(19) ヒロシ、カイゼンについて知る
カイゼンから帰ってきた。
到着したのは王都の錬金術ギルド裏へ行くゲートの、そのすぐ隣にあるやつだった。
この部屋にはあと3つのゲートがある。それぞれがどこに繋がっているのか気になる。
マックたちとジンクの家に向かう。
まだ食事は残っているのだろうか、、、
ゲートが修理不能なら泊まりになるかもしれないと伝えてあったから、ないかもしれない。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
キッチンでダベっていたイレーヌとチハルが出迎えてくれた。
「ゲートの修理は終わったよ。ただ、カイゼンの町がやや不穏なことになっているかもしれなくて、ジンクは話を聞きに行った」
夕食について聞かれたので、まだ食べてないことを伝えると、準備してくれると言う。
「てっきり向こうで美味しいものでも食べてくるのかと思ってました」
「俺たちも町に入るまではそのつもりだったけど…」
と肩を落としてみせた。
今日は簡単に済ませようと相談して、こんなものしかないんです。
野菜や肉をたっぷり煮込んだスープだった。
向こうの世界にもありそうで、でも食べたことのない味。
日本ではあまりないけど、海外ならありそうな感じ。
食事を終え、用意してくれた感謝を伝える。
今日の冒険ルートの話をしていると、しばらくしてジンクが帰ってきた。
きっと深刻な面持ちで帰ってくると思っていたが、なんとも晴れやかな表情で現れた。
「いやー、すまんすまん。結論から言えばワシの早とちりだった」
「ワシが不審人物だと思った、あれは花火師だそうだ」
「花火!?」
チハルが小動物みたくピクン、という感じで反応。
「3日後に花火大会がカイゼンである。みんなで見に行くか」
「こんな時期にやるんですね」
「カイゼン150周年記念ということらしい」
ジンクに聞いた話によると、
150年前、カイゼンという町はなかった。岩場だらけの海岸線で漁師も棲みつかない場所だったらしい。
そこに人が住み始めたのが約150年前になる。
外国の商船が嵐で船の帆が壊れて航路を外れ、海流に流されてきたのが今のカイゼンの沖、そこで座礁した。
乗組員たちは上陸したが、調査をしたところ、過去に母国が戦争を仕掛けた国だったことが分かる。
見つかったら処刑されると考えた船員たちは、見つからないよう密かにこの土地で暮らしながら母国からの救助を期待することにした。
結局、彼らはすぐに見つかってしまうわけだが、思いもよらないことに王家より居住を許可されることになる。
3日後がちょうどその150年目になるわけだ。
その移住者の母国の船がやって来たのは、その約60年後。
村に偶然立ち寄った商船らしい。
「ワシが見た不審な男たちは、今回のイベントのために、その国から呼ばれた花火師たちだそうだ」
「言葉が違うから、地元民で酒盛りしてる連中の輪にも入れず、隅っこでコソコソしてたってことだ」
「向こうの国の花火はすごいらしいぞ」
「買い物するなら、明日にでも行くか」
「大量に向こうの特産品を入荷して友好のバーゲンセールをしてると言ってた」
女性陣の目が光った。
その後、男女に分かれ入浴をする。女性はジンクの家の風呂だ。
前回は洗濯できなかったので、今日は衣類を持って公衆浴場へ向かう。
今日はトッシュと組んで背中を流し合った。
マックとトッシュに初めて会った時は、トッシュが大怪我を負っていた。だから、まだかけだし冒険者だというイメージがどこかにあった。
ところが、昼間のマックとトッシュの戦いぶりを見て驚いた。動きがすごいと思った。(一瞬のことだったので上手く表現できない)
20代後半のオッサン(異世界人)が今から始めてもとても真似できない。
「トッシュは火魔法をどうやって訓練したの?」
「村にいた頃は火魔法ばかりやっていました」
「ファイアーランス、威力に驚いたよ」
トッシュは歯に噛んだように、
「動かない的にひたすら撃ってましたからね。実戦で初めて魔物に撃ったときは狙いが定まらなくてアタフタでした」
そこにジンクからアドバイスが入る。
「あれに風属性で錐揉みを加えると、さらに威力が上がると思うぞ」
「なるほどです。そういうイメージでやってみます。ありがとうございます」
「それより今日見た、地面を泥濘ませる魔法を会得したいです」
「あれは地属性と水属性だな。設置が難しい。仲間が足を踏み入れたら仲間にも掛かる」
「上位の魔法が使えるようになれば、自分の魔法が仲間に掛からないように予め契約魔法をかけておくこともできる。もちろん自分の回復系など他の魔法も効かなくなるから使い所が難しい。だから防御や回復役が別にいるのが望ましいのだ」
そういう戦略的な駆け引きも大切なんだなぁ。
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