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花の祭典。僕たちは、やり直そう

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

最後まで、よろしくお願いします。

 約束の2週間後。

 花の祭典に向かうため、クロフォード公爵様がバーンズ侯爵家の我が家へ迎えにきた。

 今日の彼は、祭りに溶け込めるように、飾り気のないシャツ1枚と黒いスラックス、ラフな服装だ。


「アリアナ嬢。今日のあなたは一段と美しい。もしかして、私とのデートを心待ちにしていたと期待してもいいだろうか」


 流石、乙女ゲームの世界。

 私の顔を見た瞬間、クロフォード公爵様はキラキラと輝く笑顔を向けて、私を口説き始めた。



「一段と美しい」と言われて少し照れた私は、僅かに口角が上がったのは間違いない。


 自分で言うのはおかしいが、元から人目を引く美女の私は、エリーの手に掛かり、私自身が鏡の前で呆けるほど、美しく仕上がった認識はある。


 暴走する侍女のエリーが、緑のワンピースだけでは味気ないと、私の金髪を丹念に編み込んでくれたのだ。


「お褒めいただき光栄ですが、残念ながら違います。私の侍女が勝手に張り切っただけで、クロフォード公爵様のためではありませんから」

 罪悪感はありつつも、彼にそっけなく返した。

 湊の憧れのクロフォード公爵様からの申し出は、素直に言えば嬉しいに決まっている。

 だけど、そんなことは絶対に言うものかと、ふいっと顔を横へ向けた。


 彼が「甘いマスクの覇者」の登場人物となれば、手放しに信用出来ない。

 この世界の私の立ち位置。逆立ちしたって、嫌われ役のアリアナであることは、変わらないもの。

 ルーカス様も好感度を上げるイベントに関係なく、シャロンに惹かれてしまったわけだし。


「あなたのことをアリアナと呼んでもいいかな。それに、アリアナも私のことはブライアンと、名前で呼んでくれないだろうか」

「分かりました。私のことは好きに呼んでください。……ブライアン様」


 名前を呼ぶのが、妙に照れて気恥ずかしい。

 気まずい私は下を向いたまま、馬車の中では何も話さず会場に到着した。


 花の祭典。庶民から貴族まで大勢の人が詰めかける、この国、最大の祭り。

 この日だけは、街の大通りが祭り会場に変わるのだ。


 この祭り、婚約者や恋人がいる未婚の娘は、髪に赤い花をつけて参加する風習がある。

 もちろん、去年は赤いカーネーションを、ルーカス様から髪に挿してもらい参加した。


 エリーが編み込みにした理由は、花がいくつも挿せるからだ。

 私が拒絶しなければ、彼女は赤いカーネーションをつける気満々だった。


 花の祭典に誘われたときに、ブライアン様へ不貞腐れた顔を向けたが、私はこの祭りが好きで、実は、毎年楽しみなイベントがある。それが弓馬だ。


 

 少し前まで、私はブライアン様に警戒心剥き出しだった自覚はある。

 だけど、祭り会場の至る所から聞こえる軽快な音楽と共に、その感情は掻き消え、私の気分は高揚する一方だ。

 そうなると、少し前までの自分の態度が恥ずかしく思える。


「ブライアン様。私、弓馬が毎年楽しみなんです。会場の音楽を聴くと今年も見られるんだなって、ワクワクしてきました。誘われなければ来なかったと思うので、連れてきていただいて良かったです、ありがとうございます」

 それを聞いたブライアン様は、目を伏せて照れたような笑顔を浮かべた。


 毎年、我が家が管理する建物の屋上から、弓馬のイベントを観賞していた。

 大勢の人だかりに紛れることなく、占有スペースで見られるのは最高の環境だ。

 ブライアン様に行きたい所は? と聞かれ、迷うことなくここへ来た。


「……令嬢が弓馬に興味があるとは思わなかったな」


「知っていますか? ここ何年、同じ方が毎回違う偽名で優勝しているんですよ。弓を構えてから打つまでの時間に、全く迷いがなくて、他の方とは全然違うので、いつも分かるんです」

 恐らく知らないだろうと、私は得意げな口調で聞かせた。


 すると、ブライアン様の笑顔が、見る見るうちに驚愕の表情に変わっていく。


「毎回服を変え、頭には兜を被り顔は見えないのに、弓の扱いで見破られるのか……」

 頬をポリポリと掻いて、ブライアン様は気まずそうに視線をずらした。


「えっ? もしかして、飛び入りで優勝していたのは、ブライアン様ですか? 毎年、褒美の馬が欲しくて騎士隊長様が……」

 この男。偽名まで使って褒美の馬が欲しいのか、最低だなと、冷めた視線を送る。


「いや、言い訳をさせて欲しい。褒美の馬が欲しいわけではない。毎年、馬は王城へ返している。だが、正しく世話を出来ない人間の元へ無暗に渡るのが許せなくて。せめて私を超えるくらいに馬を乗りこなせる者なら納得できると思うのだが、毎年現れないだけだ」


「そうでしたか……。失礼な想像を顔に出して申し訳ありません。でも、それを聞いて安心しました。庶民の方が血相を変えて参加しているけど、どうなるんだろうって、私も心配していたんです」


「3年前の100年記念のときに、王太子の意見で馬を褒美にしたのが大反響で、止めたくても引くに引けなくなったようだ。今年、私は出る気がないから3年越しに誰かに褒美が渡り、恐らく来年は従来の賞品に戻るだろうな」

 そう言うと、ブライアン様は挑戦中の参加者の様子を、真剣な眼差しで見ている。


 ということは、胸に焼き付く爽快な姿。もう見られないのか、うーん、……それは寂し過ぎる。


「それだと私の楽しみがなくなりました。こんなに期待させておいて、どうしてくれるんですか? 今年も参加してください」

「そう言われても、アリアナを1人にするわけにはいかないから無理だ」


「大丈夫ですよ。この屋上、店舗の管理人が部外者は入れませんから、毎年ここは私の貸し切りです。出場してくれないなら、もう帰りますよ」

「まいったな……。偽名も考えていないし」

「……ミナト」

 自分の名前を呼んで欲しい湊の感情が、ぼそりと呟く。


「ミナトか……。仕方ない、そこまで言うなら出てくるよ。ミナトが優勝して、褒美を受け取れず嘆く者がいれば、アリアナも共犯だからな」


「ふふっ。まあ私は悪役ですし、問題はありません。早く行かないと、受付が終わってしまいますよ」


 ブライアン様は、了解を笑顔で返して立ち去った。


 こうなれば、ミナトと紹介されるブライアン様が、早く登場しないかと待ち遠しくてたまらない。


 彼の結果は見なくても分かる。馬に乗りながら射る3つの的。毎年、全てがど真ん中に当たるのだ。他の出場者とは、まるでレベルが違う。


 ……でも、王太子ルートで湊がプレイしていたときに、確か褒美の馬は、退任した騎士が受け取ったはず……。

 それは今年の話なのか、それとも来年? そうなると、あれはいつ起こるの?


 まずい。凄く大事な話だ。どうして、こんな大事なことを忘れていたんだろう。

 あまりやり込んでいない王太子ルートの話と合わせて考えると……。



「アリアナ、……やっと君に会えた。あれから屋敷を訪ねても、当主が出てきて、会わせてもらえなかったから、ここに来れば会えると思ったんだ」


 突然、背後から声が聞こえて振り返ると、ルーカス様が私に近づくように歩いていた。


「何故、ここに」

「毎年、アリアナは目を輝かせて見ていたからね。君のことなら何でも分かるさ」

 管理人は、毎年この屋上に来ていたルーカス様を顔パスで通したのだろう……。

 だが、それよりも、五体満足な姿で目の前にいる方が衝撃が大きい。


「どうして……、シャロンと海に行ったのでは?」

 一体、何が起きているのか?

 2週間前にシャロンと海へ行ったのであれば、盗賊に襲われ、今はまだベッドの上にいるはず。


 ルーカス様とは、祭りで会うはずもないと思っていた。それどころか、もう2度と会わないだろうと。


「アリアナが階段から落ちた翌日に、シャロンと悠長に出掛ける気分になれなかった。シャロンとの婚約は解消する意向を男爵へ伝えている」


「……そんな、簡単に解消するなんて、ルーカス様らしくない」


「僕が一緒に過ごしたいのも、大切にすべきなのもアリアナだと、あの日、腕を引かれたときに気が付いた。今なら問題はない、あの婚約破棄は取り消す」


「そんな都合の良い話に私が乗ると思っているの? もう私に関わらないで」


 それを伝えた途端、ルーカス様の表情が険しくなった。

 向けられる視線が脅威に思え、体に悪寒が走る。彼から逃げるように、私の足はじわりと一歩後退した。


「どうして? アリアナだって僕にまだ気があるだろう。あの階段騒ぎの後だ、新しい婚約者も見つかりっこない。気の強い女は可愛くないから、そこは直した方が良いな。黙って僕に従えば丸く収まる。アリアナのためだ、意地を張るのはやめて僕とやり直そう」


 じりじりと迫ってくるルーカス様。こんな彼は見たことない。やだ……怖い。

「やめて、手を離して……」


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