(16) ヒロシ、水魔法の訓練をする
翌朝、畑でマックとトッシュに講義するジンクの話を聞きながら雑草取りをしていた。
雑草がどれかはわからないけど、前日にジンクが残した草と「同じに見えるものは抜かない」作戦だ。
魔法には、基礎魔法、下級魔法などがあり、中級、上級と続くらしい。基礎魔法の内は何か魔法が出せるわけではく、いわば魔法の基礎修練。(なのかなと思う)
この世界で生まれ育った人間なら、魔法の練習を始める頃には習得しているのは普通のことらしい。
ジンクが言うには、俺は水属性基礎はクリアしているらしい。地は半分超えた。火と風はほぼ無い状態。
洗い物をしたり、風呂に入っているときは必ず水を意識していたのが功を奏したのだろうか。
そんなわけで、雑草を抜きながら俺は大気中の水蒸気の存在を意識することにした。日本にいた時は湿度の数字は気にしても、大気中の水蒸気の存在(同じ物だけど)までは考えたことはなかった。
(大気中の水分よ、あつまれ〜、あつまれ〜)
なんて頭の中で考えなから。
これが世に言う厨二病というやつなのか。
そんな時、手の甲に水滴が落ちた。
汗かな?汗だよね?雨かも?
と心を鎮め、空を仰ぎながらドキドキしてる。
雨でもなさそうだし、汗を滴らせる気温でもない。
うーん、気のせい?
作業を続けていると、ポタッ、ポタッ、という感じて地面に水滴規模の跡ができる。
もしかして、できているのか?
しかし、これくらいで騒ぐのはちょっと恥ずかしい。
大気中の水蒸気の量って実は大したことないんだろうか。
夏はあんなに不快にさせるのに。
大気の成分って、窒素8:酸素2:アルゴン微、だっけ。地球の話だけど…。
んーーっ、………ん!?
まてよ。
4*N2 + O2 → 8*H2O
144 → 144
なんてデタラメな式を頭の中で考えてみた。
うーん、初級魔法で原子核まで作り替えちゃうことが出来たら後々大変なことになりそうだけど、144同士なら、どこかで聞いたことのある『等価交換』という理屈は成り立たないのかな。
両手でおにぎりを作るように空間を包み込んだ。
チッソぉ〜、サンソぉ〜、と念じる。(…もちろん心の中だけで)
数分後、指の隙間から水が滴り落ちる。
うぉぉぉぉ、キタァーー!!
これはインチキな化学式が偶然正解だったのか?
それともただの偶然なんだろうか?
姿勢を正し、もう一度やってみる。
………出来た。
これはもうジンクに見せてもいいよね。
ジンクに見せてみた。
「おおぉ!やったな!ヒロシ!」
背中をバシバシ叩かれる。こんなに喜んでくれるとは。
トッシュには「どうやったんですか?僕、水だけは上手く行かなくて」と聞かれた。
教えるのは構わないが、この世界の人にインチキな化学式を見せて理解してもらえるのか分からない。
仕方ないので、「空気って目に見えないけど、何かが確実に存在してるよね」
「はい」
「俺は、その一部を手で包んで、これを『水に換えてください』と念じてみた、…感じ?」
なんとも曖昧な言い方になってしまった。
「ありがとうございます」
こんないい加減な説明で感謝されるのも心苦しい。
「ヒロシ、それは良い感じだぞ」
また背中を叩かれる。
「魔法は結果が同じようなものでも、実はアプローチはいろいろある。同じような魔法に見えて、厳密には特性が異なる場合もある。同じような料理でも調理方法が異なると、違う味になるようなものだな」
「ヒロシ、だいぶ魔気を使ったようだから少し休んで回復してこい」
俺は日時計のところまで行き、今日の記録を済ませ、草の上に寝転んだ。
昨晩はよく眠ったはずなのに、魔法の練習をした後などは急な眠気に襲われることがある。
ハッと目覚めた時には、30分(地球時間)を過ぎていた。
しかし、おかげでかなりスッキリした。
水でも飲もうとジンクの家へ向かう。
自分で飲む分くらいは自分で出せるようになりたいな。
家にはチハルがいた。
今日はポーションを作ると言っていたはずだ。
「ジンクさんに聞きましたよ。水魔法に成功したって」
「まだ、ほんのちょっとだよ」
照れくさい。
「どうやったのですか?」
トッシュと同じ事を聞いてくる。
あくまで偶然かもしれないけど、こんな考えが頭に浮かんだんだ、インチキ化学式をメモ帳に走り書きしてチハルに見せた。
「すごいです!化学の試験なら確実にバツですけど」
チハルが可笑しそうに言う。
「間違いなく赤点だ。追試と等価交換になる」
★