があった。お堀沿いに幅3メートルほどの石畳が続く。俺は気になっていたことを聞いてみた。


「ジンクムントさん、会ったばかりの俺にどうして親切にしてくれるんですか?」

ジンクムントは立ち止まり、

「勇者フローデリヒの話はしたじゃろ、フローデリヒも別世界から飛ばされてきたと言っておった。お主に会ったのも何かの因縁かもなと思ったんじゃ。あとワシのことはジンクでいい、フローデもそう呼んどった」


「さて、錬金術ギルドに行くぞ」とジンクは歩きだした。

「錬金術ギルドと言っても、鉱物、魔石、薬、と幅広く扱っておる。上級品しか取り扱いしてくれんが、そうであれば一番高く買ってくれる」


「冒険者ギルドは上級から下級まで買い取ってくれるが、検品に時間がかかるのと、買い取りが少し安い。上級品は買い取ったあと錬金術ギルドに流される仕組みになっておるからな」


「あと、ギルドには王国公認と非公認がある。非公認は民間人が勝手に立ち上げた組織じゃ、トラブルとかも起きやすい」


城を半周ほど回ったところで城の正門側らしき場所に出た。

とは言え、出入りできるのは大きな正門の横にある小さな門らしい、側道のような道だ。

側道の門衛がジンクに敬礼したところ、ジンクは軽く手を振って通り抜ける。俺はなるべくジンクにくっ付くように後を追った。門衛は少し怪訝な顔をしている。



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