表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/11

嘘……。信じられない

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

 この国最大の祭り、花の祭典は、人、人、人でごった返す。だから近くにいるはずの花売りが、なかなか見当たらず、2人で視点を変えて探しているのだ。


 その状況で偶然、ヒロインのシャロンに遭遇する。そんなこと、どう考えてもあり得ない。

 これは必然で、クロフォード公爵様とシャロンのイベントだと確信した。


 シャロンが得意気に顎を上げた姿。私を見下す視線。止まない高笑い。そんなの、どうだっていい。


 ……それよりも、言葉にならない喪失感が私の胸を締め付ける。

 ブライアン様を見ると、自分の感情を、どうやっても誤魔化せないくらいに惹かれてしまう。

 それなのに、その彼が、ルーカス様のように変わっていく姿を私は見たくなかった。


 どうやっても……、この世界はシャロンの味方をする。


 やっと、ブライアン様へ馬鹿なことを伝える覚悟を決めたのに。

 これでは、もう終わりだ。……何だか、泣けてくる。

 私は絶望を覚悟し、はぁっと、小さなため息を漏らした。

 


 背後から、小さな砂利を踏みつけた音が響く。

 シャロンに気付かず時が流れて欲しかったのに、彼が向きを変える音で、私の視界が霞み、涙が浮かぶ。


 ブライアン様は、どんな顔でシャロンと向き合うのか? それを確かめたくて、彼に顔を向けると、彼はそっと私の背中に腕を回した。


「アリアナを泣かせるのは誰かと思えば、さきほどアリアナに言い寄ったルーカスという男の婚約者か?」

「クロフォード公爵様! えぇぇっ、アリアナとご一緒というのは、どうしてでございましょう⁉ 何か騒ぎがあったのですか? もしかして、ルーカス様がアリアナに何かをしたのでしょうか? そっ、そんなはずない」


 素っ頓狂な声を上げるシャロンに、思わず吹き出しそうになった。彼女に声を掛けたのは、王城騎士団長でもある公爵様だから、当然だ。

 状況を理解できないシャロンは、目をパチクリさせた後に、ルーカス様が奪われたと思い、必死の形相を私に向けた。

 あんな男、違うから。口を開きかけた私より先に、ブライアン様が淡々と話し始める。


「私がアリアナの髪を飾り、更に美しくなったと満足している。でも、どこかおかしいのか? 着ける位置を直す、教えてくれ」

「あああっ! 滅相もありません、おかしくありません! アリアナに似合っています。でも、どどどうしてアリアナの髪にクロフォード公爵様が赤い花を!」


「君たちは揃いも揃って、鈍いのか? この祭りでアリアナの髪を見たら分かるだろう。君が探している男なら、アリアナに振られ、どこかへ消えた。それを知る私には、君の無意味な赤いバラがおかしくて仕方ないが笑う気はない。だが、彼女を泣かせたことを許す気はない」


 それを聞き、真っ青になったシャロンは、立っているのもやっとなほどに震えている。


「おっ、おふたりには大変申し訳ないことを申し上げました。何卒っ、何卒ご勘弁くださいませ」

 そう言いながらシャロンは、左耳の上に挿した赤いバラを引っ掴むと、ぐしゃりとつぶした。

 あぁー、バラがかわいそうと思う中、土下座文化のないこの国で、シャロンは、まるで日本の土下座のように、地面に座り込み必死な謝罪を続けた。


 おそらく、公爵の彼が「許す」と言うまで続ける気だろう。


 しばらく経っても起き上がらないシャロンを、ブライアン様と顔を見合わせ放ってきた。


 行き交う人々が舞い上げる土埃をかぶるシャロンを見て、私の心はスッキリしつつも、完全に胸のつかえが取れていない。


 もう今しかない。私の顔を不安そうに覗き込むブライアン様へ、恐る恐る問い掛けた。


「あの~、シャロンを見てもブライアン様は何も感じませんか?」

「感じたさ」

 きっぱりと言い切る口調。


「……やはり、そうですか」

「アリアナが誰彼構わず恩情を与えるから、愚か者が付け上がるんだ。友人は選ぶべきだろう」


 もしかしてブライアン様は、シャロンを見ても、これっぽっちも揺らいでいない? これならいけるかもしれない。


「ブライアン様。私、少しおかしなことを言いますが信じてくれますか?」

「話によるな。悪いが何でも信じる性格ではない」


「信じるか信じないかはお任せしますが、直ぐに領地の小麦を収穫してください」


「あの辺で疫病でも流行っているのか? 全く耳に入ってこないな。疫病なら現地で情報を掴んでいるだろう。わざわざ私が指示を出す話ではない」


「……いえ、間違いなく小麦が被害に遭います」

「私の領地は、前期の収穫は全て備蓄に回し、多少の収穫減は問題にならない仕組みだ。アリアナの頼みでも、私は領民に、不確かな指示を出す気はない」


 あーなるほど。

 今期の小麦が壊滅する被害に遭っても、ブライアン様のルートは平穏な理由が見えた気がする。となれば、間違いない。


「来年、弓馬の褒美は災害復興にかこつけて元に戻ります」

「ははっ。真面目な顔で何を言い出すかと思えば。王太子だって、ありありな嘘はつかない。もっとましな言い訳を考える。一体、どうしたんだ?」


 やっぱり無理か。「甘いマスクの覇者」で、一筋縄では落とせないブライアン様が、私の戯言で動く気がしない。


 あの乙女ゲーム。悪役令嬢のアリアナの話なんて、シナリオで詳細に語られない。

 だから、詳しいことは分からない。


 でも、今の我が家の財政状況は潤沢だ。例え婚約者が見つからなくても、私を隣国の好色おやじに差し出す理由が見当たらない。


 ……だけど、この国の弱みに付け入れば、貿易でのし上がった変態成金に私を、むしろ積極的に嫁がせてもおかしくないのだ。


 この国が台風の被害で小麦を失えば、この先、優雅な夜会を開催するわけがない。


 それなら私は、既に変態おやじの御眼鏡に適った高飛車令嬢だろう。

 心当たりはある。紫の豪奢なドレスを着た私が階段から落ちた日、あのときもうロックオンされたはずだ。


「10日後、大きな台風がこの国の東側を通ります。東には我が家の領地もありますが、ブライアン様の領地もありますよね」

「ああ、アリアナの元婚約者のゲルマン侯爵領と、さっきの令嬢のハエック男爵領に挟まれている」


「お願い。花の祭典の2週間後に収穫を始めるのが慣習だけど、それでは間に合わない。この国の小麦が、台風で全滅します。今から知らせを送れば間に合うし、2週間早めても収穫に大きな問題はないはずです」


「この話はどこから知ったと言うんだ?」

「上手くお伝え出来ません。……言うなら勘」


 この10日のうちに何とかするか、駄目なら逃げるか、その二択。

 渋い顔をするブライアン様は、私の話を信じる素振りは見えないか……。


「……勘? 申し訳ない。私は、自分の見たものしか信じない」


「ごめんなさい、今の話は忘れてください。花の祭典、ブライアン様と来られて楽しかったし、着けてくれた赤い花も、凄く嬉しかった。我が家の父は、今、領地にいるから2週間後じゃないと帰ってきません。取りあえず、この花がしおれる前に侍女に見せてあげたいから、今日は帰りましょう」


 いっときだけ私に夢を見せてくれたブライアン様が、ルーカス様とシャロンに一泡吹かせてくれたのだ。

 ああー、今年の祭りは最高だった。

 2人の顔を思い出し、笑えてきた私はブライアン様にとびきりの笑顔を向けた。


 屋敷で大喜びするであろうエリーに、ちゃんとお礼を言わなくては。


 私の相当におかしな話を、出会って2週間しか経たない騎士隊長様が、簡単に信じるはずもない。

 8年婚約していた、ルーカス様だって信じてくれなかったんだもの。

少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2025年2月1日から集英社 異世界マーガレットさまから本作の電子コミカライズが各電子書籍取り扱いサイトで発売となりました!
 この作品が新たな形になるために応援をいただいた全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■作品タイトル
『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ! あなたがいなくて、こちらは幸せですから

■リマコミ+(集英社の少女・女性向けの漫画を集めた総合配信サイトです!)にて、先行話を配信中

■リマコミ+はこちらから■

よろしくお願いします!
■漫画家様
 美しく作品を彩ってくださった漫画家様は、朝葉ゆき先生です!
 
hdbchy3zdc9jbzq8xkse5xd14zp_4hb_140_1kw_1cw7d.jpg

■コミックシーモアでも先行話を配信中です!

 ■コミックシーモアはこちらから■

よろしくお願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ