(12) ヒロシ、明日はホームラン
チハルの買い物を終え、村に戻った。
そのまま、チハルはキッチンに直行したのだった。
案外執念深い性格なのかな、と思ったのは本人には言えない。
俺はジンクに会って、マックの話をした。
「ふーん、良いんじゃないかな。住民を増やすなら、あれくらい活きの良いのも必要かな。任せるよ」
活きのないオッサンですみません、だ。
これ以上話しかけるのはジンクのポーション作りの妨げになりそうだし、ひとまず退散することにする。
そうだ、日時計を確認しに行こう。
腕時計を確認すると、地球時間で2時間以上開いてしまった。
急ぐわけでもないから、まぁいいか、と影の位置を記録。
さて、また、することがなくなった。
途中まで済ませていた空き家見物でも続けるか、と考えて空き家に向かう。
公衆便所や公衆浴場として使われていたと思われる建物もあった。
公衆便所はそれほどあの匂いは気にならなかった。
人が使い始めたら違うのかな。
公衆浴場は何気にカビ臭い。
男女別と思われる浴室が2部屋あったが、それぞれが4人くらい楽に入れそうな広さの浴槽である。
洗い場もそれなりに広い。
どうやってお湯を溜めるのだろう。浴槽を満たすにはかなりの量のお湯が必要だ。
ジンクの家は、ジンクの魔法でやっている。
この村に住んでた人は、それに匹敵するくらいの魔法が使えたんだろうか。
ジンクの家から見て左側は、住居用と思われる家が多かった。
その中に公衆浴場1ヶ所、住宅裏手に井戸が数ヶ所。
右側は、公衆便所は3ヶ所、共同物置的な構造が特殊なのが数ヶ所。
マップでも作りたいなと思ったが、自分の持っているメモ帳では紙が小さすぎる。
これも後で考えよう。
ジンクの家に戻りキッチンに行くと、なんだかスパイシーな香りが漂っている。
これは、、、。
「あ、気づかれちゃいましたか。カレーに挑戦してみました。カレールーとかないので、勘で香辛料を混ぜ合わせましたが、なんか様になってきたと思いませんか?」
「天才!!」
チハルは嬉しそうに微笑んだ。
待ち遠しい。急に空腹感を覚えた。
「あとどれくらい?」
「食べるだけならそんなに時間はかかりませんが、やっばり煮込まないとね」
「もう少ししたらお米の準備、お願いしてもいいですか」
そう言えば、昨日のごはんはパサパサ気味だった。
嬉しくて研いでからすぐ炊いちゃったけど、水によく浸してから炊くべきだった。今日は早めに準備しておこう。
再び外に出ると、ジンクが通りに立っていた。
「さっきは作業の邪魔をしてごめんなさい」
「ん?いや、考え事してたんだ。こちらこそ生返事で申し訳なかった」
「考え事ですか」
「うむ。結界をな、少し弱めようかとな」
「結界ってどこにあるんですか?なんかうろついて間違って近づいたら危ないかなと思って、この周辺から離れられません」
「そうか、詳しく教えてなかったか。今から見に行くか」
メインストリートを進み、畑に出たところで右に曲がる。
あとは畑沿いに5分ほど歩いた所で森に突き当たる。
森との境界に転がってる岩を指差し、
「これが結界石だ」
「これが村をぐるっと囲んでいる。隣同士の結界石を繋いだラインを越えなきゃ大丈夫だ」
「結界石、、、魔石みたいな物ですか?」
「そうかもしれんが、違うかもしれん」
「魔石というのは主に魔物などの体内にある石だ。例外もあるが脊椎動物なら大体は首の後ろにある。植物なら根っこにできる。不定形はバラしてみないと分からない」
「結界石は主にダンジョンで見つかる」
「魔石というのは魔力が強い魔物ほど大きくなる。首の後ろが盛り上がっている魔物は要注意だ」
「結界石は扱い方はほとんど解析されておるが、なぜこのようなものが生まれるのかほとんど解っていない」
「さらに謎なのは、結界石のエネルギー源なのだ。何のエネルギーで動作しているのかが謎のままだ」
「今ある7属性、火に対して、水。風に対して、地。光に対して、闇。そして、無に対して、もう一つの無。8番目の属性(EE,eighth element)説を唱える学者もおる」
ひぇー、なんだか難しくなってきた。
「さっきは、そんなこと考えとって、上の空になってたわけだ」
「そんなことより、チハルが新しい料理に挑戦中です。手伝いに行きましょう」
「そうだな」
ジンクの家に着くと、
「なんだ、この刺激的な香りは」
「カレー、っぽいものです。今日は私たちの世界にあったものにかなり近づけたと思います」
「匂いだけで空腹感を刺激するな」
そろそろ米を炊いてもいいかなと聞くと、「お願いします」と言われたので、用意しておいた土鍋を竈門に掛ける。
「チハルさん、今日ギルドで会った男性、ここに来るかもしれないよ」
「そうなんですね」
興味ないのかな?
「ジンク、その冒険者なんだけど、、、」
どういう扱いにするかを話し合った。ここで話したのはチハルにも聞いてもらうためだ。
こそこそ話してたら除け者みたいになってしまう。
チハルにも意見を言ってもらいたかったのだが、何も言うことはないようだ。
話し合っているうちに、今後どんな役割りを担ってくれる人が必要になってくるかという話になり、チハルに意見を求めたら、この世界の料理に詳しい人、できれば料理を教えてくれる人が良いですという希望が、やっと聞けた。
「了解した」とジンクは言った。
俺もチハルもこの世界に人脈などないのでジンク頼りにするしかない。
そうこう話しているうちに「ごはん大丈夫そうです」と言われたので、俺は皿にごはんを盛り付け、チハルに手渡す。
それにチハルがカレーをかけ、ジンクの前に配膳した。
「あ、冷たい水が飲みたくなると思います」
と、グラスを3人分用意してくれた。
それにジンクが水を満たして、更に氷まで加えた。
3人分のカレーライスが出来上がり、全員が着席する。
「おれたちの世界で、カレーライスと呼ばれている食事です。国民食と言われるくらいの人気食なのです」
ジンクは、カレーとライスがわざわざずらして盛り付けられているのに疑問を持ったようだ。「食べ方はあるのか?」と聞いた。
「人それぞれだけど、俺は、スプーンにライス山盛りにしてカレーをちょっとだけ付けたり」と言って、パクッ。
「カレーだけ掬って」…パクッ。
「って食べるのが好き。あ、いきなり食べちゃった。チハルさん、いただきます。すごく美味しい」
「ボナペティ」と笑った。
ジンクは俺の言った通りに口に運び、
「んんー、イケる!」
そう言って、一気に平らげてしまった。
そうとう気に入ったようだった。
「チハル、食材費は全額負担するからまた作ってくれ」
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