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(15) ヒロシ、いい湯だな

「それにしても、こんな大きな浴槽をお湯で満たすの大変じゃないですか?ここに前に住んでた人たちはみんな魔術使いだったのですか」


「さすがにこれを1人でお湯で満たせる者はほとんどいなかったな。ワシとあと2人くらいか。でも10人掛かりくらいでやればできないこともない。水出し班と、沸かし班、それぞれでな」

「裏に井戸があるから、魔法が苦手な者はそこから人力で運んだりする者もいた。大切なのは皆で協力していくことだ。あの井戸も綺麗にしとくか」


ジンクは裏手に回ると井戸を覗き込み、やがて井戸の水が洗濯機のように渦を巻いているような音がしだす。

ジンクは井戸から離れたので、俺も離れる。

すると井戸の水が渦巻きながら井戸から飛び出す。

そして、まだ耕されていない荒れ畑のところまで弧を描いて飛んで行く。


いちいち驚かなくなってきた。



ジンクの家に戻ると、まだチハルとイレーヌは楽しそうに話している。

チハルは俺たちを見ると「お茶、出しますね」と立ち上がった。


気になるのは、ジンクとイレーヌの関係だ。

昨日、チハルがこの世界の料理を教えてくれる人、と言って、昨日の今日だ。早過ぎだろう。


「イレーヌは、ワシが王都に行った時によく通っていた食堂の娘だった。親娘で店をやっていたが、ご両親に不幸が続いてな、、、店を畳んだんだ」

「昨日のチハルの話で、パッと頭に浮かんだのがイレーヌの顔だった。最初はどうしているのか様子を見に行くつもりだったが、まさか即決で来るとはな」


「ヒマだったし、面白そうだったから」と屈託のない笑顔でいう。


チハルが煎れてくれたお茶を一口飲む。


「そうそう、ジンクさん、チハルちゃんと王都に買い出しに行きたいんだけど…」とイレーヌが言う。

「じゃさっきのゲートまで行くか」


3人は家を出て行った。お茶をまた一口飲む。


俺も何か、するか…。


農具小屋まで行き、一本の鍬を手に取った。

マックやトッシュたちに負けないよう俺も訓練するか。


俺はマックたちとは離れた、さっきジンクが井戸の水を飛ばした方の荒れ畑に向かった。

土が柔らかくなってそうとか、まぁ、本心で言えばそういうことなんだけど、鍬の強化を念じる訓練なら土の固さなんてどうでもいいよね。

畑の1区画の3分の1ほど掘り起こしたところで、まだ耕してない部分にキラッと光るものを見た。


それは指輪だった。

最初からここに落ちてたのか、それとも井戸から水と一緒に出てきたのか分からない。

後でジンクに届けよう。とズボンのポケットにいれて訓練を再開した。


やっと1区画を掘り起こしたところで、地面に座り込んで休憩しているところにジンクがやってきた。

「お、ヒロシ、やってるな。お主、地属性が少し上がっておるぞ」

「え?魔法とか使えるの?」

「まだ、全然足らん」

「がーん」


「王都で野菜の種をいろいろ買ってきた。何か植えるか?」

「俺、農業の知識なんかほぼないんですけど大丈夫ですかね」

「ワシもない。ここにある畑は昔の移住者がほとんど作ったやつだ」

そう言うとマックたちの方を向いた。

「あいつらにも聞いてみるか」

と歩いていく。



「僕らの住んでた村は農業中心だったので少しくらいなら分かります」「ですが、僕たちは冒険者になるという夢がありましたから、あまり真剣に仕事を習ったりしてません。それで宜しければ」

ジンクは「最初に失敗は付きものだから、まずはそれでやってみよう」と言う。


「これからの時期に適した種を店主に選んで貰ったが、どれがいい?」

好きなの選べと袋分けされた種をマックに全部渡す。

そして、余って俺に回ってきたのはキャベツらしき野菜の種のようだ。

マックたちの村では葉っぱ成分は大根の葉などで補っていたから育ててなかったらしい。


「今日は種を植えたらお終いにしよう」「その後は4人で風呂に入ろうか」


俺は地面を掘り起こしただけで畝となるようなものはこさえてないので、今日はマックたちの作業を手伝った。


ジンクは2日目に耕した畑に行っていた。

しゃがんで雑草を抜いている。

残された草が薬草の芽だそうだ。


4人は作業を終えて公衆浴場へ向かった。

ジンクが浴槽に湯を張り、4人は着替えを取ってくるために一旦解散。

ジンクの家に戻るとチハルたちは帰ってきていて、食事の準備をしていた。


ジンクは女性陣に「俺たちは外でひとっ風呂浴びてくるよ」と伝え部屋に向かった。


外?と怪訝な顔をするチハル。


「公衆浴場みたいなのがあるんだ」と教える。


俺も部屋に戻って着替えを抱え、公衆浴場に向かう。


浴場に到着すると、マックとトッシュがすでに待機していた。遅れてジンクも到着。

手に目の荒いスポンジのようなものを持っていた。

「これって、もしかしてヘチマですか?」

ジンクの家の台所や浴室にもある。

「お、知ってたか。これで背中を流し合うに限る」「新品なんでまだちょっと固いがな」

俺も知識として知ってはいたが、実物を見るのは初めてだった。


4人は服を脱ぎ、俺はジンクと、マックはトッシュと組んで背中を流し合った。

俺がジンクの背中を洗っていると、「フローデリヒとよくこうして風呂に入った。懐かしくて涙が出そうじゃ」


全員で湯船に浸かり、疑問に思っていたことを聞いてみた。

向こう世界でやっていたゲームでは回復魔法で一瞬で体力が回復する。しかし、先日ジンクがトッシュを治療したのを見てた限り、そんなのはあり得ないのは分かる。

ゲームでやってたような戦闘スタイルじゃ命がいくつあっても足りない。


こっちの世界の戦闘方法はどうしてるのかを知りたかった。


「基本は、退路を確認してからの、不意打ち先制攻撃だな、一撃必殺が理想。初手で出来うる限りのダメージを与える。勝てないと思ったらすぐに逃げる」


「あの日、僕たちは薬草採取、山草採取の依頼をしていました」

マックが語り始めた。

「いつもは、というか、たまになんですが、回復系担当の冒険者で臨時にパーティを組んでくれる人がいるんですが、あの日は彼女はいなかったので、おとなしく薬草にしたんです」

「ですが、薬草に夢中になり背後から来るギザタイガーに気づかなかった」


あの時は自分が見張りをしなければならなかったんだ、明らかに気が緩んでた、とトッシュが言う。


せっかく風呂でリフレッシュのはずが、暗い空気にしてしまった。


のぼせ気味だったので、王都で買った異世界パンツ一丁で外に出て夕涼みをした。気持ちがいい。

住人が増えたら、こんな格好はできないなと思った。


そんな時、畑で拾った指輪のことを思い出す。

「ジンク、さっきこんなもの拾ったんだけど」

ジンクは怪訝そうな顔で指輪を見つめる。

「もしかしたら、井戸の水と一緒に飛び出したのかも」

そういうと、ハッとした顔で、

「そう言えば指輪を無くして騒いどった住人がおったな。とりあえずワシが預かっておくがいいか」

「もちろん。お願いします」

人の指輪なんて、いろんな意味で「重そう」だし、持っていたくない。


その後、全員で食卓を囲む。


イレーヌさんの初料理なので、どんな異世界メシが出るのかと内心ビクビクもしてたけど、ほぼポークジンジャーだった。(厳密にはポークではなくボーアらしい)

これはこれで嬉しい。食堂では人気メニューだったそうだ。


食後、女性陣用に家の浴槽に湯を張りに行くジンク。


俺は食器を洗い、今日は早めに布団に入らせてもらう。


ボクはもう眠いんだ。パトラッ……



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