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(18) ヒロシ、初冒険でカイゼンを目指す

翌日、ジンクによればカイゼンへのゲートは不安定な状態で、カイゼン側のゲートに不具合の可能性があると言う。

使っている魔石の経年劣化かもしれない。普段から使っていればこうなる前に気付くのだが、長年使ってなかったから仕方ないという。


なら、カイゼン行きは白紙かと思えば、ジンクはやる気まんまんだった。


マック、トッシュ、そして俺を引き連れ「冒険」に行くと言い出した。絶好の実地訓練だと喜んでいるジンク。

しかも、王都−カイゼン間の輸送ルートには出ずに山道を通るつもりらしい。「輸送ルートは安全すぎて退屈」なのだそうだ。


昼前に出発すると言うので、各自準備をするのだが、俺はというと何もすることがない。冒険用装備など何も持っていないからだ。

ジンクに革のジャケット、短剣を収められる腰ベルト(短剣付き)、背負いカバン(リュックサックというよりランドセル風)を貸してもらった。


イレーヌさんたちに弁当を作ってもらって、午前中に出発。村の結界を通って外に出るのも初めてのことだ。

結界を出ると、荒れ果ててはいるものの道と呼べるものがある。両脇は自然のままの森という感じだった。


先頭から、マック、トッシュ、俺、ジンクという列で進む。


5分ほど進むと、右側からガサガサという音がした。

「フォレストボーアだな。マック任せたぞ」とジンク。

「はい」

ガサガサ音が急ピッチになってきた。

というか、俺の所に向かって来てねぇか。一番弱いやつ見つけるスキルが高すぎ。


草むらから飛び出してきたイノシシ。

それに反応して立ち塞がるマック。速い。これで初心者冒険者なのかと思った。


(突っ込んでくる敵を真正面から受け止めるな、横に流すイメージだ、ただし後衛に被害がでないようにな)

確かジンクがマックに出発前、そんなことを話していた。


しかし、イノシシはマックに抑えられ完全に動きを止めた。マックの剣はイノシシの頭部側面の鼻先から首の辺りまでに当たっていて、必死にもがいてるイノシシを放さない。


すかさず反対側に回りんだトッシュが、

「ファイアーランス!」

イノシシの首元に炎の槍が刺さったように見えた。


倒れ込むイノシシ。もとい、フォレストボーア。


拍手をするジンク。


マックはフォレストボーアが飛び出してきた草むらを覗き込む。「やっぱり」


危険はなさそうなので俺も覗いてみる。

地面が濡れて、泥濘んだ状態だ。


「余計なお世話だったかな」

「そんなことありません。助かりました。おかげで足を滑らせバランスを崩したまま飛び出してきたので止められました」

そうだったのか。


「トッシュの魔法も良かったぞ。ワシの出番がなくなった」

「今回は至近距離から撃てたので、狙いやすかったですが、中距離以上の命中率はまだまだです」


「ヒロシは逃げ方が上手かった」


そこかっ!


「パーティの陣形は重要だ。マックが敵を流しやすいように、その先には立たない」「前衛が敵を流すときにどこへ行かせるかも後衛は考えて行動しなければならない。全部が全部止められない。そうしないと前衛の負担が増える」


なるほど。俺の場合は臆病なだけだと思うが。そんなこと考えていなかったと素直に認めよう。



ジンクの空間魔法でフォレストボーアの死体を回収し、先に進んだ。


やがて森の出口らしい光が見えた。

「あそこが街道だ」

なんだ街道を使うのかと思ったら、その先で左に入って山道に入るらしい。

山はそれほど高くないが馬車が通るルートはその山を大きく迂回するので時間がかかるのだそうだ。


山道ではウルフと対峙することになった。

正式にはこれもフォレストウルフと呼ぶらしい。

ウルフは山の中を静かに移動するものの、イノシシのように一気に突っ込んで来ない。一旦は立ち止まるので戦い易そうだったが、群れと遭遇するとそうでもないらしい。


一気に3匹と遭遇したときは、ジンクのグラウンドスパイクという魔法で地面がトゲトゲになり逃げていってしまった。


山の頂上あたりで、ちょっと遅めのランチタイムになる。

おにぎりもあった。何かの葉っぱで包んである。

チハルが作ったのだろうか、それともこっちの文化にも存在するのかな、と思っていたら、マックたちは不思議そうに眺めていた。一般的ではなさそうだ。

ジンクは「おむすび、だ」と説明している。

ああ、フローデリヒさんは「おむすび圏」出身なんだろうかと思った。それとも時代で違うんだろうか。


日が暮れ始めた頃、山からカイゼンの町が見え始めた。

ここまで来る間の道は当然未舗装ではあるが、道幅は狭い所で1メートルくらい、広いと3メートルくらい。

ハイキングコースにはもってこいかもしれない。獣(魔物)が出なければであるが。


カイゼンの町は海岸線に沿った高台になったところでほぼ一直線に家が並んでいた。屋根に夕陽が当たって綺麗だ。

スマホがあれば写真に収めたいくらいだ。

厳密に言えば、こっちの世界に来るとき、スマホは所持していた。たから、あると言えばある。ただ充電する術がないだけだ。


カイゼンの町に到着したころには、完全に日は暮れていた。


賑やかな町だった。あちこちで酔っ払いらしき人が大声で話している。

なんだろう、ジンクが心なしか警戒しているように見える。口数が減るというより何も話さない。

町に入る前は町についていろいろ話していたにも関わらずだ。

俺たちも無口になって後に着いて歩くのみだ。


入場したところとは逆方向の町外れの家の前に着く。

着いたところで扉から、カタカタと音がした。

鍵が開いた音か?自動ってことはないだろう。

中に入って、明かりが灯され、扉を裏側から見ると、2箇所に閂があった。表側にはなかったから、ジンクのような力がないと開けられないという、単純な仕組みだ。


ジンクはようやく口を開く。

「町の中に怪しい人間が多かったな」

酔っ払いのことかと聞くと違うと言う。

「ここの町でこの時間に酔っ払いが多いのは昔からだ。酒も飲まず目つきの悪い奴らが大勢いた」



そう言うとジンクはゲートの修理を始めた。

ゲートの枠を開いて、いくつかの魔石を交換している。


ここは誰の家かと聞いたら「ワシの家だ」と答える。

「この国は一部の人間を除いては土地は買えん。領主に賃料を払って一定期間土地を借りるんだ。借りている間だけ、自由に使える」

「フローデリヒがよく魚を食いたがるので、ここを借りてゲートを作った」

まだ20年くらいはジンクのものらしい。


「ワシはちょっと知り合いに話を聞いてくる。お前たちは先に帰りなさい」


俺たちはジンクを残し、ゲートを通った。



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