(10) ヒロシ、日時計を作る
今日で3日目である。
なんだか自分だけがこの村での役割を見つけられてないようで焦る。
チハルはポーション作成に力を入れているし、ジンクも筋がいいと褒めている。
俺は何をすればいいんだろうかなんて考えながら、まだジンクが耕してない畑で鍬を振り下ろしている。
こうしていれば地属性のレベルがあがるというが、その実感もない。
疲れた、というより手のひらが痛くなったので休憩することにした。
水を飲みに家に行く。手のひらを見たら真っ赤になっていた。水が自由に出せたらいいのに、と心の中でため息をつく。
水を飲んだ後、まだ中を見ていない空き家の中を見学して回った。
そのうち一軒に木材倉庫のような家があった。
その中には板状に加工された木材も多い。これ、この世界ではどうやって作るんだろう。魔法なのかな。
2枚の板を両手に持ち、いろいろ組み合わせているうちに、ふと思いついた。
家の中にある使えそうな工具を探し、木材を加工して組み合わせる。出来栄えは良くないが試作機として目的は果たせそうだ。
設置場所を探してウロウロしていると、ジンクに声をかけられた。
趣旨を説明する。
「この世界に来て時間の感覚がよく分からないんだ」
「だから、太陽の位置と影の位置で…」
「日時計だな」
「うん」「置く場所を探してたんだ」
「実はな、この村にもあるんだ。ワシもしばらく使ってないが」
落胆はしない。たぶん趣旨が違う。
一応、村の日時計のある場所にも案内してもらった。
立派な日時計ではあるが、使われている木材がボロボロになっている。
「隣に置かせてもらっていいかな」
返事も待たず、勝手に置く。
ウェストポーチからサインペンを取り出した。一応、油性だ。
自分の感覚ではまだ正午前なので、大体の感覚で正午くらいに正面に太陽が来るようにしたい。隣の古い日時計を参考にして、後で微調整すればいいからな。
サインペンで自作日時計の四角にマークだけ付ける。
「変わったペンだな」
想定内の反応だったが、ウェストポーチからメモ帳を取り出してスラスラと買いてみせ、ジンクに手渡す。
ジンクは何かを書いて驚く。
「これは魔法か!?」
いや、魔法ではない。使い捨て文具だ。俺のいた世界では銅貨1枚ほどで買える。と説明した。
ジンクは目を丸くして驚く。
面白いので、ボールペンも渡してみた。
4色ボールペン+シャープペン付きだ。
色を替えて驚き、シャープペンの芯が出る構造に驚いた。
「これはいくらで買える」
というので、これは銀貨1枚だけど、安いのは銅貨3枚からある。だけど安いのは書けなくなる前にたいてい壊れる。
「この世界の大魔導士には異世界にもゲートを開ける者もいると聞く。そんな魔法が使えたら、この世界でボロ儲けできるな」
こっちの世界の人間には見せない方がいいといって、ペンとメモ帳を返してきた。
「これ欲しさに平気で人を殺すやつは大勢いる」
物騒な話だ。
さて、ここからが本題なのだが、なんか見せるのが怖くなってきた。
ただ、ジンクには隠し事はしたくない。
「これは、俺のいた世界の時間を刻む機械なんだが」
と腕時計を見せた。
アナログ式で、ソーラー充電できるやつだ。
その他の機能も盛りだくさんだが、こっちの世界では機能しそうもない。衝撃耐性に強い某社製だ。
こっちの世界なら間違いなくオーパーツ扱いになりそうである。
たけど、日に晒してないとやがて止まっちゃうんだよな。
「俺の中の時間感覚はこれ(腕時計)のままなんだ。この世界はそれほど大きく違わないが、少しズレているのは感じる」
だから、ズレている感覚を測ってみたいんだ。
そう話している間もジンクは腕時計を注視したままだった。
とりあえず俺は、影の頂点に印を付けた。
影が一番短くなった所が、太陽が一番高いはずである。
隣にある古い日時計が狂ってなければ、ほぼ正確に設置できていると思う。
ちなみにジンクによれば、ここは北半球に位置しているとのことだ。
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