(11) ヒロシ、ポーション納品(付添い)する
日時計の所でジンクと話していると、チハルがやってきた。
「あ、日時計があるんですね」
チハルは時間感覚はどうなんだろう。
「私、仕事を辞めてからずっとニートみたいなものでしたから」
あまり違和感はないらしい。
「あの、ジンクさん、ポーションの大瓶がもうありません」
「そうか」
3人は第一工房へと向かう。
工房に着くと、ジンクはチハルが作ったポーションの木箱を一つ持って奥へと進んだ。
「これは闇属性の魔石だ。闇属性のモンスターは強いやつばかりだから貴重で高価になる」
「ポーションは弱・光属性だからお互いを近づけると反応する」
ポーションがわずかに光を放っている。
「あまり、長時間近づけてはいけない」と、ポーションを離した。
ジンクはチハルの作ったポーションを物色し、そこから一つを取り出し、
「これなら中級としても売れる」
魔石に近づけることなく判定した。
そして魔石に近づけるとさっきよりも光が強い。
「中級としてギリギリ合格ラインだな。下級に混ぜて売っても構わない。当たった冒険者がラッキーとなる」
注意が必要なのは、下級にも満たない製品を混ぜて売ってしまうことだという。
「この中にはなさそうだな」とジンクは言った。
ジンクは残っている空き瓶を持ってきて、中身は「水だ」と言い魔石に近づけるが、まったく光らない。
作業部屋に戻り、さらに残りのポーションも検品して「全部、初級合格」と宣言した。
「しばらくはワシが検品してから売るんだぞ」
「さて、ヒロシ」と言われ、ドキッとする。
「チハルと一緒に売ってくるか」
「俺、空間魔法できないですけど大丈夫ですか」
ジンクはいつのまにか手に持っていた布を差し出し、これを使えという。
ジンクが机の上に布を広げると、すべての端に紐が通してある。つまり大きな巾着袋みたいな構造になっている。
その中央にチハルが作ったポーションを収めた木箱を積み重ねる。
そして、紐を引っ張り上で箱を包み込むように束ねると、どこからか取り出したドーナツ状の道具で留めて締める。
すると、膨らんでいた特大巾着袋があっという間に萎んでしまう。手品ではよく見るやつだ、が。
「コレを付けている状態なら何をしてもかまわん」
ジンクは萎んだ巾着袋をぶるんぶるん振り回したり、さらに小さく畳んだり。
「この状態で外すと大変なことになる」
「元に戻すときは、底になる部分をしっかり意識して」
と、萎れた巾着袋の一番底の部分をテーブルの上に着けるようして、ドーナツ部分を外すとみるみる巾着袋が膨らみ始める。
上の閉じた部分を開放すると、元通りに積み上がった木箱が登場した。
俺の腕時計より数倍すごいのだが…。
「2人で行ってこい」とジンクは言った。
「あと、チハルにも冒険者ギルドカードを作ってやるんだ」
確かに俺はカードは作ったけど、いまだ依頼達成ゼロのペーパー冒険者なんだが。
ちなみに、冒険者ギルドでは、ほぼ常時買い取りはするが、依頼ではないのでポイントは付かないらしい。
隣の小屋からジンクに見送られて、三度、王都に到着。
なんとも心細い。
はじめてのおつかいに行く子供の気分だ。
錬金術ギルドの裏手に出て、冒険者ギルドに向かう。
2日前に通った道だ。
それでも冒険者ギルドに入るときはさすがに緊張する。
カウンターに近づいて、
「あの、すみません、下級ポーションの買い取りってお願いできますか?」
受付の女性は、パッと明るい笑顔になって、
「もちろんです」
カウンターの上で、例の巾着袋を緊張しながら開く。
「助かります」
「ギルドカードはお持ちですか、ポイントをお付けしますよ」
あれ?ポイントは付かないのでは?
「今回はギルドの在庫が逼迫していまして、緊急で依頼を出そうか相談していたところです」
「なら、彼女のカードを作ってもらえますか、作ったの彼女ですから。ジンクムント二番弟子のチハルさんです」
「まぁ、ジンクムント様は弟子はとらないと聞いてました。では一番弟子の方も?」
恥ずかしながら、自分自身を指差した。
「では、お二人はパーティということで、一番弟子さんもポイントを付けさせていただきます」
棚ぼたキター。
チハルのギルドカードを作ってもらい、俺のギルドカードも提出した。
「ありがとうございました」
ポーションの空瓶を巾着袋に詰めて帰ろうとした時、冒険者から声をかけられた。
インネンつけられるのかと腰が引けたが、
「先日、ジンクムント様とご一緒でした方ですよね」
「私はマックと申します。先日は相棒を助けていただき誠にありがとうございます」
ああ、あの時の怪我を負った冒険者の仲間か。
「お仲間の方は」
「順調に回復してます」
「それは良かったです」
「盗み聞きする気はなかったんですが、ジンクムント様はお弟子を取られておられるのですか」
「まぁ、我々は成り行きみたいなものですが」
「もし可能なら私たちもジンクムント様に鍛えてもらえないでしょうか」
「それはジンクムントに確認を取らないと、、、」
「そうですよね。もし可能ならお願いしたく」
「伝えておきます」
私、こちらに住んでおります、と紙切れを渡された。
住所のようだが、土地勘のない俺にはさっばりだ。
「申し訳ない、俺たち王都はあの時が初めてで、地理に疎いんです」
マックは悩んだあげく、
「では、あちらの冒険者掲示板にメッセージを残して貰えませんか」
どうやら冒険者同士の私信掲示板らしい。
掲示期間、当日限り無料とある。
「分かりました。話してみます」
それでは。と俺とチハルは冒険者ギルドを出た。
「ほら、昨日話したでしょ、すごい怪我をした冒険者をジンクが手当した話」
チハルは、ああと納得した様子で、「これからどうします?」「できれば昨日の調味料リベンジしたいんですけど」
チハルが燃えている。火属性習得か。
「いいよ、いこうか。お金まだある?」
「ポーション売ったお金、使って良いって。あと追加で貰っちゃいました」
俺はフォレストボーアの串焼き、買い食いしちゃおうかな。
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