(14) ヒロシ、魔法訓練を見学する
「おう、もう来ておったか」
ジンクが帰ってきた。
マックとトッシュは飛び上がるように立ち上がり、90度のお辞儀をした。
「この度、お世話になることになりましたマックとトッシュと申します。何卒、宜しくお願い致します」
さらにトッシュは王都で助けられた感謝の言葉を続けている。
「もう、よい。照れるわ」
そんなことより気になるのは、ジンクの後ろで笑っている女性だった。
「それよりワシからも紹介したい人がいる。今日からここで暮らすイレーヌさんだ」
「イレーヌです、皆さんよろしくね」
明るそうな人だ。年齢的には30代、、、後半くらいかな?
「住人が増えそうなので、チハルの負担を考えて料理のできる住人をスカウトしてきた」
「ヒロシ、2人に村の中を案内してやってくれるか」
「はい。じゃ行こうか」
2人に目配せをする。
ジンクの家を出て、「まず、ここの両隣りにあるのがジンクの工房です」
「2人の住む所なんだけど、現状ではほぼ空き家だらけなので2人で相談して良い所を選んて構いません」
何かとジンクの家に近い方が便利かもしれない。近い所から見ていこうかと2人を促す。
左側のが住む所として使えそうな建物が多いから、こっちから行こう。
まず、2軒目でもいいんだけど、ここ荷物がいろいろ残ってるんだよね。
なので3軒目から向こうがいいかな。
その3軒目であっさり決まった。
「僕たち、ここに来れなきゃ当分野宿確定だったんで、もう屋根さえあれば充分なんです」
「そっか、君たちがいいなら。長年放置されてたようだから、自分たちで掃除してね」
マックとトッシュは持ってきた荷物をそこに置いた。
「ここに決めたか」後ろからジンクの声がした。
「イレーヌとチハルが、ガールズトークちゅうので盛り上がってしまってな、先にこっちを片付けようかとな」
「2人とも武器を持って着いてくるんだ」
慌てて荷解きをして武器を取り出す2人。
ジンクの後を走って着いていく。
トッシュは肋骨折れてるんじゃなかったっけか。
畑の近くの広場にでる。
「冒険者にとって最も重要なのは地属性魔法だ」
「地属性魔法は防御魔法の宝庫だし、武器強化魔法もある。おまけに地属性スキルが多いほど、それだけで防御ステータスが上がる」
「2人とも地属性の基礎はできているようだが、地属性ステータスは低い。地属性スキルを持ってないからだ」
「マック、あそこにある木を攻撃してみるんだ」
マックは両手で剣を握りしめ、力を溜める。意を決して木に切り掛かるが、木の表面の皮を剥いだだけだった。
おそらく、今両手がジーンと痺れていると思う。
「では、剣に地属性魔法、武器強化を掛けてやろう。もう一度だ」
さっきと同じように切り掛かった。
今度は剣が見事に木に食い込んだ。
「今のは加減した強化だ」
「ではもう一度やってみよ」
マックはもう一度切り掛かる。ところが今度は木に当たる前に剣が跳ね返される。
「今のは木に地属性防御魔法でシールドを張った」
「どうだ?マック?」
「全然違います」
「魔法は敵に火魔法撃ち込んどけばいいというのはお伽話の話だ。もちろん、やることやってから撃ち込むのは構わんぞ」
「冒険者のような最小人数構成パーティでは、1人が倒れたことで全体総崩れなんてよくある。倒れた仲間の役割もこなせるサポート役の存在は重要だ」
「マックは武器強化と防御魔法、トッシュは前衛が大変な時に後方からかけてやる。トッシュが魔法詠唱しているときはマックが守る。2人ともこのスキルを使えるようになれば、生存確率は格段に上がる」
「明日からやることはわかったな?」
「はい」
「はい」
では、着いてこい。と、まだ耕されていない畑に行く。
「この辺の畑を使ってよい」
「マックは明日から剣を鍬に持ち替え、鍬全体を強化するイメージを強く意識し、魔気が枯渇するまでひたすら耕すのだ。魔力が弱まったら魔気の回復。魔法訓練はこの反復が大切になる」
「あと、意識は刃先だけでなく、鍬全体を強化だ。そうしないと柄の部分が壊れる」
「トッシュはまだ完治してないようだから、今から見せることを魔力で念じるんだ」
畑の土が地面から跳ね上がる、例のヤツである。
「これなら、村の仕事と訓練を両立させられる。野菜を育てれば食料の確保もできる。一石三鳥だ」
「地属性修練値が上がったら、また教える。今日はここまで」
ジンクは家の方へ帰っていく。
マックはさっそく鍬を竹刀の様に構え精神集中してる。
トッシュは俯き、地面を見つめている。
明日から、と言われたのに今からさっそく始めるつもりだ。
話しかけづらいので、食事の時間になるまでそのままにしておこうと、俺もジンクの家に戻ろうとした。
途中、空き家群の方から妙な物音に気付き、どこからだろうと探ってみれば公衆浴場の家だった。覗きこんでみるとジンクがいる。
足元には木屑がいっぱい。声をかけると、カビ臭かったが面倒なので木材の表面を魔法で削ったのだとか。
掃除がワイルド過ぎないか?
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